2011/8/28  20:06 | 投稿者: おるん

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◇◆◇嵐を呼ぶ生徒会長

「なんで俺がこんな目に…。」

生徒会室の片隅で布に包まり、小さくなりながら呟く。

事の発端は、綾川先生が俺を雑用のために学校に呼び出した事。
前日から台風が接近していることは分かっていた。
だから朝から学校に来て作業したと言うのに、帰ろうとしたところに更に雑用を頼まれてしまった。
そして先生が所用だと言って出掛けた後、事件が起きた。
「草間会長!車が冠水道路に突っ込んで動かなくなってしまいました!」
「えぇ?先生、大丈夫ですか!?早く救助を!!」
「私は大丈夫、車からはもう降りています。ですが学校には戻れなくなりましたから、あなたも戸締りして早く帰ってください。」
それで先生の電話が切れた。
仕方なく俺は校舎中走り回って見回りと戸締りをし、やっと帰ろうとしたとき、次は西園寺にバラ園の苗を運ぶように頼まれた。
それも黙々とこなして今度こそはと思ったその時、体育館の掃除をしていた生徒会役員達に体育館の上窓が閉まらないと言われ、閉めにいく。
やれやれと思ったのも束の間、次は電車が止まったと帰ったはずの生徒達が学校に戻ってきた。

生徒会室の外は暴風と豪雨、それに雷。
まだ新しい校舎なのに、雨漏りする。しかも、この辺一帯なのか、学校だけなのかは分からないが停電中。
連絡を取ろうにも、天気が悪いせいで、元々繋がり難い携帯電話が益々繋がらない。
生徒会室に備えておいた懐中電灯やろうそく、買い置きしていたお菓子と水で凌いでいる。
ここには今八人居る。
体育館掃除に呼ばれていた生徒会役員達、サトシとノリオとモエとショーコ。
バラ園の世話をしていた西園寺と電車に乗れなくて戻ってきた伊藤と相葉。そして俺。
朝までこのままなのだろうか…。
流石に濡れた制服で気持ち悪いし、体が冷えて寒くなってきた…。

「会長?」
少し離れて座っていた相葉が俺を心配そうに見つめていた。
「なんだ?」
「ちょっと、具合悪いんじゃない?」
そう言って俺に近づいてきて額を触った。
「あれ?これ、熱があるんじゃない?ボクの体操服でよかったら着替える?」
…熱。そういえば久しく発熱などしていなかった。そうか、それでこんなに目眩が…。
「会長!これ使ってください!」
伊藤が立ち上がってなにやら布を持ってきた。チェック模様のネルだ…。
「超高級布地です!!900円もするんです!」
「はぁ?こ、コホン。…使わせて貰って良いのか?」
「どうぞ、どうせもう使わないから…。ぐすん。」
「よく分からないが、ありがとう。」
体操服に着替え、暖かいネルに包まれて執務机の椅子に腰掛ける。
他のメンバーの分もあるのかと聞こうとしたが、人数分は十分にあると思しき量の布を持ってきていた。
「伊藤、ありがとう!俺は良いから、女子に多めに渡してやって。」
「その布代、生徒会の会計で落とせるんちゃう?新学期で良いから、レシートあるなら持ってきいや。」

西園寺はモエとショーコを連れてどこかに行って戻ってきた。
「西園寺さんとお話ししたの初めてだけど、思ったよりずっと気さくな人だったのね。」
「西園寺さん、今度、一緒にお茶会をしましょうよ。」
「ええ、素敵ね。楽しみだわ。」
楽しげに話している女子達は今朝バラ園で摘んだというバラを持ってきて、活けた花瓶を棚の上に飾った。
「暗いからよく見えないけど、良い香りがするでしょう?こんな時だからこそ、少しでも気を紛らわそうと思って。」
確かにほのかにバラの良い香りがする。
西園寺が丹精込めて育てていたバラ。
台風で傷んでしまうくらいなら、綺麗なうちに切り取れて良かったのかもしれない。

