IF 24.旅立ち

2019/1/2  23:45 | 投稿者: おるん

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#この物語はフィクションであり、
登場する人物・施設・団体は実在のものとは何ら関係ありません。
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◆◇◆24.旅立ち◆◇◆

バレンタインデー。
あちこち連れて行ってくれたり、こまごまとプレゼントしてくれる信弘に何かお礼がしたいと思って、クッキーを焼くことにした。

「お菓子ってあんまり作ったコトないねんけどな…。」

料理は必要に迫られて、自分が食べたいもので手が掛からないものは一通り作れるようになっているけど、お菓子は作ったことがない。
材料を計量して、レシピどおりに作る、ということが大雑把な私には出来ないのだ。

「オーブンがないからケーキはちょっと難しいけど、クッキーくらいなら何とか…。」

秤も計量スプーンすらない我が家。
薄力粉と砂糖をふるい、溶かしバターに溶き卵。
大体2等分にして片方にはココアパウダー。
こねて生地を作り、棒状にする。
市松模様になるように組み上げてラップで包んで冷蔵庫で寝かす。
生地が固まったら、包丁でスライスして、フライパンで弱火で焼く。

分量もレシピも昔どこかで見たうろ覚えでやってみたけど、案外上手く出来た。
私って天才!!

透明のラッピングバッグに詰めて、袋の口をリボンで結んだ。

昼に信弘と難波で待ち合わせてランチ。
パスタを食べた後、クッキーを渡す。

「信弘、いつもありがとう。これ…今日、バレンタインやし。」
「お?クッキー?カナ、お菓子作れたん?」
「んー、今日初めて作った。」
「え?そんなん食べて大丈夫かいな…。」
「味見してきたけど、結構美味しかったから、大丈夫やと思う。」
「どれ…。うん、バターが多めで美味しいな。」
「ウチにオーブン無いから、フライパンで焼いた。」
「へー、オーブン無くてもクッキーって焼けるねんな、知らんかったわ。」
「私も思いつきでやってみたけど、案外できるもんらしい。」
「思いつきって…そや、ほんなら、お菓子のレシピ本探しに行こか?」
「うん!」

店を出て、本屋に向かう。
街はバレンタインデー一色。
日曜日の今日は、カップルがいっぱいで賑わっている。
私と信弘は下手したら親子って言われてもおかしくないくらい歳が離れてるけど、これだけの人混み、そんなことを気にする人は居ないだろう。

難波駅の近くを歩いていると、人混みの隙間から一瞬、見覚えのある顔が見えた。

ナッコとあっちゃん。
仲良く腕組んで歩いてた。
そっか、二人、付き合いだしたのかな。
…私とはとっくに別れてるんだから全然構わないのに、ヤキモチなんて自分勝手だな、私。

「どした?」
「ん?なんでもないよ。人が多いなーって。」
「そやな、お前チビやからな、はぐれるなよ。」


◇◆◇


ホワイトデーも終わって、もうすぐ春になる。
信弘には随分あちこちに連れていってもらったり、色んなことを教えてもらった。
世の中には楽しいことがたくさんあるのだと知った。
まだまだ知らないことが山程あって、これからもっともっと勉強していこうと思う。

ほんの少し背伸びしてかじってみた水商売の世界は、世の中を舐めた子供には甘く見えたけど、悪い大人がいて搾取しようとする訳だから、軽い気持ちで入る世界ではないということが分かった。

美術館を訪れた帰り。信号待ちの車の中で、運転席に座る信弘が私の顔を見て言う。

「カナも大分見れるようになってきたな。」
「え?どういう意味!?」
「良い顔してるで。可愛なった。」
「そ、そうかな?」

面と向かって言われると照れる。
そんな私を見て、信弘が私の頭をポンポンと叩く。

「そうやで。聡明そうで、仕草も綺麗になった。顔色も良いしな。」
「元々やろ?」
「ははは!ちょっとは俺に感謝せえよ、ほんまに。」
「うん。ありがとう。…最初、そんなに酷かった?」
「ああ、酷かったな。」

信号が変わって、車が動き出す。

「無理してるの、まるわかりやったし。似合わへんことしてるなーって思った。」
「じゃあ、なんで指名してくれたり、同伴してくれたりして、ひいきにしてくれたん?」
「只のアホそうな子に見えんかったから。喋っとっておもろかったからな。
ほんならまあ、簡単にホイホイついてくるがな。
こらアカンと思ったし、他の男に騙されるくらいなら手元に置いといたろと思って。」

運転している信弘はこっちを見ない。
信弘の横顔はいつもどおりの穏やかな顔。

「なんか、そう言われると恥ずかしいな…。」
「カナもそれだけ大人になったっちゅうことやな。
…カナも16歳になったんやな。結婚できる歳やで。」
「え!?信弘、私にプロポーズ!?」
「あほか!お前みたいなガキンチョとするか!」
「それもそやな…って危ない!前見て!!」
「うるさい!しょーもないこと言うからじゃ!黙っとれ!」

運転中の横顔は、ヘラヘラ笑っていたかと思うと、仏頂面になった。
しばらくして、私の家の近くまでやってきて路肩に停車する。
前を向いたままの信弘が喋りだした。

「結婚と言えば…、嫁さんとやり直そうと思って。」
「そうなん!奥さん帰ってきてくれるん?」
「おう。ちびさいの連れて帰ってくるわ。」
「よかったね!ちびさいのって、お子さんいくつ?」
「5歳やねん。女の子。お前にちょっと似てるかもな。」

そう言って信弘は私の方を向き、くしゃっと顔を綻ばせた。

「ははっ!そりゃいいな。可愛い子になるで、大事に育ててよ。」

少しの間が空いて、信弘が深呼吸し、落ち着いた声で言う。

「ほんまやで。そやから、会うのは今日で終わりにしようと思う。構へんか?」
「…うん。どうかお幸せに。」
「お前もな、圭子。良い女になれよ。」
「バカ。本名止めてって言ったのに。最後やから許したる。」
「これが最後のプレゼントや。ちゃんとこれが似合う女になれよ。」

手渡された細長い箱を開けると、小さな石がついたペンダントが入っていた。

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「ん?もしかしてダイヤモンド!?」
「一応な。大したブランドのものじゃないけど本物やから大事にしいや。」
「また無理して!」
「ほんまやぞ、嫁さんにバレたら怒られるわ。」

ほんと、無理してバカやな。
こんなプレゼント、なくたって全然構わへんのに。
本当に今日で最後なんだと、実感する。

「…なんかお礼したいのに…急に言い出すから。」
「いらんよ。バレンタインデーのクッキーのお返しや。
…また縁があったらどっかで会うやろ。」
「うん…。」
「じゃあな。」
「うん。バイバイ。」

泣きたいのを我慢して車から降りる。
笑顔で手を振って、信弘を見送った。


-続く-

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1.序章
23.冬のできごと
25.終章
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