抱擁家族(14)

2021/8/4 | 投稿者: pdo

 妙なところがずっと痛んで仕方がなかった。みちよがこの事件を洩らしたときにそうなった。彼の局部がはたかれたあとのように痛むのである。その痛さは下腹部から伝わり、その部分の中の方にこもっていた。下腹部にくる前に、心臓がしめつけられた。たとえば時子が往来に姿を現わしたとき、時子が、「これは私の家よ」といったとき、「私はあんたのものじゃないわよ」といったときなどに、そうなった。「痛い、痛い、これはどうしたことだ」と俊介は心中で叫んでいた。自分の部屋でじっとしていると隣りの部屋で時子が、いつものようにフトンを敷いてその上に坐りこみ雑誌をめくっているのがきこえる。「ああ、痛い」と彼は声を出した。時子はだまっていた。俊介はまた、
「ああ、痛いぞ」
 といった。時子のいる隣りの部屋との間のドアをあけると叫んだ。
「おれは痛いのだ」
 時子はちらっと彼の方を見た。そしてじっと俊介のぜんたいを眺めた。
「おれは、ここが痛くって痛くってしようがないんだ」
「見っともない!」
 と時子はささやくようにいった。
「ここが痛いのだ」
「向うをむいててよ」
「・・・・・・・・・」
「着替えするのよ」
「いいから僕の前でそうしろ」
「いやよ」
「向うをむいててやる。早くしろ」
 と俊介はいった。時子が横になると彼はふりむいた。時子は首だけ出してこっちを見ていた。


この箇所を読んでいるときに、自分も股間のあたりに痛みを感じているのに気づいた。ネットで調べたら、会陰部の鈍痛は慢性前立腺炎のうたがいがあるという。ストレスや緊張、冷えなどが原因になるそうで、コロナ禍で若い世代にこの症状を訴えるものが増えているというネット記事も目にした。

さて自分の話はこれくらいにして、俊介はみちよから事件を知らされた時から局部がはたかれたあとのように痛むようになったという。そして俊介は心中で「痛い、痛い、これはどうしたことだ」と叫ぶだけでなく、隣りの部屋に寝ている時子に聞こえるように「ああ、痛い」といい、しまいにはドアをあけて「おれは、ここが痛くって痛くってしようがないんだ」と時子に向って叫ぶ。

ここもなんともいえず不思議な描写で、どこまでがシリアスなのか分らない。とにかく俊介の抱えている心的ストレスが身体症状を引きおこすに至り、それが局部から始まるというのは象徴的に思える。

それに対する時子の反応は冷淡なまでに冷静でそれがリアルである。

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