「アンクルトムの小屋」を読んで、映画「リンカーン」も観たので、図書館で見つけたとき興味を持って借りてきた。かなり吉野氏の主観が入っているように感じたけれど、ジュニア向けなので共感しながら読み進むにはそのほうがいいのだろう。私も、思ったより読みやすくて面白く一気に読めた。
リンカーンが、貧困にあえぐ開拓民の子だったと初めて知った。
かなりの苦労人で、小学校もまともに通えず様々な肉体労働を経験、インディアン制圧の軍人にもなったし、平底船の船員、商店主、郵便配達等をやりつつ独学で測量士になり、25歳で州議員に当選、さらに独学で弁護士になり、やがて上院議員、大統領にまでなる。民主主義の世だからこその立身出世物語でもあり、それが面白さでもある。苦労と挫折を繰り返しながらも努力が報われていく様は、吉野氏の、青少年へ望むところが表現されているのだろう。
リンカーンの実直さのみを前面に押し出しているのは少年向けなので当たり前だけれど、このように政界で頭角を現していくには、高い理想と共に弁舌の上手さ、敵の弱点・矛盾点をつく鋭さ抜け目のなさも感じた。政敵が保身と権力欲だけでは立ち行かなくなる様は、結局世の中自分のためだけにやる事はいつまでも成功しないという事も感じた。正義だけでも、悪いだけでも、世の中渡っていけないのだ。
この本では、リンカーンは票集め(選挙ではなく法案を通すための議員票)のために適当な職のあっせんは出来なかったとある。
時期が違うけれど映画ではそれが見どころのひとつと言えるくらいの票集め運動、根回しを行う。その老獪ぶりが、やっぱり政治家はいい人だけじゃやっていけいなんだなと思わせて唸らせられた。
それと、南北戦争が何故起こったのかという疑問について。
「ストー夫人伝記」、「アンクルトムの小屋」、映画「リンカーン」を見ても、やっぱり白人が黒人奴隷を解放したくて命を懸けたのか?または経済摩擦問題だけで内戦をやったのか?という疑問がなんとなく腑に落ちず、それぞれで違う感想を持ったのだけれど、今回は、南側の理由は経済問題だったかもしれないが、北側は経済問題もあるけれど、アメリカが「民主主義で自由の国だ」と堂々と胸をはるためには、奴隷制度はどうしても除かなければならない事だったという側面が見えた。
ようするに、黒人を守るためというよりも、民主主義を守るためというのかな。
独立以来、王様が居る旧来型の国家ではなく、抑圧されるもののない自由な新しい国家を築くという試みのもとに建国された国である以上、黒人であろうとなかろうと、”奴隷”が存在するという事実だけでかなりの矛盾を孕んでしまう。さらに宗教的道徳観念も無視できない。毎週日曜日、教会に通って人の道について学ぶ国民たちが、そういうことを許していること自体が悩みのタネになってもおかしくはない。
二つに割れる考え方で国が混乱しているときに、リンカーンが、武力や過激な発言で即時奴隷解放を求める運動には加わらず、正攻法でどうにか奴隷制度の撤廃へと働いたこと、奴隷解放によって損失を受ける南部の人々に国が補償金を支払う法案を出したことなどを知って、何故リンカーンが大統領に選出されたのかという理由の一つが分かる気がした。