抱擁家族(7)

2021/7/14 | 投稿者: pdo

 俊介が台所で朝食をとっているときに、時子とみちよは、キャンプにある病院へヘンリー軍属を見舞いに行く話をしていた。
「軍の車をまわしてくれるんですって、奥さま」
「その日は、僕も行けるな」と俊介はカレンダーを見ながらいった。「あの軍属はジョン・ウェインとおなじ騎兵隊にいてポンユーだといっていたが、ほんとうかな」
「あのじいさんを、坊やはとっても怖がっているんですよ。営倉に入るところを、あの人のおかげで助かったんですから、どうしたって一目おいているんです」
「あなた、土産を買うから、出かける前の日にでもデパートへいっしょに行ってよ」
 と時子が俊介にいった。
「ああ、いいとも、いいとも」
 と俊介はうなずいた。俊介は見舞いに行きたいわけではなかったが、行かないということが、コケンにかかわるような気がした。そういう気持でいたものだから、土産の相談を時子に頼まれたとき、俊介は、ホッとした。

 見舞いに行く当日になった。
「花屋へ入っていったとき、私をじっと見ている男がいるので気持がわるくなって、ふりむいたら、赤いセーターを着た学生ふうの男じゃないの。あんな年頃というものは、私なんかに興味があるのかしら」
 と花屋からもどった時子がいった。
 俊介が笑っていると、つづいてこういった。
「バスに乗ろうとすると、男も女もこっちを見るじゃないの。私たちの年頃で少しちゃんとした恰好をしていると、目立つものかしら」
 俊介は自分の部屋へもどり、服を着てオーバーを着こむと、花瓶を手にして、ジョージの車を待つために応接間にあらわれた。そこへ化粧をなおし花を手にした時子が、みちよといっしょに姿を見せて、うつむきながら、
「あんたも行くの」
といった。
「ああ、行くよ」
 と何げなくいったが、どうしておれが行かないものと思っていたのか、と俊介は思った。
 キャンプに着くまでの車の中で俊介の口をさえぎるようにして時子はジョージに沿道の日本の風景を説明した。誰かと張り合っているように見えるがそれが誰に対してなのか分らない。ジョージが勤務している飛行場のターミナルの応接間で、しばらく待つ事になったとき、時子のオーバーをぬがそうとすると、彼女はその手を強く払いのけてしまった。
「だって、これが礼儀なんだろう」
 と俊介がなじった。
「見っともないわよ」
 アメリカ人の将校がこっちを見ているのを知っていたので、俊介はそのまま黙って時子のそばを離れた。


時子は盛装してジョージと出かけるつもりなのに、俊介がいっしょに行くというのが内心気に入らない。人前で自分の夫のように振舞ってもらいたくもない。後からふり返れば、このあたりの描写にはすべて納得がいくようにできている。

非常に緻密に書かれていることが分る。

誰かと張り合っているように見えるがそれが誰に対してなのか分らない。

という描写など凄いなと思う。



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