pop popにとって初の京都ライブが30分後に始まろうとしている時、二人は緊張の色をかくせないでいた。会場となった「さらさ富小路」の店内はライブが見やすいようにとテーブルと席が並び変えられている。「一体何人来てくれるんだろう?」と不安がよぎる。
「大丈夫、(お客さん)来ますよ」と笑顔で言うお店のスタッフ。
その言葉どおりライブが始まる少し前にはぞくぞくとお客さんがやってきてあっという間に店内はほぼ満席状態になった。二人はそれを見てさらに緊張と不安が募った。
ここにいるお客さんたちはpop popを目当てに来たわけではなく「さらさ富小路」というお店の雰囲気や食事が好きで足を運んできた人たちばかりなのだ。お店で美味しい食事をしながら友人や恋人と楽しい時間を過ごそうと思ってきている人達に下手な演奏でもしようものなら「せっかく来たのに」と気分を害して席を立たれるだろう。果たして二人の演奏は受け入れてもらえるのだろうか。
「いつも通りやろう。今までだってこういうアウェイみたいなライブはあった。いつも通り1曲1曲勝負をかけて演奏するつもりでやればいいさ」と二人は気持ちをひきしめて、ライブを始める事にした。
店内の照明がやや暗くなり、BGMがフェードアウトしていった。
夜7時半を少しまわった頃、ライブはスタートした。1曲目は「Life is a carnival」。イントロが鳴りだした途端、さらさの店内がすーっと静まり返っていく。マイクを使わないEmilyの歌声が店の中に鳴り溶け込んでいく。さらさに来たお客さんたちはpop popのライブを見る「観客」へと変わった。
ライブをやっていて手応えを感じる瞬間として拍手の大きさや多さ以外に演奏中の観客の集中力の高さというのがある。特にpop popのようにPAシステムを通さない生音のライブをやっている時にはライブの音量そのものが小さくなるので、観客が音に集中している度合いが強くなるにしたがってやや緊張感を持った静寂が会場を包む。「息を潜めて聞いている」と言ってもいい程の静けさの中で歌とギターだけが鳴り響くという事も珍しくない。
この日のライブでそんな観客の集中力が最高に高まったのは、オリジナル曲「Le chat noir」だった。シンプルに繰り返されるYasakaのギターのフレーズが夜の闇に包まれたどこかの街へと観客をいざない、フランス語で歌われるEmilyの声に観客は歌の主役の黒猫を目で追っているような錯覚に包まれる。そして曲のエンディングでギターの音が消えていく中で観客は黒猫が遠くに去って行き、黒猫が最後にひと声鳴いた瞬間にふっと想像の世界から現実の世界に引き戻されるのだ。
ライブの終盤、「Message in a bottle」の演奏中にYasakaの激しいストロークのせいでギターのブリッジがずれたのか全ての弦のチューニングが狂い、演奏を中断する場面があった。Yasakaは特に動揺する事もなく「52年生まれのギターなんでこういう事もあるんです」と言いながらチューニングを戻し終えるとそのまま中断した箇所から演奏を再開してEmilyもそれに続いた。アクシデントはライブならではのハプニングとしてすんなり消化してしまえたところには昨年100本以上ライブをやってきた経験が役立っていた。
最後の曲は「What's going on」に変わって最近ライブのラストナンバーとして定着しつつあるジャミロクアイの「Too Young To Die」のカバーだった。演奏が終わったあと観客から送られた拍手にpop popの二人は確かな手応えを感じた。自分たちの演奏は京都の人に届いたんだ、と。
そうそう、この日二人にとって嬉しいサプライズがあった事を付け加えておこう。記念すべき初の京都ライブに名古屋からpop popを追っかけて見に来てくれた人たちが二組いたのだ。pop popの演奏が京都の人に喜ばれているのを見れた事は追っかけ組にとっても追っかけてきた甲斐があったと言えるのではないだろうか。
こうして初のライブは無事成功に終わった。しかし、pop popの二人には「初めての京都ライブにしては上出来」と言うだけで、例えていうなら「ベストを尽くせた結果、とりあえず「1-0」で勝てた試合だけれどベストを尽くしても1点しかとれなかった」みたいな内容であり、まだまだ自分たちがもっと聞かせられるライブをできるようにならなければとも思っていた。
「次回いつ来れるかはまだわからないけど、新緑の見れる頃にまだ戻ってきたい」とYasakaはライブ中に話していた。きっとその時二人は今回のリベンジにかけるだろう。
[ setlist ]
-1stage-
1. Life is a carnival
2. Don't get me wrong
3. Wonderful Tonight
4. Dancing in the street
5. In My Life
6. Turn Me On
7. Just the two of us
8. Wonderful world
9. Mother's Little Helper
10. Close To You
-2stage-
1. Hard to say I'm sorry
2. Helpless
3. Le chat noir
4. God only knows
5. Kiss Of Life
6. Don't think twice It's alright
7. Where The Streets Have No Name
8. Message in a bottle
9. Too Young To Die

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