営業マンたるもの、飛び込み営業も仕事のうち。
もちろんアポおなくいきなり飛び込むわけで、
先方からすれば「招かれざる客」だろう。
体よく追い返されるのがほとんどで、話を聞いてくれるのはマレ。
”下手な鉄砲数撃ちゃ当たる営業”なので効率が良いとは言えないが、
時にはやる事もある。
A社に飛び込んで、体よく追い返されて駐車場に戻った時、
俺は異変に気がついた。な、何たる事!こんなハズじゃ・・・。
俺は直ぐに追い返されたA社に戻り、怪訝な顔をする事務員のマダムに
言ってやった!
「すいません、車内に鍵入れたままロックしちゃったんですけど・・・」
十数分後、駐車場にはA社が懇意にしているスタンドの男がやって来て
素人には扱えない特殊な器具を使って鍵を開けてくれた。
錆びた軽トラにヨレヨレのツナギ。
見てくれはショボイが特殊な訓練をつんだエリートに違いない。
年はとってはいるが、くぼんだ目元から放たれる眼光は鋭く、
まるで獲物を狙うカモノハシのようだ。
決して「めんどくせぇなぁ」という目ではない。
たぶん。
俺は、ふらっと立ち寄った通りすがりの男に親切にしてくれた
マダムの女心に自販機の熱い缶カフェで応えると、
再び解放された愛車に乗り込みこの街を去った。
アデュー!


0