2015/6/23

アートを楽しむ  読書記録(本の感想)

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 アートを自分なりに、もっと気軽に、気楽に、楽しもう!
 アートを自分なりに、もっと自由に、深く、味わい尽くそう!


 今年はたまたま美術館にまつわるドキュメンタリー映画を2本見る機会があった。ひとつは『ナショナル・ギャラリー 英国の至宝』、もうひとつは『ヴァチカン美術館 天国への入口』と言うものだ。

クリックすると元のサイズで表示します 何れも世界的に有名な美術館を取り上げているが、全く違うスタイルで、フォーカスしている部分も違う。

 前者は展示室内でのギャラリートークの様子を何度も映し出しつつ、展示室を"舞台"としたイベントやアート教室開催等、美術館資源を用いた多彩な活動、また、修復保存室の様子や美術館スタッフの運営会議の様子等、美術館のバックステージとも言うべき内容も映し出した、約3時間にも及ぶ長大なレポートだ。

クリックすると元のサイズで表示します 一方、後者は美術館の建築や所蔵コレクションの紹介にフォーカスした作りとなっている。取り上げられるコレクションも、それほど数は多くない。それらを、外連味たっぷりの演出で、格調高いナレーションと共に、凝った映像(今回3Dと言うのがウリらしいが、私は2Dで見た)で映し出している。こちらの上映時間は66分と短い。

 あくまでも個人的感想だが、両者共に自分が期待したものと少し違っていて、見終わった後、満足したとは言い難かった。作り手の発信したいものと、受け手が「美術館のドキュメンタリー」と聞いて期待するものとのギャップが大きかった印象だ。

 ただし、何れも表現芸術としては当然成立する映像作品だとは思っている。それぞれの作家の視点で、世界の名だたる美術館の姿が描かれたと言うだけのことだ。

 斯様に、特に近代以降は作家の主体性が重んじられているのがアートの流れと言える。受け手の反応以前に、作家が伝えたいものをいかに表現するかが重視される時代。

 西洋美術で言えば、中世以降近世以前のアートが、キリスト教の教義を広く民衆に伝播する手段として用いられ、多くの作家が創作を通して自身の作家としてのアイデンティティを誇示するよりも、"職人"として誰の目にも分かりやすい表現に徹していたのと違い、近代以降の作家は、その作家性を際立たせることに腐心して来た。特に現代は、"人と違ってナンボ"の時代である。

 上野の国立西洋美術館の常設展示室は基本的に古い年代順に展示されている為、中世以降から20世紀前半に至るまでの西洋美術のテーマの変遷と技法の変化を概観するのにうってつけの場所であるが、その最後の部屋の20世紀美術の作品群を見れば、このことは瞭然である。正に「個性が爆発している」。

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 私はこの10年余り、教育普及ボランティアとして、主に児童生徒を対象にギャラリートークを行って来たが、頭の柔らかい子供たちは、その殆どが初めての鑑賞体験でありながらも、西洋美術史の劇的な変遷をそれほど違和感なく受け止めているように見える。一方で、成人は最初の宗教画コーナーで首を傾げ、途中の印象派絵画にホッとした表情を見せ、最後の部屋に来て、百花繚乱とも言うべき作品を前に、戸惑いの表情を見せる人が少なくない。

 成人諸氏が戸惑うのも無理もない。彼らはその人生の中で、鑑賞教育を受けたことがないからである。そもそも日本で、学校の教育カリキュラムに鑑賞教育が取り入れられたのも、ここ15年程のことである。既に翻訳物を中心に、美術教育の専門家の視点から書かれた鑑賞教育に関する書籍も数多く出版され、学校における鑑賞教育は十分に浸透しつつある。

 それでは、既に学校で学ぶ機会のない成人はどうしたら良いのか?まず、カルチャー・スクールで開講されている鑑賞体験が組み込まれた講座を受講すると言う手がある。また地方公共団体が主催するギャラリートーク付きのツアーに参加すると言う方法もある。或いは、美術館で実施されている一般向けギャラリー・トークに参加するのがもっと気軽だろうか?(美術館によって実施方法やスケジュールが違うので、各美術館のHPを参照のこと)

 因みに国立西洋美術館では、教育普及室長が、今後はシニア層への教育普及活動も視野に入れて取り組みたいと、数年前に言及している。それを踏まえての、ボランティアによる週末の一般向けギャラリートークの開始だったのだろう。

 国立西洋美術館ボランティアによる美術トークと建築ツアーについてのご案内

 さらに鑑賞体験を豊かにする手立てとして、鑑賞方法を指南した本を読んでみる、と言うのもある。ところが意外にも、この種の本に一般の成人を対象としたものは、これまで殆どなかった。その意味で、冒頭に掲げた2冊の本『現代アート、超入門!』(集英社新書、2009)『アート鑑賞、超入門!』(集英社新書、2015)<何れも藤田令伊著>は画期的なのである。教育的観点からでもなければ、専門家の観点でもない。鑑賞者の立ち位置から、鑑賞の楽しみ方を指南する本。一般の美術ファンが、特別な気構えを必要とせずに鑑賞を楽しむ為のヒントが満載の本。

