Lady McGoohan

2019/10/20 | 投稿者: pdo

※『じゃりン子チエ』というマンガに興味のない方はスルーして下さい。

20年くらい前に、『じゃりン子チエ』について色々と妄想や考察めいたことを書き連ねたことがあるのだが、そのときに書き残したことを思い出したので忘れないうちにここに記す。

さて、ここで取り上げたいのは、『じゃりン子チエ』の中でも最も異質の挿話と言える、「レディー幕ごはん」のエピソード(単行本9巻)である。

レディー幕ごはんとは、チエのおバアはん、菊の幼馴染みの女性で、小学校の遠足でいつも幕の内弁当のような豪華な弁当を持ってきた彼女につけられたあだ名だ。実際の彼女の家庭は貧しかったのだが、親が見栄を張って豪華な弁当を持たせたのである。

彼女は少女の頃は菊らと一緒に不良のような生活を送っていたが、大人になって、日本舞踊やピアノやさまざまな技芸を身に着け、金持ちの世界に取り入るようになり、闇の世界に染まり、詐欺の罪で何度も服役するまでになる(その事実はエピソードの最後になって初めて明らかになる)。彼女は、『じゃりン子チエ』の世界の中でも、究極のアウトローであり、健全な市民社会を完全に踏み越えた存在である。

レディー幕ごはんは、数十年ぶりに西萩を訪ね、今度金持ちの男の金でハワイの別荘に移り住むことになったから、渡航記念パーティーを開くので菊やミツルの母に来てもらいたいと話す。

菊たちは、幕ごはんの過去の噂を知っており、躊躇しながらも、彼女の気持ちに応えようとパーティーに参加することを決める。チエも誘われてついていくが、花井やヨシ江に声がかかることはない。幕ごはんという人物に何となく異様なものを感じたチエは、ヒラメも誘わない。一方、テツは、幕ごはんに気に入られ、何度もホテルのレストランなどで食事をおごってもらうなど、かなり親しい仲になる。テツはカルメラ兄弟やお好み焼き屋のオヤジを引き連れてパーティーに参加する。

パーティーは、「今日は自分の好きなようにやらせてもらいたい」という幕ごはんの挨拶で始まり、テツたちの調子が出てくるにつれて、次第に常軌を逸したものになっていく。呆れた参加者たちは次々に帰っていき、最後に残ったのは、菊にミツルの母親、チエ、そしてテツの仲間たちだけだった。彼らが西萩小学校の校歌を歌いあげて、この奇妙なパーティーは幕を閉じる。

ミツルは、パーティーの冒頭に、幕ごはんから何かを耳打ちされ、ショックを受ける。彼はこの席には参加していないことにする、とチエに告げる。

パーティーが終わった翌日、幕ごはんこと咲村君代(前科24犯)が詐欺で逮捕されたと大々的なニュースが報じられる。グランドホテルで夢の大パーティーを開いていたところを、警察(ミツル)が踏み込んで逮捕したということになっていた。

このエピソードが、『じゃりン子チエ』の中でも異質な印象を与えるのは、レディー幕ごはんという、明確に一線を超えた反社会的な存在が、本質的に『じゃりン子チエ』の作品世界にそぐわない、という感覚を読者の中に呼び起こすからだろう。

『じゃりン子チエ』の作品世界にとって欠かせない「ヤクザ」という存在は、作品における「猫」と同じくらいに純粋なファンタジーであり、テツにいいようにどつかれ、金品を巻き上げられても、本気でドスや拳銃を持ってテツに復讐したり殺しに来たりはしない。つまり、『じゃりン子チエ』の世界では、ヤクザも最低限の社会性を踏み越えることのない存在として描かれている。

しかし、幕ごはんは、『じゃりン子チエ』の登場人物と関わりを持った、初めての「リアルな犯罪者」である。だから菊やチエは戸惑うしかなかったのだし、花井やヨシ江は関わることすらできなかったのである。テツと幕ごはんの関係性も、純粋なファンタジーであり、具体的に描写することも、作品の中で発展させることも不可能であった。

作者はなぜ、この異質なエピソードを描いた(描きたかった)のだろうか。一説によれば、レディー・マクグーハンという人物の実話を元にしたとか、そういう登場人物の出てくる物語があるとかないとか。ある種のオマージュだったのだろうか。

ともあれ、『じゃりン子チエ』の中で、真の「闇の世界」を垣間見せたのは、このエピソードだけだったといえるかもしれない。
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