噴火列島時代に突入した日本
でも、もっと恐ろしい「予言」もある
日本は、言うまでもなく
「地震国」であり、
「火山国」です。日本の国土面積は世界の0.28%ですが、世界の地震の10%は日本で、また火山活動は7〜10%が日本で起きています。
地震や火山の活動には、揺らぎがあります。つまり「活動期」と「静穏期」があり、行ったり来たりするとされますが、
今の日本列島は明らかに「活動期に入っている」と専門家は警鐘を鳴らしています。
以下は、地震学者として有名な島村英紀先生が、時事雑誌「IRONNA」に寄稿された文です。
さる
5月30日、小笠原諸島の近海でマグニチュード(M)8.1という巨大な地震が起きた。地震が起きた深さは約680キロメートル、これは東京から函館までの距離にあたるから、とても深いところで起きた地震である。この種の深い地震は
深発(しんぱつ)地震と言われる。
地震の影響でエレベーターが止まり、六本木ヒルズの高層階に座り込んで復旧を待つ人たち=5月30日夜、東京都港区
この地震では小笠原母島や神奈川県で震度5強を記録したほか、
北海道から沖縄県まで47都道府県で震度1以上の揺れを観測した。全部の都道府県で有感になった地震は初めてのことだ。近年でいちばん大きな地震だった東北地方太平洋沖地震(東日本大震災、2011年)でさえ、全都道府県では有感地震ではなかった。
「深発地震」のメカニズム
そもそも地震はプレートの中とすぐ近くでしか起きない。このため浅いところでは世界あちこちで地震が起きるが、
世界でもプレートがたまたま深くまで潜り込んでいるところだけ、こういった「深発地震」が起きる。
起きる場所は今回のような
日本南方の海の深部のほか、日本海の深部、南太平洋のトンガ・ケルマデック地域や、サイパン・グアム島の地下や、南アメリカの太平洋岸の地下など、ごく限られたところだけだ。
世界でいちばん深い地震は今回くらいの深さ、つまり約700キロメートルの深さで起きる。とても深いようだが、地球の半径でいえば、せいぜい1/10くらいまでしか起きない。
では、その限界の深さはどうやって決まっているのだろう。それは
太平洋プレートのような「海洋プレート」が地球の中に潜り込んでいっている下限なのである。
近年、日本で起きている地震と火山活動は、地球最大の「太平洋プレート」が、20世紀後半から東西南北全方向へ急速に拡大し始めたことが原因である。その結果、太平洋プレート内部と周辺プレート境界の地殻内部に膨大な圧力エネルギーがたまり続けてきた。それがついに限界を越え、人間界に牙を剥いたのだ。
いや、正確に言えば、深発地震が起きることによって、そこまで海洋プレートが潜り込んでいることが知られるようになったのだ。
たとえばロシア東部の沿岸の地下700キロメートルのところで深発地震が起きたことがあり、このことから太平洋プレートが日本海溝から滑り台のように地球の中に潜り込んでロシア東部の地下にまで達していることが分かったのである。
だが、世界の深発地震がいつもこの深さまで起きているわけではない。
たとえば同じ太平洋プレートでもアリューシャン海溝では地下200 〜 300キロメートルまでしか深発地震が起きていない。つまり太平洋プレートはこの辺までしか潜り込んでいないことが分かっている。
また、やはり海洋プレートであるフィリピン海プレートは南海トラフから西南日本の地下に潜り込んでいるが、その深さは約100キロメートルまでにしか達していない。
これは、フィリピン海プレートやアリューシャン列島での太平洋プレートが海溝から潜り込みはじめたのが比較的新しい時代からだったことを示している。
灰の傘、山肌走る火砕流=噴火の口永良部島(2015.5.29)
超巨大地震の影響を指摘する学説も
5月30日の深発地震が起きたのは太平洋プレートが沈みこんでいった先なのだが、東北地方太平洋沖地震は、同じ太平洋プレートが沈みこんでいったばかりのところで起きた大地震だ。
