メヒコ

2017/2/23 | 投稿者: pdo

僕は今、メキシコの首都、メキシコシティーにおります。




久しぶりにオザケンの『我ら、時』というライブアルバムをひっくり返してみたら、そんな文章のある小冊子が入っていた。

ちょうど今、メキシコといえば僕たちの間でちょっとしたブームでもあり、以下その内容をかいつまんでおきたい。

* * *

えーと、アメリカ合衆国の歴史は、「もともと住んでいたネイティブアメリカンたちを、人口が95%以上減るくらい大虐殺した」という、ぞっとするような事実が無ければあり得ないわけです。

人口が95%以上減ってしまったというのは、北米の話で、メキシコでも大規模な殺戮があったわけですが、北米の状況を「核爆弾によってインディアンが消去された」と例えるなら、メキシコ側は「核じゃない爆弾によって殺された」くらいの違いがあります。どっちにしてもひどい話です。

メキシコと言うのは、ネイティブアメリカンと言われるものの魂が、日常の中にムラムラと漂い、近代化と産業化とぐちゃぐちゃになりながら生きている場所です。

それは北米における「インディアン文化保護区」みたいな生き残り方ではなく、ネイティブアメリカンの魂が、混沌とした日常の中できらめいている。

北米で自らのルーツや歴史や文化に深い疑問を持った学生なんかは、メキシコに下って行くというのがわりとあります。ジャックケルアックという「路上」という小説を書いた人や、イヴァンイリッチという知識人なんかが代表で、カウンターカルチャーとかヒッピーの価値観には、インディアン、メキシコという色が濃いです。

ちなみに小沢健二さんの妻エリザベス・コールさんも、20歳の時一人でバスに飛び乗ってメキシコに向かい、メキシコで新聞記者として記事を書いたりもしています。

そんなメキシコは、「未来都市メキシコ」という一面も持っています。未来と言ってもSF的な嘘の未来ではなくて、現実の、この土の上にやってくる未来の感じ。

例えば、メキシコシティー空港の第二ターミナルを利用する人は、車いすに乗った係員さんに案内されます(2010年10月当時)。空港では60人の車椅子に乗った職員が働いていて、もちろん車いすの人が意図的に採用されているのですが、別に大袈裟な感じは無くて、普通にたくさんの人が車椅子でスイスイ動いています。

あるいはメキシコシティーでは、同性同士の結婚は、異性の結婚と法律上同じで、国内のどこでも有効です。またメキシコシティーには公共の自転車システムがあって、市民は町じゅうの自転車ステーションに止めてある市の自転車「エコビシ」を利用できます。

メキシコは市民による抗議運動が多い事でも有名ですが、これは1917年にできた革命憲法によって「国民が抗議をする権利」が保証されているからだ、と言われます。この憲法は「社会権」というものを世界で初めて認めた憲法で、それより後にできたドイツのワイマール憲法の方が有名なのは今の世の中の仕組みのせいです。

100年前にできたメキシコの憲法は、簡単に言うと百姓一揆が成功した結果の憲法です。現在のメキシコは、百姓一揆で世の中がひっくり返ったあとの世界みたいなものです。

そんなメキシコでは、やっぱり社会とか政治とか文化についての意識がとても高くて、だから自然と本屋さんとか文化施設のレベルが高くなります。

政府が支援している文化施設「カーサ・ラム」なんて「ご立派!」という感じ。

本屋さんでも、メキシコシティーで人気の「ペンドゥロ」は、広くてお洒落で食事もできて映画も借りられて夜はライブや朗読が見られて、という空間。このお店の本の選び方、並べ方、雑貨、食事の充実ぶりは、どれもさすが。

あるいは古いアールデコの建物を改築したすてきな本屋さん「コホネブランコ(白うさぎ)」も、地味な立地にもかかわらず、お風呂場を本売り場にしていたり、とてもお洒落。メキシコ製の服ばかり売る部屋も、すてきなカフェもあります。

メキシコで社会に対する意識が高い理由の一つには、1985年のメキシコシティーでの大地震の経験があると言います。地震後に助け合って生きる中で、人々は「近所の人で自治をするのが一番効率がいい」と気づいて、寄り合いを活発に開いて、どんどん自分たちで政治をするようになった、という歴史があるのです。

このように住民自治もしっかりしている知性的な面のある一方で、麻薬組織関連の殺人が48分に1件起こるという暴力的な国でもあります。しかしこの知性的なメキシコと暴力的なメキシコは実はつながっていて、何が起こるか分からないワイルドな場所だからこそ、それを生き抜く知性が必要、みたいな関係があるような気がします。

そして、その知性は身近な暴力との緊張関係によって、研ぎ澄まされていると思います。

* * *

そんなメキシコで、今週から映画『この世界の片隅に』のプロモーション活動を行う片渕監督とのんさんはじめスタッフ御一行様、どうかよい旅になりますように!
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