本当に今日はツイていない。
今日は夏休み最後の日曜日だったのに。
ななと会えると思っていたのに、アイツは学校に来なかった。
来ていたらこんなことになっていたところだから、来なくて良かったのだけど。
高校生活最後の誕生日だったのに…。このまま彼女に会えないまま終わってしまうのか。
そんなことを一人ブツブツと考えながら、浅い眠りに落ちた。

熱に浮かされて、子供の頃の夢を見る。
内容はわからなかったが、とにかく悲しくて悲しくて泣いている夢。
「行っちゃヤダ…、一緒に居てよ…。」
自分の寝言にハッと驚き、目を覚ました。
誰かが俺の額を冷たいタオルで拭いている。
俺はその誰かの袖の端を掴んでいた。
「ごめんね、薫くん…。」
暗がりの中で、皆に聞こえないように俺の耳元で囁いた声。ななの声だった。
「なな!?」
その瞬間、パチンと誰かが生徒会室の電気をつけた。眩しくて目が開けられない。
二、三人、生徒会室に入ってくる音がする。
「草間会長、大丈夫ですか?」
「熱、出してるって?」
その声は綾川先生と綾川竜士だ。
先生はともかく、なぜ綾川もここに来ているんだ?
やっと目が慣れてきて、周りの状況を確認する。
他の皆も俺の周りに集まってきていて、心配そうに俺の顔を覗いていた。

皆の後ろから、相葉のお姉さんが大きなホールケーキを運んできた。
『草間薫会長 18歳おめでとう』と書いてある。
「…これ…?」
ケーキと綾川先生を交互に見て、質問した。
「そうですよ。あなたを驚かそうと思って。」
「え?台風は?停電は?」
「凄い雨でしたが、さほど被害は無かったのですよ。停電も冠水も電車が止まったのも全部ウソです。」
「だって、本当にスイッチが…。」
「このフロアのブレーカーを落としておいたんです。」
「雨漏りも…。」
「あはははは…、それは本当ですね…。明日にでも業者を呼びましょう。」
「それにしたって、なんでそんなことを…。」
「高校生活最後ですから、伝説的生徒会長を三年間勤めたあなたを、皆で祝いたかったのですよ。」
「ということは…ここに居るヤツは全員、それを知っていて…?知らなかったのは俺だけ…!?」
盛大な罠にまんまと引っかかってしまって呆然としている俺と、そんな俺を囲んでいる皆。
ななが泣きそうな顔で俺を見ながら言う。
「薫くんに喜んでもらいたかったのに…。無理させて、熱出させちゃってごめんね。」
「大丈夫だ…、大したことは無いんだから…。」
なんだか嬉しいのと悔しいのと訳が変わらないのとでごちゃ混ぜだ。
感情が高ぶって泣きそうになる。

「お姉ちゃん、ケーキ食べようよぉ!」
「ほらほら、早く食おうぜ!」
「あんた達、食い意地汚いわよ!」
相葉と綾川がワーワーと騒ぎ出し、相葉のお姉さんがそれをたしなめている。
皆でお茶の用意をし、ケーキに蝋燭を立てて火を灯した。

「♪ハッピーバースディ、トゥーユー♪」
皆が俺のために歌を歌ってくれた。蝋燭の火を一気に吹き消す。
ワァッと歓声と拍手が起きた。
皆が口々に俺への祝いの言葉を言ってくれた。
「みんなありがとう。ははっ、俺としたことが…。…泣きそうになるじゃないか…。」
熱で体がだるいのもあってか、さっきから涙腺が緩んで仕方がない。
最後に隣に居たななが俺に向かって話す。
「おめでとう、薫くん。これからもずっと一緒に居るからね?」
「ああ。ありがとう。そうだな、俺も君の手を離さないからな。これからもよろしく。」
机の下でぎゅっと彼女の手を握った。

コホンと綾川先生が咳払いをする。
「草間会長、コッソリやっているつもりかもしれませんが、皆に見えてますからね。」
「あーあ、アツくて嫌になるねぇ!」
「いっそキスくらいしちゃえば?」
呆れる綾川に、からかう相葉。顔が赤い俺となな。
「ば、バカ!こんな公衆の面前でそんなことが出来るか!」
「あー、じゃあ二人っきりだとそういうことするんだ?」
相葉がニヤニヤしながら聞いてきた。
完全に墓穴だ!ええい、開き直ってやる。
「あぁそうだ!なにか問題でも!?」
「ない…とは言いにくいんですがね?教師としては。」
夜の生徒会室に皆の明るい笑い声が響いた。

