雪解け(桜薫る番外編) 1.本の虫

2010/10/30  3:28 | 投稿者: おるん

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◇◆◇1.本の虫

今日、白薔薇学園高等学校に入学した。
本来なら今日が初登校なのだが、入学式の新入生代表に選ばれたと言う事で、先週も宣誓を考えるために学校に呼ばれていた。
てっきり、その宣誓の内容を見てくれた先生が担任なのだと思って登校してきたのだが。

1年A組。昇降口に貼り出されたクラス分け表。
自分の名前を確認した後、担任教師の名前とクラスメイトの名前、教室の場所を確認する。
担任の名前に綾川司とあった。あの先生が綾川司…なんだか似合わないなと思って教室に入る。
教壇に物凄く若い男の先生が立っていた。
スラッと背が高く、色素が薄い軽やかなストレートの髪、色白で端正な顔立ちに口元の黒子がなんとなくセクシーだ。
あぁ、なるほど、この人が『綾川司』ならピッタリかもしれない。そう思った。

チャイムが鳴って、入学式の式次第が配られ、簡単な説明を受けた後、講堂に移動した。
出席番号順に座るのだが、新入生宣誓のために真ん中の通路側の最前列に座らされた。
校長や理事長の式辞、祝辞に続いて生徒会長の歓迎の辞が述べられた。いよいよ宣誓だ。

中央に置かれたスタンドマイクの前に立つ。
幸い、舞台の方に向かって話すので、新入生や保護者の視線は気になるが、直視しなくて済む。
「桜の花も咲き誇るこの良き日に、私達は晴れてこの白薔薇学園高等学校の生徒となりました。
本日は私達新入生のためにこのような盛大な式を開いていただき誠にありがとうございます。
私達はこの学園に相応しい人となれる様、諸先生方、先輩達に暖かいご指導をいただきながら、
たくさんの友人を作り、力を合わせ、勉学や部活動に励み、充実した三年間を過ごすことを誓います。
2008年4月7日、新入生代表、1年A組、草間薫。」

最後にブラスバンドの伴奏で校歌斉唱が行われて式が終わった。

講堂を出て、教室に戻る。教室に入る直前に綾川先生が言った。
「草間君、宣誓、良かったですよ。」
文章はほとんど先生が考えたもので、例年と変わらない内容なのだから、褒められても嬉しくないが…。
若い先生だし、折角だから素直に喜んでおこうか。
「ありがとうございます。緊張しました。」
「とてもそんな風には見えなかったですよ?立派でした。」
「…ありがとうございます。」
先生はニコニコ微笑んでいたが、なんとなく本心じゃないような気がしたし、こちらの心境も見透かされているようで嫌な感じだ。

教室に入って、改めて先生の自己紹介を聞いた。なんと新任二年目で担任を持つのはこれが初めてだと言う。
おいおい、大丈夫か?国語教師だと言っていたな。このクラスの国語、どうなるんだ?
そんな不安が顔に出ていたらしく、先生に指される。
「じゃあ、草間君から自己紹介をお願いしようかな?」
「え?あ、はい…。」
立ち上がって自己紹介をする。
「初めまして、草間薫です。板橋から自転車で通ってます。趣味は読書です。よろしくお願いします。」
積極的に友人を作りたいわけでもないし、無難にしておいた。
そうして、部屋の端から順番に全員の自己紹介が続いた。
興味はなかったが、今後名前を呼ぶのに困るだろうと、一応顔を名前を確認しておいた。

自己紹介の後、各委員を選出すると言う。
どの委員でも、どうせ自分から立候補してやりたがるヤツは居ないだろう。
学級委員に推薦されても嫌なので、推薦される前に図書委員に立候補する。
「先生、図書委員をやりたいです。」
挙手して立ち上がった。
「草間君の他には居ませんか?…では、男子の図書委員は草間君で決まりですね。他はどうですか?」
それから、女子の図書委員、保健委員、文化委員、体育委員が立候補で決まった。学級委員、風紀委員、環境委員が決まらず、先生が出席番号の若い人から順に割り振った。

そのまま終礼となって今日は終わりだ。
帰ろうとしていたところ、先生が呼び止める。
「草間君、保坂さん、図書館にご案内したいと思いますが、いかがですか?」
「…。」
「あぁ、私は図書委員会の顧問なのですよ。」
なるほど。一瞬、面倒だなと思ったが、そうであれば話を聞いておいてもいい。
先生が微笑む。面倒だと思ったことが見透かされていそうでバツが悪い。
三人で図書館に向かって歩く。
「二人共、どんな本が好きですか?」
「…。」
先生が聞いてきて、黙っていると、保坂が答えた。
「私、恋愛小説が好きです。あとは少女漫画ばっかり。」
「そうですか、読みやすくていいですよね。漫画でも色々ありますし。…草間君は?」
先生はさらっと大人の対応をした。俺だったら露骨に呆れてしまいそうだ。
「自分は何でも読みますが…、子供の頃から好きなのはSF小説でしょうか…。」
「ほう、たとえば?」
「そうですね…。わかりやすいものだと、ジュール・ヴェルヌ、ウェルズ、あと、筒井康隆とか眉村卓とか星新一とかでしょうか。」
「あぁ、有名どころですね。」
「先生はどんな本が好きなんですか?」
「私は日本の古典が大好きなんですよ。笑われるかもしれませんが、源氏物語が特に。」
「へぇ…。女の人のイメージがあって、読んだ事がないです。」
「面白いですよ?原文のままは流石に難しいですから、現代語訳のものを是非読んでみて下さい。田辺聖子のものが一番読みやすいと思います。確か、図書館にもありますから、借りて帰っては?…保坂さんも、恋愛小説好きなら読めるかもしれませんね。」

図書館に入って、一通りの説明を受ける。
さっき言っていた田辺聖子の源氏物語の最初の一冊を借りて帰った。
読んでみるとなかなかどうして、人物が生き生きと描かれて面白かった。
後日、先生に感想を伝えると、微笑みながら別の古典を紹介してくれた。
それも読んで感想を伝える。しばらくそのやり取りが続いた。
先生は古典ばかりかと思っていたら、戯曲だったり、哲学だったり、はたまた写真集、画集まで幅広く紹介してくれた。
教師になってまだ二年目だと言うから、これだけの本を知っているというのは教師になる以前から大量の本を読んでいるということだ。
しかも、先生が薦めた本はどれも面白く、俺がどれほど無知であったかを思い知らせた。
この人のようになれたらいいな、と淡く思うようになった。

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1.本の虫
2.正反対>
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2010/10/30  22:17

投稿者:おるん

>紫さん
ありがとうございます☆
くっきり対比できるほど技術が無いのですか(^^;)、彼の心が溶けていく過程を書きます。
楽しみにしていただけると嬉しいです♪

2010/10/30  22:10

投稿者:紫

桜ちゃんと出会う以前の会長のお話ですね。
どんな感じだったのか興味津々です♪
先に桜ちゃんと会ってからのお話を読んでいるので、対比させて読むことができるので、変化がわかりやすくていいですね。

2010/10/30  3:37

投稿者:おるん

桜薫るの番外編。会長の少し過去のお話です。

薫君は中学の一件があって以来、余り他人と関わらなくなります。
(といいつつも中学でも生徒会長をしていたのですが。)
本編中でも桜ちゃんに会って変わったと言っていますが、
そんな急には変わらんだろうということで、
その辺りの彼の変化を書いていきます。

そんなに長編ではないので、軽く読んでいただけたらと思います。

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