桜薫る 36.桜の誕生日

2010/9/27  0:07 | 投稿者: おるん

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注)本文中にある名称は実在の物・人・団体とはなんら関係ありません。
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 小説内には一部ウェブカレのイベントに近い箇所があります。
 小説内には一部ウェブカレのイベントの内容を引用した箇所があります。(ネタバレ注意)
 小説内の設定は必ずしもウェブカレ公式設定と同じではありません。
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◇◆◇36.桜の誕生日


春休み。四月になればいよいよ受験生。
春期補講が開講されていて、一足早く受験生気分だ。
「薫君、おはよう。今日の予習、やった?」
「おはよう。…当たり前だ。」
二人で通学路の途中で落ち合う。補講は現国と倫理と英語だ。
「昨日、眠くて気が付いたら途中で寝ちゃってて…、あはは…。」
「たまにはそんな日もあるか…。」
「ね、今日、終わったらどうするの?」
「どうするって、何もないが。」
「…そっか。」
残念そうにする君。
分かっている。今日は君の誕生日なんだから。
桜、咲いているかな?中庭の桜、暖かいからか余所の木よりも早く咲いていたはず。
人が少なければ、あそこで昼食でもいいな。
「じゃ、今日も頑張らないとねー。先に行ってるね。」
昇降口の前で自転車の俺と別れる。

暖かい春の日。
せっかくの春休みにわざわざ学校に来て授業を受ける生徒は少ない。
俺からすると、受験生の自覚があるのかと甚だ疑問に思うのだが。
国語の問題を朗読する先生の声が心地良い子守唄のように聞こえる。
といっても、居眠りなんてする訳にはいかない。

今日の問題はこころ。夏目漱石だ。
実のところ、余り好きではない。教科書で読むのは決まって、『下』の『先生と遺書』だ。
学生が色恋に現を抜かしている場合ではなかろうに。それで友人を出し抜いた上に、その友人にはショックで自殺されてしまうのだから。
…色恋に現…俺だってそうか…。

国語の授業が終わって教室を移動する。廊下を歩きながら、桜が喋りだした。
「薫君って、『私』か『K』かだったら、絶対『私』タイプだよね。」
「なんだ?急に??」
「ん。さっきの授業中にずっと思ってたから。」
「ほう。なんで俺が『私』なんだ?」
「だって、奥さんにお嬢さんをくださいって言っちゃうでしょ?あれ、あの方法が一番確実だって分かってたからそうしたんだよね…。それが薫君っぽい。」
「ふふ。なるほどな。『K』だったらどうしたと思う?」
「多分、素直にお嬢さんに告白してると思うなぁ。恋に溺れたのを自覚してたでしょ?とことん馬鹿になるつもりだったのかなぁって。」
「俺は馬鹿になりそうにないか?」
「…なりそうにないなぁ…。」
なんだか当たってるような当たっていないような。
…既に俺は馬鹿になっていると思う。かといって、勉強を疎かにするつもりは微塵もないが。
二人で考え込みながら教室に入って席に着く。
「そういえば、なんで倫理取ったの?」
「じゃあ聞くが、君はどうして倫理を取ったんだ?」
「う、一番簡単そうだったから…。」
「…まぁ、似たような理由だな。センター入試で満点狙えるからな。それに、履修したのが一年の時だから、頭から抜けつつあるしな。」
「なるほど…。センターのことなんて考えてなかった。」
「おい。センター利用のつもりじゃなかったのか?」
「え?まぁ、使えたら使いたいと思ってるけど、受験科目もまだ調べてない…。」
「…呆れるな。後で進路指導室に行って調べてきたまえ。」

二時限目の倫理が終われば、英語は昼からだから二時間半程空く。
進路指導室で調べ物をした後、中庭で桜を見よう。

ソクラテスにプラトン、アリストテレス…、退屈だ。
ギリシャ哲学もいいが、ニーチェとかフロイトなんか面白いのに。
先生が黒板に懐かしい単語を書くのをじっと見ていた。
以前の授業や本で見たことを思い出して、板書ノートの行間に情報を足していく。
家に帰ったら、合っているか、復習しておかないと。


◇◆◇


「おい。午後の授業まで時間があるから、進路指導室に付き合ってやる。」
「うん。ありがとう。」
授業が終わって、薫君に声を掛けられ、二人で教室を出た。
一階の進路指導室に入る。端末はロックされていて使えないけど、資料は見ることができる。
「まだ、新しいのは来てないか…。まぁ、受験科目はさほど変わらないだろうから構わないだろう。」
薫君が書棚から資料を探し当てて取り出し、渡してくれた。
「ええっと…、良かった、センター利用で倫理取れる。でも、一般入試は日本史か世界史か…。」
「ふむ。新学期が始まったら通年の補講が開講されるから、それでどちらかを取ればいい。」
「ふーん。どっちかなら日本史かな…。ありがとう、薫君。」
「いいえ、どういたしまして。まったく、君には驚かされる。」
「ごめんなさい。」
「まぁいい。他の志望校のも調べておきたまえ。」
「うん…。全然決めてないから、今度にしておく。」
「そうか。…じゃあ、花見に行かないか?」
「え?でも、この辺りに花見ができるところって…。」
「あぁ、校内なんだ。」
「へぇ、そうなの?」
「では、行こうか。」
「うん…。」

