2010/11/27  0:53 | 投稿者: おるん

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◇◆◇9.融和

さて、綾乃にはああ言ったものの、いざとなると何からすればいいか困る。
生徒会長になるには、ある程度、人気や人望が無ければダメだ。
自分で言うのもなんだが、能力はそこそこあると思うし、評判は悪くはないと思う。
だが、いかんせん、友達が居ないのに人望がある訳がない。
愛想良くと言われても、綾川先生や榎本さんみたいに自然に笑えない。
挨拶…くらいならできるか…。

朝、登校してきて昇降口で靴を履き替える。
同じクラスの生徒がやってきた。相葉駿だ。
「おはよう。」
相葉が「お?」という顔をした。今までほとんど話をしたことがないから当然か。
「おはよう。…草間っち、珍しいじゃん?」
「…挨拶くらいはするようにしようと思ってな。」
「へぇ。そういうの、いいと思うよ。」
相葉がさわやかに笑う。あぁ、素直に返事をしてもらって嬉しい。
なんだ、これだけの事でこんなに気分が良いなんて。

相葉の後を歩いて教室に入る。
相葉はいつもどおり元気にクラスメイトに挨拶をしながらズンズン自席に向かって歩いていく。
教室の入り口でその光景を眺めていた。
後から田中亜紀がやってきた。
「草間君、どうしたの?入り口で突っ立って?」
「あ、いや…。お、おはよう。」
「あ、おはよ。」
普通に挨拶して俺の横をすり抜けていった。
向こうで保坂理香子が「アキー!おはよー!!」と彼女を呼んでいる。

自分の席に着いて、鞄の中身を取り出す。
教科書を机に入れていると、図書委員の渡辺がやってきた。俺の斜め後ろの席のヤツだ。
「おはよう、渡辺。」
「おぉ、草間、おはよう。どうしたんだ?今日は機嫌が良さそうじゃないか?」
「そうか?」
「朝から声掛けてくるなんて珍しい。」
「そうだな…。まぁ、気分は良いな。」
「そういや、前言ってた新刊、今日来るらしいぜ。昼にでも図書館に来いよ。」
「お、それは借りに行かないとな。」
渡辺聡はこのクラスでは比較的仲が良いヤツだ。本好きで趣味も合うから。
でも、普段、俺から話しかけることはほとんど無かった。
なんだ、普通に他愛もない会話ができるじゃないか。

自分から壁作っていたのでは誰も入っては来れないな。
壁を作って自分を守っていたつもりだったけど、案外自分を牢獄に捕らえさせていたようなものだったのかもしれない。
まだ壁を全部取っ払うのは怖いが、少しは門を開けて外の世界と関わりを持とう。
他人が優しくしてくれないと思うのは、きっと自分が他人に優しくないからだ。
突然に変われるものではないが、徐々に変わっていけば良い。

「榎本さん、今日の作業、どういう段取りです?」
放課後、生徒会室で作業に取り掛かる前に聞いてみた。
「ん?草間、珍しいな。」
「あ、いや…、その…。」
しどろもどろになっている俺を尻目に、榎本さんが綾乃を見る。
「…あぁ、なるほど。良い心掛けじゃないか。今日はだな…。」
段取りを一通り話してくれた。俺はどの部分をやるつもりなのか答える。
「では、俺は職員室に行ってパンフの予備の印刷を。
それが終わったら、一旦ここに上がってきてから…多分校庭の手伝いですかね。」
「そうだな…多分校庭が一番手が掛かりそうだしな。じゃあ頼んだぜ。」
榎本さんが俺の肩をパシッと叩いた。そして俺にだけ聞こえるように囁いた。
「次期会長!期待してるぞ?」
「なっ!?」
ちょっと顔が熱い。榎本さんがニヤッと笑った。
よし、頑張るか。この人たちなら俺を支えてくれる。この人たちの期待に応えたい。
入学当初は学校なんて適当で良いと思っていた。友人も要らないし、所詮大学までの通過点、勉強だけ出来れば良いと思っていた。
でも、そうじゃない。やっぱり、学校も楽しいほうが良い。この人たちと一緒なら高校生活をより楽しく出来ると思う。

