「これから音楽の市場規模は3倍に成長する」

2020/7/22 | 投稿者: pdo

コロナ禍によって、ライブエンタメ業界は今なお多大な痛手を受けている。大型ライブイベントの中止を決断したロッキング・オン代表の渋谷陽一氏と、ブシロード代表取締役会長の木谷高明氏。長年にわたってエンタメに携わってきた2人は「これからのライブエンタメには爆発的な変革が起きる」と断言して憚らない。不安と疲弊に打ちひしがれたライブ業界とエンタメファンに、光明を差す対談をお届けしたい。

――このたびの対談は、ライブエンタメの“明るい未来”を語り合いたいとのことで実現しました。

【渋谷陽一】そう。ここ最近、とくに音楽業界は暗い話ばかりだったけど、僕はあと数年で音楽産業の市場規模は2倍3倍に成長すると思ってるんです。業界でこの話をしても意外とピンと来てくれる人が少なかったんだけど、木谷さんは瞬時に理解してくれましたよ。

【木谷高明】欧米のスポーツ産業がビッグビジネスになっていった歴史を見れば、それは明らかに予想できます。とくにアメリカのスポーツ産業は、80年代にケーブルテレビとPPV(ペイ・パー・ビュー)の普及によって変革したんですから。

【渋谷】放映権で、チケット収入の何十倍もの収益をあげるようになったわけですね。

【木谷】さらに配信サービスの普及で、世界規模で稼ぐようになった。こうした動きは音楽が一番遅れてたけど、これから音楽産業でも同じことが確実に起きますよ。

【渋谷】キーワードはやはりデジタル、オンラインライブですよね。

【木谷】そうですね。弊社は昨年、東証マザーズに上場したんですが、うちが扱ってるコンテンツの中でも、投資家やアナリストが興味を持っているのがオンラインライブでした。株主総会では、これから確実に成長が期待できるコンテンツとしてたくさん質問を受けました。

【渋谷】意外と音楽業界ではない人のほうが、音楽の本来的な価値に気づいているのかもしれない。デジタル関連でいうとサブスクの普及で音楽産業がプラスに転じたけれど、当初は音楽業界側も懐疑的でしたからね。

──ライブ配信に注力すると、「音楽パッケージが売れなくなる」という懸念もありました。

【渋谷】ところが結果としてパイの奪い合いにはならず、むしろ市場を広げることとなった。同じことで木谷さんにお伺いしたいんだけど、スポーツでPPVが定着して実際の会場に来るお客さんが減ったかというと、そんなことないですよね?

【木谷】むしろ会場チケットのバリューが上がりました。配信なり放送なりでコンテンツに接触すると、「生で見たい」という熱はますます上がるんです。だけど会場にはキャパシティがある。たとえばスーパーボウルのチケット価格設定がとんでもないことになってるのは、それだけ現場で見たい人が多いからであって、市場経済として自然なことなんですよ。

【渋谷】つまりオンラインライブによって、リアルのライブ人口は決して減らない。むしろライブ市場全体を、とてつもない成長産業に押し上げる希望しかないと僕は思ってるんです。

──先ほど出たキャパシティは、リアルのライブにおいて常について回る課題です。

【渋谷】たまにイメージするんだけど、「ユーミンが荒井由実時代の曲を弾き語りする一夜限りのライブ」。これものすごくバリューがあるコンサートですよね。弾き語りだったらドームでやってもしょうがない。それなりの音響設備の会場、渋谷のオーチャードホールあたりがいいんじゃないかな?

【木谷】キャパは2000席ほど。チケット争奪戦になりそうですね。

【渋谷】そこで起こるのがチケットのプレミアム化、もっと言えば転売問題です。転売によって何十万ついたところで、ユーミンには1円も入らない。そんなバカな話はないですよ。そこをきっちりとマネタイズしてアーティスト側に還元する方法論として、オンラインライブは非常に有効なんです。

【木谷】ビッグアーティストは高い年齢層のファンも多くついてますし、わざわざ会場に行かなくても家でゆったり見たい、という人は多いでしょうね。

【渋谷】と思いきや、意外と若者層にも需要はあるんですよ。先日、あるアマチュアバンドが、ライブハウスから無観客ライブを配信すると聞いて、失礼な話、そんなの見る人いるの? と思ったんです。ところが20人が視聴してくれたと。たった20人? と思うじゃないですか。

【木谷】でも、彼らのスケールからは十分な数字だったということですかね? 

