ほとんどMCなしで曲を繰り出したライブだった。
この夜、Yasakaは何も語らず、
Emilyがわずかに「こんばんは、pop popです」といったくらいだった。
ステージはしずかに、それでいて熱かった。
二人の気迫はいつも以上だった。
この日の出演者は4組いた。
一番最初に出た出演者はスタンダードを演奏する3人組だったが
ステージの上で笑顔で「このメンバー、一緒に合わせるのが今日はじめてなんです。」といった具合で自分たちの練習不足を平気で口にしていた。
譜面を見ながら大根役者の棒読み台詞のような音を出すベース、
自己満足に速弾きフレーズを弾きまくるリーダーのギタリスト、
明らかにバンドに依存しているアイコンタクトを送るボーカリスト。
バンドのアンサンブルはあってないようなものだった。
演奏力がどーのこーのというよりも
そういう安易な気持ちでライブのステージに立って
お客に音を聞かせているその姿勢が
この日同じステージに立つpop popにとっては納得がいかなかった。
ライブの少し前、pop popは友人のソロライブを見に行った。
いや、正確に言うと、Emilyは見に行き、
Yasakaはその友人のライブのデュオの相方として出演した。
二人はその夜の友人が自分の生き様をそのままぶつけているかのような
気持ちの入った歌、伝わってくる歌にとても感動した。
涙を流しながら振り絞るように歌う彼女の歌に
自分達もこういうありったけのライブを目指そうと思っていた。
言葉にしてしまえば、目の前で演奏しているバンドも、友人も
「音楽をやっている」と括られてしまうがその内容はまったく違うものだ。
片方で自分のありのままをさらけだしてライブをしている一方で
自分達が楽しみたいだけでステージにあがるものもいる。
しかし、目の前にお金と時間を使って見に来てくれているお客がいて
自分達の事しか考えていないライブをしていいのか。
pop popの二人はこの日、自分達の精一杯の音楽を聞いてもらおうと思った。それが自分達のメッセージだった。
ライブの最後は新曲、ボブ・マーリーの「No Woman, No Cry」のカバーだった。9月3日のサニーサイドのライブで初披露しようとしていたができなかった曲だ。Emilyはあれから練習を重ねてきた。Yasakaの手でゴスペル的解釈のアレンジとなったこのカバーをEmilyはありったけの思いをこめて歌いきった。
終わった後で他の出演者から「今日はなんか凄かった」と言われた。
ある出演者は「あの最後の曲ってほんとはレゲエの曲ですよね?僕はアメリカには行った事がないけど、あなた達の演奏を聞いてアメリカの南部の教会とかにいるような気がしました」と言ってくれた。
初めてpop popを見たお客さんは「今夜はこのまま帰ります。この余韻で一日を終えたいから」と言ってその後の出演者を見ずに帰っていった。
一番最初のバンドの3人はpop popの演奏のあと、二人と話す事もなく気がつくと店からいなくなっていた。
いいライブができてよかった、と二人は思った。
=== SET LIST ====================================
1. Ol'55
2. Don't let me be lonely tonight
3. Arthur's Theme
4. Will You Love Me Tomorrow
5. Time After Time
6. No Woman, No Cry
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