-終-
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2011/8/27  1:19 | 投稿者: おるん

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◇◆◇初恋の香り

夏休み最後の特講が化学実験だった。
理科室での実験の後、当番で試薬や器具の片付けをする。
薬品棚の中に見慣れない瓶が混じっていた。

『初恋の香り』

その瓶だけ、葡萄の葉のイラストが印刷されているラベルで、パソコンで作成されているようだった。
「…なんだ、これ?」
そっと瓶を手に取り、蓋を開けて薬品の匂いを嗅ぐ。
爽やかな白葡萄の香りがする。
心なしかアルコールの匂いもする気がする…ワインか?
先生もこんなところに隠してまで酒を飲みたいだなんて…。
理科の先生は今年赴任した中年女性。聞いた年齢よりはかなり若く見える。地味だが、小さくて仕草がかわいらしい人だ。

「草間君、片付け終わった?…あ!」
その人が実験準備室に入ってきて、俺が持っている薬品に気付いて声を上げた。
「うふふ、気になる?その瓶。」
「ええ、まあ。…ワインですか?」
「違うわよ。『初恋の香り』って書いてあるでしょ?」
「そんな下らない冗談を。心配しなくても誰にも言いませんから。」
「それ、私が作ったのよ。それを飲むとね………どうなるか知りたい?」
俺の顔を下から覗き込み、悪戯な微笑を浮かべる。
なんか、先生に大人のエロスを感じる。ドキドキしてきた!
ゴクッと生唾を飲み、喉が鳴った。
「ふふっ。かわいいわね、あなた…。」
先生が俺の喉仏を指先で撫でた。
「それを飲むとね…なんと!近くにいる人が恋しているかどうかわかっちゃうの!」
先生が明るい笑顔で元気に答えた。さっきまでの妖艶さは嘘のように消えていた。
「そんなの飲まなくても何となくわかるんじゃ…。」
「ううん。その人が発する恋愛オーラみたいなのが匂いになってわかるようになるの。」
訝しげな顔をした俺に向かって話し続ける。
「片思いし始めはレモンみたいな爽やかな香りで、一生懸命な恋は桜や薔薇のようなフローラルの香り。酷い失恋は苦い香りがするわね。幸せカップルはフルーティな香りで、性欲の固まりみたいなのはむせ返るほどのムスクの強い香り。そんな若い香りを嗅ぐのが楽しみだったりするのよね。私の若さの秘訣かな?」
「ほう。」
「片思いしている相手が居るなら試してみなさいよ。好きな人が傍に居るほど香りが強くなるから。」
片思い…?真っ先にある女生徒の顔が浮かんだ。
「あ、居るんだ?生徒会長も隅に置けないわね。」
そう言って先生が小さな計量カップに薬品を注ぐ。
手渡されたカップの中身をぐいっと一気に飲み干した。

爽やかな葡萄の香りが喉元を過ぎる。葡萄の香りがみるみるうちにジャコウの香りに変わった。
「せ、んせ、い……。」
激しい目眩と軽い吐き気に襲われ、先生にしがみついた。
「そ、草間君!?」
はぁはぁと俺の熱っぽい吐息の音が響く。
先生のジャコウの香りが官能的過ぎて興奮する。
理性がぶっ飛んで、このまま先生を襲ってしまいそうだ。
「だ、ダメよ!ほら、薬の効き目は30分がピークで1時間で消失するから!早く行ってらっしゃい!」
先生は俺を引き剥がし、ドアに向かって背中を押した。

アイツを探さなくては。
まだ目眩がする身体を無理矢理動かして校内を探す。
アイツが居そうな場所…図書館か…?
途中、色んな生徒とすれ違う。
皆、色んな香りがする。

