丸橋賢著「退化する若者たち−歯が予言する日本人の崩壊」(PHP新書)という刺激的な題名に惹かれてこの本を買いました。
カバーには、「地べたにしゃがむ男、痩せた小顔の女、それは退化だった!? 不登校、ニート、無気力、の身体的原因を解明!」とまであります。
著者の丸橋氏は咬合治療を専門とする歯科医です。
咬み合わせ(かみあわせ)の悪さは、肩や首のコリ、頭痛、吐き気、めまい、耳鳴り、微熱、動悸、ふるえ・しびれ、アトピーなどなどさまざまな身体症状の原因となるんだそうです。なんと、精神・神経的異常の原因にもなるんだとか。
そういえば、今年3月、高校の卒業式に行って気になったことがあります。
男子生徒がみんな、ひょろっと背が高く、一様に猫背であること。
不登校にはならず、卒業できた子たちでしたが。
猫背の原因は咬み合わせの悪さだそうです。
その原因は、甘くて柔らかい物しか食べなくなったこと。
この本が訴える深刻な事態を私も憂えます。
ただし、「退化」という言葉の多用には違和感を覚えました。
ポケモンのヒット以来でしょうか、「進化」という言葉が濫用されています。
従来なら、「進歩」というべきところで「進化」という。
「進化」の反対が「退化」だと思うのですが(いや、退化というのは進化の一種でしょうね。要らないものが小さくなるんですから)、これは本当に退化でしょうか?
「進化」だの「退化」だのというのは、何万年、何十万年という時間のスパンで遺伝的形質が変わることだと思います。
現代の顎が細く、小顔の若者たちが産んだ子どもたちに、小さいうちから固いものを食べさせ、十分に咀嚼(そしゃく)させたとしたら、がっしりした顎をもった青年になるんじゃないでしょうか?
「纏足(てんそく)」を強いられた昔の中国女性たちの子孫の足は、たぶん小さくはない。遺伝情報が変化したわけではありません。
こういう食生活や外部からの拘束などによる未成熟や変形を「退化」とは呼ぶのは、学術的には誤りではないでしょうか?