〜コネタ 404〜
日本で唯一の“三助”がいる銭湯
昨今、「スーパー銭湯」に出向く人は多いと思う。
しかし、そこから「スーパー」の文字を外した、
スタンダードな「銭湯」に訪れる人は多いか?
少なくとも、私の周りにはいない。
思うに自分も、ここ数年は行っていないかも。
ウチに風呂はあるし、わざわざ行かないというのが実情だった。
だけど最近の尋常ではない寒さには、
私も久々に銭湯への食指が動いたというか。
そして、たまに行くならこんな銭湯。
10数年ぶりに向かった銭湯は、
東京都荒川区にて営業する「斉藤湯」。
こちらの湯を味わうことに決めました。
それにしても、どうして「斉藤湯」を選んだのか?
それは、コチラには“日本で唯一の三助(さんすけ)”である、
橘秀雪さんがいらっしゃるからだ。
この「三助」という言葉、皆さんには聞き馴染みがないと思う。
説明しよう。
銭湯には“番頭”という役職があり、
昔は一つの銭湯に数人の番頭がいた。
そして、最も偉い番頭を“一番番頭”と呼ぶ。
番頭さんは一日の燃料を用意したり、湯加減の調整をしたり、
浴室内の掃除をしたり、様々な仕事を抱えている。
だが、一旦営業が始まれば、
一番番頭は途端に暇になるそうなのだ。
後輩の番頭に、湯加減などの指示を出しておけばいいから。
そこで一番番頭は、
お客さんの背中を流したりマッサージをする
「流し」を行うことになった。
「流し」をしたり、かまだきをしたり、番頭をしたり、
様々な仕事を掛け持ちして助ける。
そこから、この役職を「三助」と呼ぶようになった。
ということは、三助には一番番頭しかなれないのだ。
ちなみに、この「三助」というネーミングは
お客さんが名付けたもので、
プロの側が「お〜い、三助!」
という使い方をすることはない。
そんな三助も、今や斉藤湯にしかいないのだから、
体験しない手はない。
まずは番台で入浴料450円(12歳以上)と、
「流し」料金400円を支払うと、
「ながし」と書かれた木の札を渡される。
浴室に入り、この木札をわかりやすい所に置いておく。
イキな人は、木札を濡らして鏡にペタッと貼り付けておく。
すると、橘さんがやって来て体を洗ってくれるのだ。
私も、カッコつけてそれを実践。
そうすると、奥から味ありまくりのお父さんが登場。
この方が、“日本で唯一の三助”である橘さんだ。
まずは、あかすりで背中をゴシゴシしてくれる。
「痛いかも」と予想していたのだが、実際は全然痛くない。
そして、腕、肩、腰と洗い進めてくれる。
その後は、マッサージ。
肩はもちろん、腕や背中や腰のツボを押す。
肘を使って肩を押してくれたり、テクニックも豊富!
そして、痛みがまったくない。
それなのに、洗ってくれた腕を見ると真っ赤になっているのだから、
洗い残しは皆無。
これぞ、匠の技である。
この橘さんは、昭和14年生まれの71歳。
15歳で富山県氷見市より上京。
斉藤湯の初代・ご主人夫婦の奥さんと親戚だった橘さんは、
斉藤湯にそのまま就職。
以来、50年以上を斉藤湯と共に生きてきた。
橘さんの一日の仕事は、昼の12時の「かまだき」に始まる。
そして、夕方4時から営業開始。
営業中は「流し」をしたり、浴室の整理をしたり。
そして営業終了後の掃除で1日の仕事が終了。
この頃になると、時計の針は深夜の1時を指している。
そして、私が体験した「流し」だが、
これは誰かが手取り足取り教えてくれたわけではなかった。
では、誰が“先生”になってくれたかというと、お客さん。
昔のお客さんは肉体労働の人も多く、クタクタで銭湯に訪れる。
なので、「流し」に対する注文も具体的。
「腰を押してくれ」「肩をもっと揉んでくれ」
というリクエストを聞いていくうちに、
橘さんも「流し」のテクニックを覚えていった。
昔は家庭にお風呂もなく、銭湯は労働者にとっての憩いの場。
1日に40〜50人のお客さんを相手に「流し」をする事もあり、
橘さんにとっては嬉しい悲鳴。
ちなみに、私は夕方の5時くらいにお伺いしたのだが、
橘さんに
「僕は今日で何人目ですか?」
と質問したところ、
「3人だよ。全然ヒマだよ(笑)!」
と橘さんも自嘲気味。
現在、1日に「流し」を頼むのはだいたい5人程度で、
多い日でも10人程度だという。
橘さんも「寂しいよ〜」と漏らすほどなので、
興味がある人は体験しに行ってほしい。
実際、土日になると「流し」目当てで斉藤湯に訪れる人もいる。
遠くは北海道や九州、大阪から、
橘さんの「流し」を体験しに来るお客さんがいるのだ。
これは、東京に用事があったとき、
「せっかく東京に来たのだから、斉藤湯に行ってみたい」
と、楽しみにしていた人たち。
そのお客さん方からは年賀状も届くというのだから、
いかにも“下町の風呂屋”らしき触れ合い。
まるで、ドラマのようだよ!
そして、斉藤湯では毎月1回、
天然素材を使った「変わり湯」を実施。
冬季は、きんかん、たんかん、ぽんかんを入れるのだが、
これは鹿児島県の南さつま市と屋久島より
「是非、使ってください!」
と無償で送ってきてくれるもの。
2月には、「斉藤湯」を営む斉藤家の奥さんの実家・栃木県茂木町より、
奥さんのお父さんが送ってきてくれる。
夏季は、栃木よりよもぎを送ってくれ、それを使った「変わり湯」を。
「みんなには感謝しても、しきれねぇんだよ〜!」
と、斉藤湯のご主人も感慨深げ。
これぞ、下町の物語。
「流し」と「変わり湯」を体験しに、
荒川区に足を運んでみてもいいのでは?
ちなみに、「流し」は女性にもやってくれるというから、
お風呂好きの女子もドンと来いです。
(寺西ジャジューカ)
お世話になったのは、
「
http://www.excite.co.jp/」
エキサイトのコネタです。

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