薫君についていくと、中庭に出た。
「わぁ、もうこんなに咲いてるんだ!」
中庭に一本だけ植わっている桜の大木。
薫君が朝、自転車を止めるときに毎日様子を見てたって言う。
「本当は駄目なんだが…。」
と言って、植え込みの切れ目から芝生に入って桜の木の下に座る。
私も彼の横に座る。
「でも、座ったら、外からほとんど見えないね。」
「あぁ。バラの手入れをしている時に気付いたんだ。結構良い場所じゃないかって。
植え込みの外にはベンチがあるけど、桜に背を向けてしまうし、人通りも気になるから。」
「案外みんな知ってるんじゃないの?」
「そうかもな。でもこの時期は春休みだから、来るヤツはまず居ないと思うがな。」
上を見上げる。キレイに咲いた桜の花びらが時々ひらひらと落ちてくる。
「キレイだね…。」
「あぁ…。」
「なんだか、眠くなってきちゃった…。」
「そうか。…じゃあ、膝を貸してやるぞ?」
「ひ、膝??」
「どうせ寝るなら、横になったほうが楽だろう?」
「そ、そうだけど…。」
「ほら、いいぞ。良い頃合で起こしてやるから。」
そう言って、彼は伸ばした脚の腿辺りを手で軽くはたいた。
「薫君、退屈なんじゃない?」
「借りてきた本を読むから構わない。」
心配なく、と横に置いた鞄から文庫本を一冊取り出した。
「じゃあ、お言葉に甘えようかな…。」
ふあ、と小さな欠伸をした私を見て、彼がぽんぽんと頭を叩く。
そっと横になって、彼の膝に頭を置いた。


◇◆◇


舞い落ちる桜の花びら。暖かい春の陽気。
小さな寝息を立てて眠る君。そしてチェーホフの桜の園。
強いて言うなら、やはり人の頭は重いと言うことか。
きっと、足が痺れて立てなくなるな。仕方ない。

しばし戯曲を読んでいたが、膝の上の彼女の頭が温かくて、不本意ながら眠くなってくる。
文庫本をパタンと閉じて芝生の上に置き、携帯のアラームをセットした。
少しの間、君の横顔を見ながらまどろむとするか。

携帯のアラームに気が付いた彼女が目を覚ます。
「ん、んん…?薫君、携帯鳴ってるよ…?」
「あ?あぁ、もうそんな時間か…。」
ポケットから携帯を取り出してアラームを止める。
「あぁ、よく寝た。」
「私も。気持ちよく眠れたー。」
「ふふ、それは良かった。」
起き上がった彼女の髪についた花びらを優しく払ってやる。
「あ、ありがと。薫君も花びらついてるよ。」
俺を見上げた桜が俺の頭を払った。
「うぅ…。」
「どうしたの?」
「いや、流石に脚の痺れが切れて。…触るなよ!?触ったら怒るからな。」
「うふふ。それって触れってコト??」
「違っ!ホントに止めてくれ!」
「えい!」
彼女が俺の脚を突付く。
「桜っ!ーーーーっ!!」
声にならない悲鳴を上げて芝生にパタッと突っ伏す。
「ご、ごめん!そんなに痛いと思わなくてっ!」
「何分間、俺の脚に乗っていたと思っているんだ…。」
「えっと…うわ、こんなに??」
時計を見た彼女が絶句している。あれから一時間近く経っているのだから。
「まぁいい。一分もしたら楽になるから、ちょっと待て。」
脚が楽になってきた頃にそっと体勢を起こして、鞄を開ける。
「唐突だが、今日、君の誕生日だったよな?」
置きっ放しの文庫本をしまい、彼女へのプレゼントを取り出す。
「覚えててくれたの?」
「当たり前だ。誕生日おめでとう。…大した物ではないが、これを君に。」
彼女は受け取った紙袋を開けた。
「ありがとう。」
「あぁ。チョコココナッツクッキーを焼いてみたんだ。あと、シャーペン。俺が使ってるものと同じものなんだが。」
彼女がギフトケースに入ったシャープペンシルを取り出して握ってみせる。
「凄い!これ、物凄く軽いよ!?」
「うむ、これなら疲れにくいと思って。」
「じゃあ、午後の授業で早速使わせてもらうね。」
「あぁ。」

その場で二人で弁当を広げて食べる。
来年も二人で花見がしたい。来年はもうこの学園を卒業している。どこかもっと広いところでのんびりと。

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1.出会い
<35.生徒会役員選挙 再び 37.新学期−会長の過去>
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