ガナ
『おいユカリ』
ユカリ『なに?ガナちゃん』
ガナ
『俺ァ本が好きなんだ』
ユカリ『ほうほう』
ガナ
『だからもし子供が生まれたら、そいつの名前は女なら詩織にする』
ユカリ『なるほど〜。男だったら?』
ガナ
『ペー次』
ユカリ『・・・』
ガナ 『・・・』
ユカリ『・・・』
ガナ 『ごめん』
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だがそちらにおわす変態漢は、その化け物と肩を並べるほどの奇人なのかもしれない。
未だ痛むわき腹を押さえながら、そのニヒル面に奇異の目を向けると、エイキチは例によって、アヤナの艶やかな黒髪を撫でながらじゃれあっていた。そこに突然、巨大な影が差し、エイキチの首根がグイと持ち上がった。
俺より頭一つ高いエイキチを軽々と宙吊りにしたのは、筋肉ダルマの異名をもつ真正の大男、クラウチである。ちなみに俺やアヤナ、エイキチのクラスの担任で真っ当な教師だ。
「ぐをっっっ、おっさん、絞まる絞まる」
エイキチはそのオッサンの胸板をバンバン叩いて抵抗を試みるが、そんなものは試すより先に結果が見えていて、これまたいつも通り登校早々、エイキチは職員室へと連行されていった。お叱りモードのクラウチは終始無言で肉体に訴えてくるものだから怖い。
話を戻そう。エイキチがテスト明けに毎度の連行劇を展開されるのは、彼のその変体性に起因しているといって間違いない。
11位の俺の点数を公表すれば807点、エイキチのそれは800点ということになる。上位のメンツに比べればたいしたことのないものに思うだろうが、俺のはそうだとしても、彼の場合は事情がことなる。
なんと巣鴨エイキチという男、過去全ての試験で、800という点数から、ただ1点ですら違えたことはない。このことは何を意味するのか?
そう、あの男は試験科目10のうち、「ある決まった」2教科を、毎度毎度、放棄しているのだ!
つまり言い換えれば、彼は記名した答案に関しては一度たりともミスしたことはない。
現時点で成績的に最もトップに近いのは2位のアヤナだが、姉の不敗神話を撃ち下す存在としては、やはり未熟だろう。
器という面ではエイキチのほうが適任であるのは動かしがたい見解である。
では彼はなぜ試験を放棄するのだろう。彼の受け入れない、その2教科は何か?
その2つは選択科目。『創作技能T』と、その応用的内容である『創作技能U』だ。