2010/11/17  4:28 | 投稿者: おるん

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注)本文中にある名称は実在の物・人・団体とはなんら関係ありません。
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◇◆◇5.兄弟

「こんばんは。」
「よぉ!司!」
背後に誰かが来て、マスターが呼んだ名前にはっとする。
「おや?意外な人が居ますね。」
「先生!!」
「竜士君と一緒に?」
そう言いながら綾川先生が俺の隣に座り、マスターにビールを頼んだ。
「ええ。たまたまCD屋で出会って、チケットを売りつけられたんです。」
「あぁ、なるほど。それにしても生徒会役員がこんなところに居てはマズいのでは?」
微笑んだ先生の言葉を聞いて、マスターが驚く。
「生徒会!?こりゃびっくりだな。」
「ええ。彼はウチの学校の生徒会の会計さんなんですよ。成績も首席ですからね。」
「えぇ!?」
さらにマスターが驚いている。
「先生、止めてください。そんなもの、ここでは何の役にも立ちませんから。
それに、自分をどうこう言う前に、弟をどうにかした方がいいと思いますが?」
「はは、それはそうですね。一応、今日は先生としてではなく、彼の兄であり、ここの常連客としてやってきただけなので。」
「…。」
「まぁ、竜士君やあなたとここで一緒に居るところを保護者に見られると私が一番マズいでしょうけど。」
「先生も次の日曜のライブに来るんですか?」
「え?そうですね。私もチケットを売りつけられましたから。」
先生はそう言って笑う。
「草間君は誰かと一緒に来るんですか?」
「え?いや…誘う人も居ないし…それに買ったのは一枚だけですから。」
「そうなんですか?じゃあ、私のをあげます。日曜日は他に用事があって無駄になるところだったんですよ。」
先生が長財布からチケットを取り出して俺にくれた。多分、用事というのは嘘だろう。
「じゃあ、ありがたく頂きます。」

しばらく綾川の練習を眺める。ロックは全くわからないが、彼のギターソロはかっこよくて、上手だと思った。
「先生?」
「はい?」
「先生は、綾川に期待していますか?」
「………。そうですね。期待しています。彼は私なんかよりも優秀な人間だと思いますよ。」
「先生よりも?」
「ええ。ああやって悪ぶっていますが、私と比べさせたくないだけなんですよ。兄思いの良い弟です。」
「…。」
まさか。俺にはあなたの真似をしているように見える…とは流石に言えなかった。
でも、先生が言うのだから、そういう意味もあるのかもしれない。
先生と綾川。俺と穂。兄弟というのは少なからずそういうものがあるのかもしれない。
俺だって穂と並べられるのは好きじゃない。きっと穂だって俺と比べられるのは嫌だろう。
だって絶対弟の方が優秀だ。それでも兄貴のメンツもある訳で。
先生はあんなに色んな本を読んでいて優秀で、男の俺から見ても美形。
そんな先生でも弟の方が優秀だと思っている(実際に優秀なのかもしれないが)なんて意外。

残ったコークを飲み干して、ステージの上の綾川を見る。
曲の出だしが気に入らないらしく、同じところを繰り返し練習している。
地道な練習。嫌な顔をしそうなものだが、仲間達と一緒に怒ったり笑ったり、楽しそうだ。
「綾川、学校に居るときよりも活き活きしていますね。」
「そうですね。彼は本当にギターが好きなんですよ。」
「…自分が女だったら、彼を放っておかないかもしれない…。」
思わず口をついて出てしまった。先生が少し驚いた顔をした後、微笑みながら言う。
「おや、草間君がそんなことを言うなんて珍しい。」
「!!!い、今のは忘れてください!」
でも、本当に俺が女だったら、彼に惚れるかもしれない。
学校での彼の態度は良いものだとは思わないし、そうなりたいとも思わない。
が、今ここでギターを弾いている彼には心底仲が良いんだろうと思える仲間がいて、一生懸命ギターを弾いて輝いている。
彼は俺が持っていないものを全て持っているように思えた。
所詮、ないものねだりなのは分かっているが、とても羨ましかった。

