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抱擁家族(13)

2021/7/31 | 投稿者: pdo

 それから、時子は真剣に考えこむようにいった。
「もうとりかえしがつかないわよ。あの女は私達を笑いものにするわよ」
 時子は玄関に出て靴をはいてゆっくりと表へ出た。彼女は道のスミの石垣によりそうように歩きはじめた。俊介は下駄をつっかけて時子のそばにしばらく寄り添って歩き、その腕をとって連れもどした。
 夕食の最中に良一は、あの人はどうした、といった。今夜も遊びにくるはずだったことを俊介は知った。時子はいった。
「彼は母さんに悪いことをしたので、もう家にはこさせないことにしたの」
「ふうん! どんなことをしたんだい」
 と良一がいった。
「母さんのことで悪いこといったのよ。ありもしないことをいいふらしたり、悪口いったのよ。そんなやつは家へはこさせないのが、母さんの方針なのよ」
「いつ、そういったんだい、お母さんと映画にいったんだろう。あのあと?」
「くわしいことはどうでもいいのよ」
「じゃ、おとというちへ泊って、きのう映画に行って、そのあとだな」
 と良一がいった。
「僕のベッドに寝かせてやってサービスしてやったのになあ」
「だから私はアメリカ人というのはきらいなのよ」
 とノリ子がいった。
「さあ、その話はそれでおしまい!」
 と俊介は精一杯くだけたつもりで叫んだ。


今回は「抱擁家族」の話から離れるのだが、「抱擁家族」の三十年後の物語として、小島信夫は「うるわしき日々」という小説を書いた。

これは1996年9月11日より翌97年4月9日まで読売新聞に連載された長編小説で、大庭みな子の説得で書き始められたという。

今この作品(「うるわしき日々」)を読み返していると、ここに出てくる良一とノリ子についても思いを馳せずにはおれない。

そこまで感慨深くならざるを得ないのは、家族構成と年恰好が自分の家庭とダブるからだと思う。自分は小島信夫が「抱擁家族」を書いた年齢に近く、息子と娘も同じくらいの年だ。その三十年後が一体どういうことになっているのか、を考えながら読むと・・・

「うるわしき日々」は「抱擁家族」と比肩する名作だと思うが、知名度と評価がその価値に伴っていないのが残念に思う。

むしろ超高齢化社会を迎えた今の日本にとってアクチュアリティがあるのは「うるわしき日々」の方だと思うのだが・・・。
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