 と言うのも、著者は元々美術の専門家ではなく、出版社で編集者として働いていた人物だ。今は美術好きが高じてアート・エッセイを執筆したり、美術鑑賞グループを主宰する等して、美術と一般鑑賞者との橋渡し役を果たしている人物のようだ。

 ところで、私は思い立ったが吉日とばかりに、自身の勉強も兼ねて、一人で展覧会に足を運ぶことも多い。その際、一鑑賞者として作品を見ながら、実は他の鑑賞者の言葉に聞き耳を立ててもいる。美術館の教育普及事業を担う一人として、一般の鑑賞者がどのように作品を鑑賞しているのかが気になるからである。

 鑑賞者は鑑賞の際に何に注目し、何に疑問を感じているのか、どんなことに困っているのか、何を知っていて、何を知らないのか、鑑賞を本当に楽しんでいるのか否か、美術館に対して率直にどんな感想を持っているのか、美術館に何を期待しているのか、企画展について、どの程度満足しているのか、常設展示室のあり方についてどんな意見を持っているのか等々、美術館と鑑賞者の間に立つ人間として、鑑賞者と美術館の関係についての関心は尽きない。

 そして、自分が答えられる範囲の疑問を耳にすると、つい答えたくなってしまい、答えたら答えたで、相手を驚かせてしまう。そりゃあ、そうだ。自分のつぶやきに聞き耳を立てている見知らぬ他人なんて、気持ち悪いだけだ。

 だからこそ、美術鑑賞に興味があるけれど、どうやって鑑賞すれば良いのか分からない、或いは迷っている人に、掲記の2冊をまずオススメしたいのだ。私のように散々美術館で研修を受けて来た者からすれば当たり前の内容であっても、一般の鑑賞者からすれば、帯に書かれているように「目からウロコ」の内容だろう。

 そして、その2冊を読み終わった後に、もし時間があれば、現代美術の入門書して優れた下記の2冊をオススメしたい(表紙写真をクリックすると、アマゾンの該当ページにジャンプします)

 できるだけ多くの方々が、美術館での作品鑑賞を心から楽しんでいただけるよう願って止まない。 






2015/6/24  8:04

投稿者:管理人はなこ

「ナショナル・ギャラリー 英国の至宝」を手がけた米国出身のフレデリック・ワイズマン監督は、これまでにもアメリカン・バレエ・シアターやパリ・オペラ座やクレージー・ホース・パリ等、アートやエンターティンメントを題材の中心にドキュメンタリーを撮って来た監督のようです。

おそらく英国の至宝たるナショナル・ギャラリーの全貌を余すことなく伝えたかったのかもしれませんが、ギャラリー・トークのシーンはもう少し数を絞っても良かったのではと思うほど数が多く、3時間と言う上映時間は長過ぎます。間に休憩もないので、途中で疲れて集中力も途切れてしまいました。映画館で見ると言うより、自宅でDVD視聴向きでしょうか?

「ヴァチカン美術館」の良かった点は、作品をクローズアップして見せてくれたところでしょうか?天井画なんて、現地でも何mも下の地上から見上げるしかできませんから。カメラは肉眼では見えないところも映し出してくれます。レビューを見たら、「3Dである必然性が感じられなかった」旨の発言があり、3Dにした効果がどの程度あったのか、私は見ていないので何とも言えないところです。

私が映画館でドキュメンタリーを見るきっかけとなった映画は『WATARIDORI』で、その後『オーシャンズ』『ライフ』『アース』『ディープ・ブルー』等、所謂ネイチャー・ドキュメンタリーを見ることが多いのですが、もちろんアート系も好きです。アート系では『ハーブ&ドロシー』と言う、庶民でありながら、その慧眼で(後に有名となった)無名アーティストの作品をコツコツと買い集めて、結果的に現代アートの一大コレクションを築いたご夫婦の姿を追ったドキュメンタリー映画が、近年では最も感動した作品でした。

2015/6/23  22:28

投稿者:Sakuraieiji

恥ずかしながら私はどちらの映画も見ていませんが、はなこさんの感想から察するに、製作者はミュージアム・ショップで売っているDVDのような単純な至宝の紹介ではなく、もっと踏み込んで別の視点から映画を作ろうと思ったのでしょうね。もっとも、「ヴァチカン美術館」の方は3Dで名作を紹介すればその素晴らしさが判るだろうという単純な発想だったこも知れません。と、すれば2Dでも公開するのは無意味なような気がします。

http://ameblo.jp/sir-cry/


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