このため、浅いところで起きた海溝型の大地震が、同じプレートの深いところにも影響を与えて、この深発地震を引き起こしたのではないかという学説がある。
東北地方太平洋沖地震と今回の地震は1000キロメートルあまり離れているが、さしわたし1万キロメートルもある巨大な太平洋プレートにとっては、そう遠い距離ではない。
その意味では地震エネルギーが溜まっていて地震に近づいていた深発地震に影響してしまったとも言えるのである。
太平洋プレートは本州の東方では日本海溝から、そしてもっと南では伊豆小笠原海溝から地球の中へ潜り込んでいっている。
東北地方太平洋沖地震が起きたことによって太平洋プレートの潜り込みが一時的に加速されて、この深発地震が起きたのではないかと考える学説なのである。
じつは2012年と2013年にもオホーツク海で巨大な深発地震が起きており、これらも、今回の深発地震と同じように東北地方太平洋沖地震の影響で起きていた可能性がある。
地震と火山活動の相関関係
東北地方太平洋沖地震は、浅い地震や日本列島の各地にある火山にも大きな影響を及ぼしている。この地震をきっかけに、首都圏など東日本各地で直下型地震が起きているほか、各地の火山活動も活発化している。
世界でこの東北地方太平洋沖地震なみの、つまり
M9という大地震はいままで7つ知られているが、日本以外の全部で、
「一日あとから5年以上あとまで」に「近く」(遠ければ1000キロメートル以上のところ)で「複数の火山が噴火」しているのである。
日本は2014年9月に御嶽山が噴火して戦後最大の火山災害になってしまったが、この噴火は火山の噴火としてはとても規模が小さいものであった。
世界の例に照らしても、昨年の御嶽の噴火だけですむとは考えにくい。
御嶽山噴火(2014.9.27.)
東北地方太平洋沖地震の余震は少なくとも数十年以上は続く。日本列島に起きる地震や火山への影響も4年で終わったとは考えられないので、
これからまだ、じわじわ、影響が拡がってくる可能性が高い。
もっと恐ろしい「予言」も
ところで、深発地震についてもっと恐ろしい「予言」もある。
大きな深発地震が起きると、引き続いて同じプレートの上のほうで、つまり浅いところに大地震が起きるという学説があることだ。
この学説の論文では2003年に北海道十勝沖で起きたM8.0の大地震の2ヶ月前に、同じプレートの深さ500キロメートル近いところで起きたM7.1の地震が起き、13年前には深さ約600キロメートルで起きたM7.2の地震が起きたことを述べている。
十勝沖地震の津波で海岸壁に乗りあがった漁船=2003年9月26日、北海道広尾町の十勝漁港
また1952年の北海道十勝沖で起きたM8.2の大地震の2年前に、同じプレートの300キロメートルあまりのところで起きたM7.5の地震が先行したとも述べている。そのほかにも小さめの地震が数年以内に比較的多く起きてから、これらの浅い大地震に至ったという。
つ
まり、大きな深発地震が起きると、それによってプレートの「留め金」が外れて、数年後、あるいは数十年後に浅い海溝型の大地震が誘発される、という学説なのだ。
もしこの学説が正しければ、
やがて、首都圏を襲う地震、そして震源が浅いがゆえに大きな津波を発生する地震が起きるかもしれないのである。
◎島村英紀(しまむら・ひでき)
武蔵野学院大学特任教授。1941年、東京生まれ。東大理学部卒。東大大学院終了。理学博士。東大助手、北海道大学教授、北海道大学地震火山研究観測センター長、国立極地研究所長などを歴任。
専門は地球物理学(地震学)。『火山入門―日本誕生から破局噴火まで』(NHK出版新書)、『直下型地震―どう備えるか』(花伝社)、『日本人が知りたい巨大地震の疑問50』(ソフトバンククリエイティブ)、『新・地震をさぐる』(さえら書房)など著書多数。

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