意外な事だらけ。それに、自分が他人を羨むなんて事も意外。
今まで自分で頑張ってきて、因果応報というか、そういうものだと納得して生きてきたはずなのに。
なんだか自分のアイデンティティが崩壊しそうで泣きそうだ。
「先生、自分はこれで失礼します。家の者が心配するといけないので。」
「こんな時間ですか…。そうですね、ではまた月曜日に。気をつけて。」
「ありがとうございます。それと、マスター、ご馳走様でした。」
「おう。また日曜に来てくれよ。」
「はい。」
自分でも滅多にしない愛想笑いをして店を出た。

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1.本の虫
<4.意外な一面 6.ライブ>
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2010/11/14  2:35 | 投稿者: おるん

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◇◆◇4.意外な一面

高校に入ってから、休みの日にはちょくちょく、電車や自転車でターミナル駅まで出掛けるようになった。
この駅の近くにお気に入りのシフォンケーキ屋がある。綾乃に教えてもらって以来、月に一度は来ていると思う。

今日は本屋で問題集を物色して、図書館で予約していた小説を借りる。
「そういえば、この前の巻にクラシック音楽が出てきていたな…。」
どんな曲なのか気になってCD屋に寄ることにした。
CD屋など滅多に来ることがない。ポップスや洋楽オムニバスなんかの試聴コーナーを通り過ぎてどんどん奥に進む。
あれ?今、見覚えのある髪色が…。
「竜士ぃ、これなんかどう?」
「ん?あぁ、こっちのが良くねーか?」
「あぁ、良いかも!」
その赤髪の後頭を見る。女といちゃいちゃ、CDを試聴していて、こちらの気配に気付くそぶりもない。
綾川も連れている女もチャラい格好。バンドを組んでいるという噂を聞いたから、バンド仲間なのかもしれない。
女の方が綾川にベッタリ。でも綾川もそれが自然なようで嫌がっていそうではない。
付き合ってるのか…。…そりゃそうか、高校生だもんな。彼女が居たっておかしくはない。
彼らに声を掛けることなくクラシック音楽コーナーに向かった。
「えぇっと、確か、ヤナーチェクだったと思うんだが…。」
CDを見つけて手に取る。
近くに人の気配がして、そちらを見ると、綾川だった。
「!?」
手に取っているCDはペール・ギュント。
意外だ。コイツもクラシックを聞いたりするのか…。
まだ気付いていない様子だったので、知らん顔してその場を離れる。

会計をしていると、後から声を掛けられた。
「よぉ。」
「…なんだ、君か。」
「お前も音楽なんか聴くんだな。」
「…たまにはな。そっちこそ、クラシックなんて柄ではないだろう?」
「なんだ気付いてたんじゃねぇか。」
「…折角気付かなかった振りをしてやったのに。」
「あんなに傍にいて声掛けねぇのもどうかと思うんだけど?」
「そっちはデート中だろう?」
綾川が自分の後を親指で指す。彼女は試聴CDに夢中だ。
「良いんだよ。いつもあんな感じだから。」
「…俺はこれで失礼する。ではな。」
「お、おい!?ちょ、待てって!」
綾川を置いて去ろうとしたが、肩を掴まれた。
「なんだ?まだこれから行くところがあるんだが。」
「お前、ロック聴いたりするか?」
「…まぁ、たまにTVくらいでは見るが。」
「ライブハウスのチケットのノルマがあるんだよ。」
「…ほう、それを買えと?」
「次の日曜だ。ホントは二千円なんだけど、千五百円でどうだ。」
「…二千円で買ってやる。貸しだからな。」
綾川に二千円を渡してチケットを受け取る。場所はこの近くのライブハウスだ。
一人で行くのは気が引けるが、かといってもう一枚買える程の持ち合わせはない。
この後ケーキ屋に行くつもりだったのに、二千円の出費は流石に堪える。
平静でいるつもりが、少し顔に出てしまったらしく、綾川がこんなことを言い出した。
「悪いな、これから買い物だったのか?」
「まぁな。でも今日は止めにして家に帰る。」
「そうか…悪いな…。じゃあさ、今からライブハウスに行かねぇか?」
「なんでそうなる!?」
「ほら、どんなトコかわからねぇと来づらいんじゃね?
それに、オーナーがもう一枚くらいタダ券くれるかもしんねーし。そしたら、彼女連れて来れるだろ??」
彼女…そんなものは居ない。仲の良い友達というものも居ない。誘うとしたら、綾乃だが…。
「お?草間もそういうヤツが居るのか!意外!!」
「う、うるさい!!」
思わず顔が熱くなる。綾川のヤツ、ニヤニヤしながら俺を見やがる。
そのまま綾川もCDを数枚買って、試聴コーナーから彼女を連れてくる。
「コイツ、北河原恭子。バンド仲間なんだ。で、こっちはウチの高校で隣のクラスの草間薫。」
「よろしくね。」
「あぁ、こちらこそ…。」