◇◆◇

半年後。生徒会役員選挙が終わった。
職員室の前で三人、集まっていた。
「おめでとう、草間会長。」
綾乃と榎本さんが笑顔でそう言った。俺もその笑顔に応える。
「ありがとうございます。」
俺の顔を見て、榎本さんが続ける。
「なかなかいい顔するようになったじゃないか。」
「でも榎本君、草間君はね、案外人見知りだから、こんな顔するのは私達の前だけよ。」
「それでもいいじゃないか。最初は俺にも無愛想だったからな。」
「ま、そう思えば成長したのかもしれないわね。」
憎まれ口を叩く綾乃に何か言ってやろうかと思ったけど言葉が出ない。寧ろ笑みが出た。
「…先輩方、これからもよろしくお願いします。俺の元で十分に働いていただきますから!」
「了解、会長。」
「分かりました。その前に、新役員さんたちとも仲良くなってくださいね。会長。」
「…仲良くと言われてもだな…。」
新役員…確か中手川歩と安田晶。同じクラスではないから話したことは無い。
考え込んだ俺を見て綾乃が笑った。榎本さんも笑う。
「そんなに考え込むなって。普通にしてりゃ良いんだよ。
愛想は良い方がもちろん良いが、無理して笑わなくてもいい。」
「そうですね…。同い年だから、先輩達よりは気を遣わなくていいはずですからね。」
「あ、言ったな?」
「そうですよ。気を遣ってるんですからね、俺は。」
「嘘つけ!!!」
笑いながら榎本さんが俺を小突いた。俺も綾乃も笑顔だ。

山中先生がやってきた。新役員を二人連れて。
「おう、お前達。早速集まったな?新役員はこれで全員だな。」
俺たちが並んで先生のほうを向く。
「ほら、自己紹介。」
三人で顔を見合わせた。目で合図。俺から順に自己紹介する。
「…俺は、生徒会長の草間薫だ。会計を半年やってきた。よろしくな。」
「俺は副会長の榎本飛鳥だ。生徒会は既に三期目になる。
会計、総務をやってたから、分からないことがあれば聞いてくれ。」
「総務の結城綾乃です。私も生徒会は三期目なの。よろしくね。」
新役員は俺達を前に少し緊張しているようにも見える。
「会計の中手川歩です。生徒会は初めてなのでご指導のほど、よろしくお願いします。」
「書記の安田晶です。中学でも生徒会で書記をしていました。よろしくお願いします。」
二人とも、俺よりはずっと愛想が良い。
何か言わないと…どんな顔をすればいいのか…。
考えていると、榎本さんが背中を肘で小突いた。
自然と、ふふっと笑みがこぼれた。
「では、このメンバーで半年間、よろしくお願いします。」
俺の一声で皆が「はい」と返事をした。
なんだ上手くやれそうじゃないか。良いチームになりそうだ。


-終-

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1.本の虫
<8.自分の居場所
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2010/11/27  0:47 | 投稿者: おるん

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◇◆◇8.自分の居場所

あのライブの日から数日。
俺も綾乃もまた今までどおりの平穏な生活に戻る。
「草間君、文化祭の施設使用のプログラム、これでいいか、各団体に確認してきてくれる?」
「…はい。行ってきます。」
綾乃から書類を受け取り、上の部室街を巡る。

「失礼します。生徒会です。」
軽音楽部のドアをノックして開ける。鋭いエレキの音がアンプから流れている。
思わず耳を塞ぎたくなる。
聞こえていないらしく、もう一度ドアをバンバン叩き、大声で叫ぶ。
「すみませーん!!!生徒会ですー!!!」
キュイーンという音を最後に、一旦全ての音が止む。
「あ?何??」
部長と思しき男子生徒がドラムセットの前から立ち上がりこちらにやってくる。
「あの、文化祭の舞台のスケジュールなんですけど、上演時間、演目はこれでいいか確認お願いします。」
「ああ、わかった。」
書類を手にとって眺める部長。そんな部長にそっと聞いてみる。
「あの、綾川竜士って軽音楽部なんですか?」
「え?誰?」
「あぁ、違うんならいいんです。綾川がギターを弾いているのを見たので、てっきり軽音楽部に入っているのかと。」
「綾川…ギター…あの赤毛か?アイツと同じ中学だった後輩が居て、連れてきてたな。」
「入部しなかったんですか?」
「あぁ、めんどくせぇって。あ、でも文化祭にはちょっと出るみたいだな。後輩に頼み込まれてたから。」
「そうですか…。ま、ステージ馴れはしているかもしれませんね。ROZEで演ってましたから。」
「へぇ!イッチョ前にライブハウスに出てんのか!そりゃ上手いはずだな。
にしても、生徒会役員がライブハウスなんて、意外だな。」
「たまたまです。普段は行きませんから。」
「ふぅん。ま、いいや。このスケジュールでいいよ。曲目は変わるかも知んないけど。」
「ありがとうございます。では、楽しみにしています。」
「おう。」

