2006/12/21

再起  

著者:ディック・フランシス  訳:北野寿美枝
出版:早川書房
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引退したと思っていたディック・フランシスの6年振りの新作。奥さんを亡くしてから新作の発表がストップしていたんだが、まあ80歳を超えている(今年「86歳」)からね。「引退も当然かな」と思っていたんで、これは嬉しい驚き。
しかも主人公は「大穴」「利腕」「敵手」のシッド・ハレー。「競馬シリーズ」のみならず、今までに読んだ冒険小説・ハードボイルド小説の中でもかなり「お気に入り」の部類に入るキャラクターが登場するとなれば、これは期待せざるを得ない。

読み終えて、久しぶりのフランシス作品、久しぶりのシッド・ハレーの勇姿を楽しむことができた。80歳を超えた老人が書く小説としては驚くほどのヴァイタリティを感じることができる。いやはや大したものです。
とは言え、かつて「利腕」を読んだときのような感動は得ることはできなかったし、また望むべきでもないだろう。
かつて人生を賭けた職業を失った絶望から復活し(「大穴」)、「恐怖」に直面しながらも自負心を失わず困難に立ち向かう感動的な人物像を打ちたて(「利腕」)、メディアの煽りによって社会から厳しい批判を受けながらも、親しい友人を告発するという困難な途を貫き通した(「敵手」)ハレーが今回直面するのは、「愛する恋人を危機に晒しながらも、自身の『正義』を貫けるか」という課題。そういう意味では自分自身に向けられた精神的・肉体的脅迫から生じる「恐怖」とその克服を描いた「利腕」の姉妹編と行っても本書は構わないと思う。
ストーリーも、そのテーマの追求においても、本書は満足の行く内容になっているし、非常に楽しめた。そういう意味では不満を言うのは贅沢かもしれない。

しかし「利腕」のギリギリまでに追い詰められながら、その淵から歯を喰いしばって復活したハレーの姿に感動した身としては、「もう一段厳しい状況に直面する姿もありえたのでは」などと思ったりもするのだ(サドか、俺は!(笑))。
具体的に言うと、本書では危機に晒された「恋人」は、自分自身が脅しに屈することを拒み、ハレーが捜査を続けることに賛成する(そのために撃たれるのですが)という態度を取る。これはこれで感動的で、グッと来るんだが、一方で「恋人」が脅しに屈し、ハレーを非難するという展開もありえたのでは・・・と。

まあでもそれは苦しすぎる展開ではあるかね。さんざっぱらヒドイ目にあってきたハレーをそんな苦しい立場に追い込むのも、確かにどうかなとも思う。
本書の最後でハレーは恋人と結婚し、憎み合っていた元妻とも和解する。フランシスの年令を考えれば、ハレーの登場は本書で最後ということも十分に考えられる。
となれば、このハッピーエンドは祝うべきことと納得した方が良いんだろう。



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