一緒にCD屋を出て、ライブハウスに向かう。そこで彼女と綾川が色々喋っている。
「竜士、こんな真面目そうな友達居たんだ!意外!!」
「悪かったな、俺は不真面目で。」
「白薔薇だもんね。そりゃ、みんな真面目なお坊ちゃま、お嬢様ばかりだよね。」
「そうでもねぇよな?草間。」
「…そうだな。少なくとも俺は坊ちゃんじゃない。言うほど真面目でもないしな。」
「おいおい、お前が真面目じゃねぇなら俺はなんなんだよ?」
「…さあな。案外、真面目にしようと思えば真面目にできるんだろう?」
「けっ、学校なんか面倒くせぇだけだぜ。」
「ふふふっ、仲良いね、二人とも。」
「「どこが!!」」
あ。嫌な被り方をした。本当に仲良しみたいじゃないか。

ライブハウスに入って、隅のカウンター席に座り、彼らの練習を見ていた。
マスターが声を掛けてくれて、竜の友達なら、とコークを奢ってくれた。
「竜のヤツ、ちゃんと学校に行ってる?」
「え?あぁ、いや、まぁ、そこそこは…。」
ほのかにレモンの味がするコークを飲みながら話す。
「アイツ、学校サボってやがるな。出入り禁止にしてやろうか?」
「え?あ!でも、遅刻だけどちゃんと来てます!」
「遅刻!?やっぱちゃんと行ってねぇんじゃねぇか!」
あぁ…要らぬ事を喋ってしまった…。
「君は真面目そうだよな。竜が学校の友達連れてくるのも初めてだけど、まさかこんなに真面目な友達が居るなんて。」
友達…。なんか変な感じだ。そんなに仲が良いわけでもないし、春に知り合って、まだ半年くらいでほとんど喋ったことも無いのに。
「綾川は学校では浮いてるけど、良いヤツですよね。真面目にしたら真面目に出来るヤツだと思うんですが。」
「ふふ。なかなかよく見てるじゃん。」
「学校の先生とも、不良止めたらいいのにって。」
「まぁ、止めねぇだろうな。アイツ、期待されんのが嫌なんだよ。」
期待されるのが嫌…。バンドなんかやって、目立ちたがりなんだと思っていた。人々に注目されて期待されたい人種だと思っていた。
俺も期待されるのは苦手だ。
俺の場合は、期待されたくて仕方なくて、でも、結局期待に応えられなくて絶望したんだが。もう、絶望したくないから期待されたくない。
もしかして綾川も過去にそんなことがあったんだろうか??
今日は綾川の意外な一面をたくさん知った…。

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1.本の虫
<3.生徒会へ 5.兄弟>
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