綾川が文化祭に出る。
そう聞いて、後日、軽音楽部の練習をそっと覗いてみた。綾川がギターを持って部室に居る。
普段、学校なんかどうでもいいという感じだし、友達も居なさそうな綾川。
なんだかんだ面倒そうな顔をしつつも、他のメンバーにギターを教えてやったり、それなりに打ち解けて練習しているようだった。

…綾川は人付き合いが上手いみたいだな…。少なくとも俺よりはずっと。

それなりに皆、自分の居場所を確保している。
俺は…。俺は人付き合いなんて面倒だと思っている。
生徒会の連中とは、綾乃が居ることもあるし、結構気が合うメンバーが揃っているので仲良くやれていると思う。
だが、自分の感情を見せることはほとんどないし、相手の懐に深入りしたこともない。
自分の居場所はこれで十分だと思う一方、もっと居心地をよくすることも出来るのではないかと思ったりもする。

「薫、もうちょっと何か話せばいいのに。」
学校の帰り道、綾乃にそう言われた。
「…俺は必要な事はきちんと伝えているつもりだが?」
「…あのねぇ。確かに必要最小限は満たしているかもしれないけど、皆人間だから感情があるの。」
「…。」
と言われてもどうしろと?
俺の反応を見て、彼女が困った顔をした。
「例えばねぇ…。お店に入って、店員さんに無愛想に機嫌悪そうに『いらっしゃい』って言われるのと、
愛想良くにこやかに『いらっしゃい』って言われるのとどっちが気分良い?」
「…それは…。」
言葉に詰まる。彼女の言いたいことは分かった。
「でしょう?人間ってそんなもんなんだから。気分良く作業してもらおうと思ったら、少しのサービスは必要。
サービスでなくて心から出来ると最高だと思うけど。」
「そんなこと…どうして今言うんだ。」
そんなこと、言われても出来ない。分かっているくせに。
「さっき、榎本君困ってたよ。薫が極力他人と接触するのを避けようとするから作業進捗の管理が大変だって。
ちゃんと自分の作業の進捗報告はしてくれるし、能力があるのも分かってる。
時々、自分のでも他人のでも、先回りして作業進めてくれてたりするものね。
でも、人の気持ちの問題もあるし、人それぞれ思惑というか段取りがあるから、もう少しコミュニケーションを取ってくれると嬉しいって。」
上手くやっていると思っていたのは俺だけということか…。気を遣ったつもりが混乱させてしまったらしい。
「…そう、だな…。今まで全部自分でやろうとしすぎていたかも知れない…。」
「そそ。…でも皆、薫の事、尊敬というか、凄いなって言ってるのよ?…だから、頑張ってよ、次期会長!」
綾乃が俺の背中をバンと叩いた。同時に意外な単語が聞こえた。
「え!?次期会長!?」
「ふふ。ここだけの話だけど、私も榎本君も山中先生も、薫を会長に推そうとしてる。」
綾乃が不敵な笑みを浮かべて俺を見ている。
「な、なんで?平山会長は辞めるつもりなのか?」
「ううん。多分、彼女も出る。でも、私は彼女よりも薫の方が会長に向いてると思うから。」
確かに平山会長はどちらかと言えば行き当たりばったりの感覚人間だから会長には不向きだと思うところもあるが…。
さっき俺にダメ出しをしたところではないか。
「そんな、こんな俺に会長が務まるのか…。」
「中学でもやってきたでしょう?」
「中学とは次元が違うだろう。この学校の生徒会は自治会だ。中学のは自治には程遠い…あんなのは飾りだったじゃないか。」
「飾りでも校則を変えたじゃない。」
「…。」
考え込んだ俺を尻目に、綾乃が優しい笑顔で微笑みかけてくる。
「ま、頑張ってくださいな。まずは愛想良くして友達増やすことからかなぁ。ツンツンしすぎなのよ、薫は。」
「なっ、なんだ、ツンツンって。」
「そのままです。」
「…すぐ年上ぶって偉そうに。」
「だってお姉ちゃんなんだから。…年下のくせに偉そうなのはどっちよ。」
「ふん。まぁいい。期待に応えてやるから見ていろ。」
期待されるのは苦手なはずだったのに、無性に嬉しい俺が居る。
もう少し、学校の中での自分の居場所を居心地良くしてみようと思った。

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<7.ないものねだり 9.融和<完結>>
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