【渋谷】そうです。ライブハウスにはノルマがあって、いつもは友だちに声をかけて3、4人来てくれるんだそうです。ところがオンラインでやったら、その5倍ものお客さんが見てくれた。それも心から応援してくれるお客さんたちで、夢のようだったと。僕らは勝手に「ロックのお客さんは現場で見たいものなんだ」と思い込んでるじゃないですか。

──押し合いへし合いの“密”なスタンディングで、ですね。

【渋谷】だけど、たとえば地方に住んでる人とか、東京に住んでても夜は出歩けない高校生とか、ライブハウスに敷居を感じていた人はいっぱいいるわけですよ。そうしたお客さんたちが求めている接触機会を、これまでライブ業界は提供してこなかったんです。

【木谷】たしかに生のライブにはキャパシティだけでなく、アクセシビリティの障壁もある。これまでビッグアーティストはそこをライブ中継で補完したりしてきたけど、通信環境が整った今はインディーズバンドでも気軽に音楽の出口を増やすことができるようになったわけです。

【渋谷】ようは、このコロナ禍はライブの本質というものに冷静に向き合うチャンスでもあった。何がリアルで何がオンラインなのか? を無理やり学習させられる機会だったと思うんです。

【木谷】さらにスマートテレビや5Gもこれからさらに普及する。同時代に起こった偶然とは言え、これからオンラインライブ市場は爆発的な変革が起きますよ。

──この時期、オンラインライブに触れた人はたくさんいました。しかしコロナ禍が去った後も、その人たちはオンラインライブを見るでしょうか?

【木谷】そこはライブ業界がもっと意識的に取り組まなければいけないことです。エンタメの普及にとって何が一番大事かというと、クセを付けることなんですよ。ようは靴を履くクセ、習慣がない人に対して、どうせ履かないだろうから靴は売らないか、それともいかに靴の素晴らしいかを伝えて売るか、どっちかだと思うんですよね。

【渋谷】その意味では、このコロナ禍はオンラインライブを見るクセを付ける機会でもあったわけで。若い人だけでなく、高齢者でも頑張って配信プラットフォームに会員登録した人は多かったんじゃないかな。

【木谷】そうなんです。ここ最近やってたオンラインライブって、音楽業界的にはリアルのライブができないことへの補完としか捉えていないフシもあったと思うんです。それでコロナ禍が去ってライブが通常にできるようになって、オンラインライブの流れを止めてしまったらこの機会が水の泡というか。

【渋谷】だけど、配信をいち早くビジネスとして定着することができたスポーツに対して、なぜ音楽は遅れをとってしまったんでしょうね?

【木谷】そもそもスポーツは試合そのものが商品だから、売るための手段をいろいろ考えたというところは大きいと思います。音楽の場合は、かつてライブはパッケージを売る販促の手段だったじゃないですか。今はライブ市場が逆転しているところはありますけど。

渋谷】そうか、そうした歴史の違いもありますね。

【木谷】あとはボクシングをイメージしてもらったらわかりやすけど、東京ドームの真ん中にリングを据えたらやっぱり小さいし、細かいところまでは見えない。だけど音楽ライブは大きな会場でも作り込んだステージ込みで楽しませてくれるところがありますよね。

【渋谷】たしかにドームのスケールでコンテンツを伝達するスキルは、スポーツよりも音楽ライブのほうが長けています。そっちが進化してしまったことで、オンラインへのチャレンジに足が遠のいてしまっていたのかもしれない…。

【木谷】だけど映画『ボヘミアン・ラプソディ』ラストのライブ・エイドの中継を、酒場や自宅のテレビの前で観客が熱狂するシーン。ライブ配信の定着によって、あのような光景がもっと起こせるはずなんですよ。ようは先ほどおっしゃった「ライブの本質的な価値」に、音楽業界がどれだけ真剣になって向き合うかが重要なのではないでしょうか。

──今後、オンラインライブがより普及したら、その上位コンテンツにリアルのライブがあるというイメージでしょうか?

