2009/7/31

ネットの恩恵に浴する〜美術作品に関するリサーチ  文化・芸術(展覧会&講演会)

 スクール・ギャラリートークでは、ボランティアはあくまでも児童生徒の作品鑑賞のサポーターとして、彼らが作品を見て感じた思いや考えに耳を傾けることに力を注ぎます。とは言え、西洋美術全般に関する基礎的知識はもちろんのこと、ツアーで案内する作品についても事前に調べて、トークに臨んでいます。

 調べる際に特に参考になるのは、美術館が発行している「年報」で、それには作品所蔵年度に担当学芸員による調査結果がまとめられています。しかしページ数にして2〜3ページなので、それで完璧というわけには行きません。やはり、それを基本にボランティアが自分で情報を集め、肉付けして行くことになります。どうしてもわからない場合は、教育普及室の担当者を通じて担当学芸員に質問も可能なのですが、立場上そう気易く尋ねることはできません。

クリックすると元のサイズで表示します さて、昨日ですが、先日こちらでも取り上げた、17世紀オランダの画家エドワールト・コリール作のヴァニタス画《ヴァニタス〜髑髏と書物のある静物》の中で、上述の年報記事でも言及がなく、かねてより不明であったモチーフについて、私なりに調べてみました。昨今のネットは便利ですね。世界中でマニアックな事柄についてまとめて、ネット上で公開して下さっている方がいます。おかげで、自宅にいながらにして世界中の資料に目を通し、調べることができました。今度ばかりはネット社会に感謝&感謝です。

クリックすると元のサイズで表示します 今回調べたのは、拡大写真の、ろうそく立ての手前にある細い筒状の容器に紐で繋がれた手前の黒い円筒形の物体と、その背後にある、筒状の容れ物にびっしりと詰め込まれた金属様(よう)の物。これらが何なのかについて、年報記事では一切言及されていないので、最初日本語で書かれた文献資料をいろいろと調べてみたのですが、答えとなるような記述は見つかりませんでした。ただ、ひとつのヒントとして、昨年、国立新美術館で開催された静物画の展覧会カタログに掲載されている、オランダの画家ピーテル・クラースゾーンの静物画《ヴァニタス》に類似した物体があったこと。しかも文献資料によれば、コリールは初期にこのクラースゾーンに影響を受けたとあります。以上のことから、下記の手順でアプローチして行きました。

1.ネット上で公開されているエドワールト・コリールの作品を検索し、片っ端から調べてみる

→西美にある作品と同様のモチーフを描いた作品はなかった。

2.ネット上で公開されているピーテル・クラースゾーンの作品を検索し、片っ端から調べてみる

→西美にある作品と同様のモチーフを描いた作品が以下の通り見つかった。

ピーテル・クラースゾーン作品1
ピーテル・クラースゾーン作品2

→該当するモチーフと常に一緒に「はねペン」が描かれている。キャプション(作品解説)でも、「筆記用具」と記されている。

3.17世紀以前の筆記用具について検索する

→17世紀頃の筆記用具の写真が見つかった。

筆記用具の写真

砂時計の傍らにあるこしょう入れのような容器は、インクの滲みを防ぐ為に、字を書いた直後に降りかけるイカの骨?(甲?〜みがき粉や鳥のえさにも用いられるようである)の粉を入れる容器らしい。今の時代にこのような筆記用具があるのだろうか?時代によって物の用途や形が変わるという点が実に興味深い。

4.該当する筆記用具が描き込まれた作品及び、その製作風景が描かれた作品を検索する

→主にオランダと近似の文化圏?であるドイツのサイトで、多数の作品が見つかった。

図版1
図版2
図版3
図版4

また、以下のようなイラストも見つかった。ペン先とはねの製品広告のようである。

図版5

以上の図版の数々から、西美所蔵のエドワールト・コリール作のヴァニタス画に描かれたモチーフで正体不明だった物体は、当時の筆記用具(a writing quill)〜インク壺(an inkwell or an inkpot (with an inkhorn?))とペンケース(a penner)〜であったと推察される。

【当ブログ内関連記事】

映画レビュー『椿山課長の7日間』
講演会聴講記録『フェルメールとオランダ風俗画』
嬉しかったこと






2009/8/2  0:40

投稿者:はなこ

sir_cryさん、コメントをありがとうございます。

今回、調べようと思ったきっかけは、実は、最近日曜日に始まった一般向けトークを担当される方から質問のメールが来たからなのです。私の大学の卒論テーマが、17世紀オランダ美術に関するものであった為、白羽の矢?が立ったのでしょうか?(笑)。とは言え実際には、極々狭い範囲での知識しか持ち合わせていないんですよね。しかし「知らない」と答えてしまったら、そこで「成長」「進化」は止まってしまいますから、これを良い機会だと捉えて、調べてみることにしました。

芋づる式に対象へアプローチして行くのは、仰る通り、謎に迫る探偵の気分です。実際、美術史は作家(画家や彫刻家)が自ら手紙や著書などで創作についての考え方を明確に残していない限り、後世の人間は作品を見るだけで、その全てを理解することは無理ですよね。だから美術史上の定説が、後年、新たな物証によって覆されることもある。とまれ、謎解きは楽しいものです。

外国のサイトを読み解くと言っても、殆ど英語です。ネット世界で広く使用されている言語も英語ですから、英語力は必須ですね(辞書を引き引き…)。西洋美術に関してなら、仏語や伊語も辞書を片手に読んじゃいます。大雑把な理解ですが。

http://happy.ap.teacup.com/hanakonoantena/874.html

2009/8/1  20:25

投稿者:Sir Cry

私はそこまで古い絵画の細部を調べるということは全く発想出来ません。ミステリーを解き明かす名探偵のようで感心しました。それにしても、外国のサイトを読み説くはなこさんの博学も感動しまいた。

2009/8/1  8:40

投稿者:はなこ

ひまわりさん、コメントをありがとうございます。

イカの骨、と言ったら甲なんでしょうかね?辞書には"cuttleborn"と言う単語もあります。

私が特に勉強熱心というわけではなく、他のスタッフには、私以上に文献資料を幅広くかつ深く読み込んでいる人もいます。それに刺激されて、自分ももっと勉強しなければ、と思います。

脳科学者の茂木健一郎氏も、その著書で繰り返し書いていたと思いますが、ネットは自宅に、世界に開かれた百科事典を備えているようなものです。ネット社会というと、負の部分が強調されがちですが、ネットはあくまでも”ツール”に過ぎず、それをどう活用するかは、人間の意識にかかっているんですよね。

私のような一般の主婦でも、これだけ調べられるんですから、使いようによっては素晴らしいツールだと思います。

http://happy.ap.teacup.com/hanakonoantena/874.html

2009/8/1  1:09

投稿者:ひまわり

はあ〜。イカの軟骨の粉ですか…。インクのしみを防ぐ為に、とは。ひとつ、勉強になりました。しかし、はなこさん、徹底した探究ぶりですね!その探究心の素晴らしさに感心してしまいました。有難うございました。


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