2008/11/21

凍  

著者:沢木耕太郎
出版:新潮文庫
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「沢木耕太郎」は好きな作家なんだけど、この作品は単行本が出版されたときに何となく購入を見送っていた。
まあ強い動機があったわけじゃないんだが、「『登山』にあまり興味がない」っていうのが一番かな?
「寒いのが嫌い」
「手足や指が切られたり、損傷したりする話を読んでると、指先の力が抜けてしまう」
っていうのもある(笑)。
(実際、後半に凍傷でやられた指を切断する下りは、読んでて、本が持ちにくくなるくらい力が抜けて仕方がなかった(笑))

で、文庫になったのを契機に買ってみたわけなんだけど、いやぁ面白かった。

日本のトップ・クライマーである山野井夫婦がヒマラヤの山「ギャチュンカン」北壁に挑戦し、登頂には成功するものの、下山途中に悪天候に見舞われ、壮絶な下山行を行った末、手足の指の多くを失うほどの凍傷にかかりながらも生還する。

というのが大筋のストーリーライン。
このドラマチックな展開を、抑えた筆致で淡々と描きながら(作品としては極端に「会話文」が少なく、そのことが一層そういう印象をもたらしている)、「事実」そのものによって、この下山の壮絶さ、山野井夫婦の強靭さを際立たせる・・・沢木耕太郎の卓越した作家としての「力」を改めて認識させられる作品であった。
さすがやね。

作品としては今までの多くの沢木耕太郎のノンフィクション作品に比べると作者自身の姿がほとんど見えず(終章にチラッと出てくるようだが)、ノンフィクション・ノベルの体裁をとったものになっている。
そういう意味では沢木作品の中でも「異色」なのかもしれない。
実際、読み始めた当初は若干の違和感も感じてたんだけど、すぐに作品世界に引き込まれ、あとは一気という感じ。
登山に興味がある人にとっては、臨場感も含めて、堪えられないんじゃないかね。

山野井夫妻は生還後、指の多くを失いながら、再び「山」に向かい、今もまた登り続けているようだ。(本書の最後はその端緒で締められている。そういや泰史氏は最近「熊」に襲われたという報道もあったな)
金銭欲も、名誉欲も、自己顕示欲もないこの夫婦の「今」が、本作の強さを支えている。
「こういう人がいるんだ」
そのことが驚きでもあり、「人間」というものへの(大げさに言えば)「希望」にもつながっている。

いい作品です。

(読み終えて気付いたんだけど、山野井泰史氏は65年生まれで、僕とは同い年。
いやはや、違うもんっす)



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