【木谷】さっきのスーパーボウルの例で言えば、リアルライブのチケットの適正価格はもっと上がるでしょうし、ユーザーもそのことに納得すると思いますよ。

【渋谷】一方で単なるライブ中継ではなく、オンラインライブとしての商品性を追求することも重要だと思います。先ごろ東方神起が無観客オンラインライブをやりましたけど、彼らが歌っている前に巨大なクジラのCGがドーンと出現した。あれはオンラインだからこそできた非常にクリエイティブな演出ですよね。

【木谷】音楽ライブってステージの造作にものすごいコストを費やしてきたじゃないですか。わざわざ櫓を組んで、終わったら壊して。もったいないと言えばもったいない。

【渋谷】いやいや、木谷さん(苦笑)。そこにもちゃんと意味はあるんですよ。ただ、リアルでは表現できない演出の工夫をして、それによって画面の向こうにいる観客に高揚感を与えるのは、アーティストにとってもクリエイターにとっても絶対に楽しいだろうなと思いますけどね。

【木谷】でもそう考えると、音楽仕様の大きな会場って実はほとんどないんですよね。有明アリーナは音楽もスポーツも併用できる仕様として作られましたけど。だから櫓を組んだり壊したりとコストがかさんでしまう。

【渋谷】今言われている2分の1、3分の1の動員では、正直黒字が出ないですね。

【木谷】先日、弊社の新日本プロレスは大阪城ホールで2日間、キャパ3分の1で興行をやりました。プロレスならこれでもギリギリ黒字が出せるんです。実を言うとこの日、大阪城ホールを抑えられたのは某アーティストのキャンセルが出たからなんですよ。この状況が続いたら、新日としてはありがたい(笑)。

【渋谷】ただでさえ会場不足なのに、それはまずい(苦笑)。慢性的な会場不足が常に問題としてありますけど、それは需要に対して供給が追いついていないということです。だからこそオンラインライブなんですよね。先日のサザンオールスターズの無観客ライブは18万人がチケットを購入しましたけど。

【木谷】そうしたビッグアーティストに率先して実装化していってほしいですよね。サザンのチケットは3600円でしたが、個人的にはもっと高くても良かったんじゃないかなと思いました。それでもおそらく視聴人数は変わらなかったと思いますよ。

【渋谷】たしかにオンラインライブのチケットの適正価格についても、考えていかないといけません。

【木谷】ホロライブプロダクションというVTuber事務所がニコニコ生放送でやったライブが8000円、2万人が視聴したそうです。もちろんライブ用に3Dで作り込んだものすごい演出でしたけど。すでに若い世代のユーザーにとっては、リアルだろうがオンラインだろうが、価値のあるコンテンツに課金するのは当たり前なことになっているんだと思います。僕なんかもう60歳ですよ。

【渋谷】僕も69歳になりました。

【木谷】だから我々がオンラインライブ云々と対談なんてやってる別の場所で、30代とかのバリバリのプロデューサーはごく自然にデジタルに対応した新しいコンテンツを作ってるんだとは思いますよ。

【渋谷】おっさんが何言ってるんだと思いながらね(笑)。

【木谷】ただ、少なくとも我々は歴史を見てきましたから、今起きているのがパラダイムシフトであることには明確に気づいている。そのことをユーザーにも業界にも吹聴して回る役目はあるんじゃないかなと。

【渋谷】そう、この状況に嘆いててもしょうがない。ライブエンタメ業界に革命は起きていて、明るい未来がすぐそこまで来てるんだということをみんなにわかってもらわないと。

【木谷】結局、エンタメの使命ってそこだと思うんですよ。お客さんに夢や希望、喜びや楽しみを提供するという。とくに業界だけでなく、ファンも少なからずこれからのエンタメに不安を感じていると思う。だからこそ未来への希望を灯せるような発信をこれからもしていく必要があると思っています。(文/児玉澄子)
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