2009/3/5

魔王  

著者:伊坂幸太郎
出版:講談社文庫
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<この物語には、ファシズムや憲法、国民投票などが出てきますが、それらはテーマではなく、そういったことに関する特定のメッセージも含んでいません。(・・・中略・・・)
今までに影響を受けてきた小説や音楽には、たいがい、社会や政治の事柄がよく含まれていて、そこから滲んでくる不穏さや、切迫感や青臭さがとても好きだったので、だから、自分の書くものにもそういう部分を含ませたくなってしまうのかもしれません。>(文庫あとがきP.357)

この「あとがき」を読んで、何となく高橋和己の「邪宗門」を思い出した。
バリバリの純文学で、思想的なアーダコーダもあって、それでいて興奮するほどドラマチック。
でも本作に比べると、あっちのほうがズッとドラマチックで盛り上がるんだけどね(笑)。

本作については、伊坂作品らしい「エンターテインメントとしての面白さ」があるのは勿論なんだけど、加えて「社会の中に見える漠然とした『方向性』に対する感覚」というのが(作者自身のコメントにも関わらず)「読みどころ」になっているというのは衆目の一致するところだろう。
作品が書かれたのは郵政選挙の直前のようだが、その段階で「国家主義」的風潮を感じ取るというのは、やはり「鋭敏」と言える。
「テロリズムの罠」で佐藤優氏が「ファシズム」への警鐘を鳴らしているように、世界同時不況によって、世界情勢は「国家主義」への傾斜を垣間見せつつあるが、そういう意味では「予見的」という評価を与えることもできるかもしれない。

まあでも「エンターテインメント」だからね。
そういう観点からは、「内省的」で「行動」という面でのドラマチックさに欠ける展開や、曖昧な部分が多くて、今ひとつカタルシスにつながらない辺り、
「どうかねぇ」
という感じもする。(「犬養には悪意はあるのか」「魔王って何?」「結局、主人公は何をしようとしてるの?」「このあとはどうなるの?」等々)
いや、「こういう物語なんだ」と割り切るほうがいいのかな。
面白かったことは確かだしね。

本書の世界の50年後を描いた続編「モダンタイムズ」という作品が既に発表されている。
いくつかの疑問は、あるいはその中で答えがもたらされているのかもしれない。
・・・う〜ん、読んでみるべきかなぁ。



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