シトラスの匂いや薔薇の匂い、甘いバニラの匂いやジャコウの匂い、ミントの匂いもする。
色んな匂いがし過ぎて鼻が馬鹿になりそうだ。
図書館に入ると、そこはいつも通りの本の匂いがした。
テスト明けと言うこともあって、生徒がほとんど居ないのだ。
少し落ち着いたな。そう胸を撫で下ろす。
いつも彼女が座っている、一番奥の特等席を目指す。
書架の間を進んでいくと、微かに花の香りが漂ってきた。
閲覧室まで抜けると彼女がうたた寝をしていた。

「なな…。」
小さな声でそっと声を掛けると、すやすやと眠っている彼女が微かな声で寝言を言った。
「かおるく…ん…。」
誰も居ないのを良いことに彼女の頬にキスをした。
「ん…んん……。」
彼女の香りは優しい花の匂いだ。
身じろぎした彼女が目を覚ます。
「…あ!そ、草間くん!!」
目を覚まして俺を視認した彼女の顔が見る見るうちに紅潮する。
同時に彼女の花の匂いが一層強く華やかになった。
「おはよう、眠り姫。」
「何時からそこに!?」
「たった今だ。」
「私、私…変なコト言わなかった??
「いや……誰かの名前を呼んでいたようだがな。」
「誰を呼んでた??」
「さぁ、わからなかったな…。」
「よ、よかった…。」

胸をなでおろした彼女の隣の席に座る。
彼女の髪が揺れるたびに香りが漂ってくる。
これが俺への『初恋の香り』だったらいいな…。
心地良い彼女の香りの中で、彼女の手元に目を遣る。
参考書とノートの間から、パステルピンクの紙が見えた。
彼女が俺の視線に気付き隠すまでの一瞬にとある文字が見えた。

『好きです』

彼女は何も無かったように参考書のページを捲り、問題を解き始める。
「草間君、何しに来たの?何にも持ってないけど??」
「え?あぁ…調べ物をしようと思っていたんだが、何だったかな…。」
「あはは、草間君でもそんなことがあるんだね。」
「ああ…。『初恋の香り』か…。」
初恋の香りという聞きなれない単語に彼女が反応する。
「え?なに、それ?」
「都市伝説だ。飲むとたちまちに誰が誰を好きかわかってしまう薬があるそうだ。」
「そうなんだ…、それを調べに?」
俺の戯言に付き合うように微かに笑みを浮かべていた。
「…君は…恋している相手が居るのか?」
「え!?や、やだ、そんな人居ないよ…。」
「だが…、君からは初恋の香りがする。」
「やだもう!からかってるの?」
ななの両肩を掴んで、俺に向き合わせる。
「いや、からかってなんかいないぞ。俺は、君のその香りが…、君が…。」

愛の告白。続きの言葉を紡ごうとしたその時は薬の効き目がピークになる頃だった。
辺り一帯がピンクに見えるほどの強烈な香り。
良い香りだが流石に刺激が強すぎて再び激しい目眩が襲ってきた。
「なな…。」
机に肘を付いて、体を支えるが間に合わない。そのまま机に突っ伏す。
ななが俺を呼ぶ声も遠くなり、目の前が真っ暗になった。

しばらくして目が覚めた。
薬の効き目が切れたようで、目眩も彼女の残り香も全く無かった。
隣を見遣ると彼女はもう居なかった。
もしかしたら、誰かを呼びに行ったのかもしれない。
彼女を驚かせてしまったな…。
そう思いながら立ち上がると、はらりとピンク色の封筒が足元に落ちた。

『草間薫様』

俺宛の封筒。封を切って中の便箋を取り出す。

『草間君、好きです。

この手紙を渡すつもりはなかったけど、
あまりに熱っぽい目で見るから、黙っていられなくなっちゃった。
私の初恋の香り、そんなに強い香りなのかな?
私もあなたの初恋の香り、知ってたよ。
あなたの初恋の香りは夏のひまわりの香りだった。

それから、明日だよね。
一足早いけど、お誕生日おめでとう。

2011/8/27 七瀬ななより。』

あぁ、君の方が俺よりも先に知っていたなんて。
君を捕まえに行かなくては。

-終-
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