水蓮が見ごろをむかえた5月31日、當麻寺中之坊で写仏の会(写仏講習会)が行われました。
150枚もの名画がはめ込まれている写仏道場(絵天井の間)で、写仏はほとんど毎日体験できますが、年に2回開催される写仏の会では、下絵を制作された仏師の渡邊勢山さんと載方さんの丁寧な指導が受けられます。(勢山さんと載方さんも天井絵を奉納)
中之坊の写仏は、下絵(薄墨で描かれた仏さま)の上を筆でなぞるというもの。写経に比べてまだ一般的ではないかもしれませんが、昨年より載方さん指導の「水彩写仏の会」も発足し、4年目を迎えた中之坊の写仏は徐々に定着しつつあるようです。
昨年代官山で行われた「十三佛展」でも特別企画として写仏講習会を実施。始めは戸惑い気味だった方々が、満足げな表情に変化していく情景を思い起こしました。
この日の参加者は50人。10人ちょっとのリピーターさんもいらっしゃるようですが、今回はどんな写仏の会になるのでしょう。
まずは運筆の練習です。お顔のパーツなどが描かれた下絵の上に、おそるおそる筆を運ぶ参加者たちの表情は真剣そのもの。
席の間を回り、時にはホワイトボードに向かい、勢山さんの指導にも熱がはいりました。
1時間ほどがあっという間に過ぎ、少し休憩をしていよいよ本番です。
これからは自分自身が仏さまと向き合う時間・・・ほとんどの方が半身像ですが、難易度が高い全身像を選ばれているリピーターさんもいるようです。
副住職の松村實昭師と共に全員で般若心経を唱えた後、それぞれが筆を持ったとたんあたりに静けさが漂いました。
シャッター音がとても大きく感じられ、そっと場所を移動するのさえはばかれるほどの静寂・・・この感覚は何度経験しても不思議です。
全ての方たちが筆を運ぶことにのみに集中し、自身の仏さまを表そうとしているからでしょうか。
私自身も2年ほど前に初めて写仏を体験。それまでに経験したことのない緊張感と充足感を味わい、事あるごとに友人・知人に「写仏良いよ〜」と勧めてしまいます。
今回、そんな私の勧めに乗ってくれたのがTさんご夫婦。
お二人とは旅先で知り合い、以来10年以上のお付き合いになるのですからこれも縁なのでしょう。
実は、私と会うなり、奥さんの弥生さんの開口一番が「今日(の写仏)は見学よ」。
無理に勧めてしまったかな〜と少し反省したのですが、ご主人はやる気満々です。
写真を撮りながら密かに観察をしていたら、あまり乗り気でなかった弥生さんの様子が変ってきたことに気がつきました。
あれ?手を上げて、勢山さんに質問までしているではありませんか!
チラッと覗くと、ご主人より繊細な線を描いています。
ああ、良かった!と、まずは一安心でした。
勢山さんとお弟子さんの気さくで解り易い指導と講評に、それぞれの仏さまを手にした方々にも笑顔がこぼれ、会場は和気藹々とした雰囲気につつまれています。
座ることが困難な方のためには椅子席が用意され、中之坊さんの配慮も心温まるものでした。
20代から80代と幅広い年齢層の方たちが、それぞれの体験・想いを持ち帰ることができたに違いない写仏の会。リピーターさん達との思いがけない再会も嬉しいことの一つです。
そして、この日の私の一番の喜びは、気乗りがしない様子だった弥生さんの激変振り。描き上げた観音様を見る満足げな表情に、私まで嬉しくなってしまいました。
また事あるごとに写仏を勧めてしまいそうです。