2006/10/22

あなたに不利な証拠として  

著者:ローリー・リン・ドラモンド  訳:駒月雅子
出版:ハヤカワ・ミステリ
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本書を読んで、サラ・パレツキーの「V.I.ウォショースキー」シリーズを思い出した。
V.I.はいつも「女性の権利」が虐げられている現状に怒り、その苛立ちを回りにぶつけつつ、しかしそれを原動力として事件を解決していく。
最初はそれが新鮮だった。しかし最近はV.I.の主張が(正しいのは分かっているのだが)何となく煩く思えてきているのも事実だ。(ハードカバーになったというのもあるが、ここ数作はご無沙汰している)

本書に収められた短編の主人公たちはみな「女性」だ。しかも全員が「警官」であり、その点ではV.I.以上に厳しい現実に直面する局面が多い。(作者自身が元警官で、描かれている「現実」のリアリティはかなりある)
しかし彼女たちは「女性に権利」などは声高に叫んだりしない。
彼女たちが直面するのは「警官」という職務を遂行する上での「困難」であり、そこに派生する「苦悩」である。ストーリーの結末は彼女たちが「個人」として受け入れていくものだ。

ではこの主人公たちを「男性」に置き換えても物語は成立するか?
シチュエーションとしてはあり得るだろうが、作品としては全く成立しないだろう。その意味で、本書は決定的に「女性」の物語なのだ。そのことが本書の素晴らしさであり、作者の力量でもある。
「女性の権利」を掲げるだけでは超えられないな「何か」がアメリカの現実にはあるということかもしれない。
(そういう意味では本書はエンターテイメント小説より、普通小説にズッと近い。まあこんなジャンル分けに大した意味はないけどね)

北方謙三が昔ハードボイルド小説を「男が生きていくうえで必要な『拳』」と言っていた。(彼の書くハードボイルド小説は今ひとつなんだが…)
肉体的に華奢で柔らかな「女性」が必要とする「拳」は、小さいけれども硬く、傷だらけなのかもしれない。



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