2010/9/27  0:10 | 投稿者: おるん

---------------------------------------------
注)本文中にある名称は実在の物・人・団体とはなんら関係ありません。
 ウェブカレはリンクシンク社のSNSサービス名です。
 小説内には一部ウェブカレのイベントに近い箇所があります。
 小説内には一部ウェブカレのイベントの内容を引用した箇所があります。(ネタバレ注意)
 小説内の設定は必ずしもウェブカレ公式設定と同じではありません。
---------------------------------------------

◇◆◇37.新学期−会長の過去


いよいよ新学期になって、三年に進級した。
クラス替えで、薫君と同じクラス、3-Aになった。綾川君と相葉君とアリサも同じクラスだ。
担任の先生は綾川先生ではなくて数学の山中先生。
クラスで一緒に居る機会が増えて、お互い苗字で呼ぶことが多くなったような気がする。

放課後、彼が私の席に来て言う。
「谷本、今日は手伝えるか?」
「うん。草間君、大丈夫だよ。」
「じゃあ、行こうか。今日は資料を大量に印刷するから。」
「確か、総会の資料だったっけ?」
「あぁ、全校生徒分なのでな。」
「よし、気合入れますか!」
がたんと立ち上がったところで、綾川君が声を掛けてくる。
「よぉ、桜。今日も生徒会か?」
「そうだよ。」
「草間、いい加減、役員以外を使うの止めろって。」
「…そうだな。でも、彼女の手伝いはある意味、便宜上なのでな。」
そう言って薫君が不敵な笑みを浮かべる。
「おいおい、生徒会長さん、そりゃないぜ。いちゃつくのも大義名分かよ。」
「まぁ、君にはそう思ってもらって構わない。もちろん、彼女には十分手伝ってもらっているがな。」
「けっ。程々にしとけよ。」
「忠告感謝する。ではな。」
なんだか、この二人、仲が良いのか悪いのか良く分からないな…。
学年首席と六位…。頭良い人同士、通ずるものがあるのかしら?
「じゃあね、綾川君。」
「じゃあな。」

仲の良いクラスメイトに「また明日」とか「バイバイ」とか声を掛けて教室を出る。
二人で向かいにある生徒会室に向かう。
生徒会室の前には、他の役員が全員揃っていた。
「すまない。待たせた。」
そう言って、薫君が生徒会室の鍵を開けた。
「職員室に鍵がないし、今呼びに行こうかって言ってたんだ。」
「すまない。俺が昼休みに鍵を取りに行って持っていたからな…。」
中手川君に軽く責められて謝る。
ぞろぞろと生徒会室に入り、それぞれ鞄を椅子に置く。
「今日は生徒総会の資料印刷でしょ?」
「ああ。」
晶ちゃんに聞かれて、彼が説明を始める。
「全校生徒六百人と教員五十人分の資料を印刷する。資料は裏表両面にして三枚六頁だ。
教職員用の印刷室の輪転機二台を借りて、手分けして印刷してくれ。
印刷が終わったら、ここで一部ずつ綴じる。」
「じゃあ、手分けしようか。…輪転機の使い方、分かる?」
中手川君が新役員に聞く。会計の二年生、川原雅(みやび)君と書記の二年生、杉井縁(ゆかり)さんだ。
「使ったことがないので…。」
「私も…。」
「ふーん。谷本は?」
「私は使ったことあるよ。」
「全員で行っても仕方ないしな。新役員は今後のために印刷要員決定として。安田と谷本で教えてくれるか?」
「うん。」
「わかった。」
「俺は用紙とインクと取ってくるから、先に行っててくれ。会長は、綴じる用意をしてもらっていいか?」
「あぁ、構わない。早速取り掛かろう。」
彼の言葉で、全員が動き出す。

一時間程度で印刷が終わる。五人で分けて印刷物を運ぶ。
「杉井さん、重くない?大丈夫??」
「谷本さんって、…会長の彼女なんですか?」
「う…。」
ストレートに聞いてくるなぁ。隠してる訳でもないけど、公表して回ってる訳でもないし。
回答に困っていると、晶ちゃんが助け舟。
「事実上、そういうことだよね。」
「うん、まぁね…。」
照れながら同意すると、杉井さんが目を輝かせて言う。
「どおりで、演説、愛がこもってましたもんね。」
「ありがと…。」
階段の下から誰かが私たちに声を掛ける。
「何、下らないコトを話してるんだ。」
「え?」
振り返ると薫君だった。驚いて尋ねる。
「あれ?上に居たんじゃなかったの?」
「あぁ、あちこち探したがステープラーが一つしか無くて。それと針が足りなかったので職員室にな。」
彼が階段を数段上って私を抜いた。
「杉井、重そうだから持ってやる。」
そう言って、杉井さんの持っていた印刷物をヒョイと奪い取った。
「いいのか?会長。彼女のを持ってやらなくて。」
中手川君が意地悪く言う。
「ん?この中では杉井が一番力が無さそうなんでな。」
「会長、ありがとうございます。」
「気にするな。」
薫君らしいと言えばらしい。公平に判断した結果の人選だと思うけど、多分、半分照れ隠しで半分当て付けだ。
一応、彼女ということも否定しないでくれたのでヨシとしようかな。

生徒会室に戻ってきて、印刷物を長机に置いた。
三人が順に三枚の印刷物を取って一部とし、それを残りの三人が綴じていく。
紙の擦れる音とステープラーのカチャンという音が部屋に響く。
しばらくして綴じ終わる。
「よし、終わったな。後は箱に詰めておくから、今日は解散しようか。」


◇◆◇


そして生徒会室に私と薫君。
「桜、すまないが、部数を数えるの手伝ってくれないか?最終確認。」
「うん。いいよ。」
大体数え終わったところで、彼に声を掛ける。
「ねえ、薫君?」
「なんだ?」
「どうして、いつもそんなに冷静なの?」
「そうでもないと思うが…?」
「うん、でも…さっきも全然表情変わらずだったし…。」
「さっき?」
「ほら、階段で。杉井さんが…。」
「あぁ…。あの場で笑っても怒ってもおかしいだろう?」
「そうだけど…。」
「…で、そっちは何部だった?」
「あ、三百部。」
「ふむ。合っているな。」
そう言って、彼はこれまた表情を変えずに机の上の印刷物を台車の上のダンボールに箱詰めしている。
「…こんな俺では嫌か?」
私に背中を向けたまま聞いてくる。
「嫌じゃない。でも、もっと喜怒哀楽を表に出しても良いと思うな。」
「元々社交的な性格ではないのでな。…対人関係に影響しそうで嫌なんだ。でも、桜に出会って、俺は変わってきていると思う。」
「…そうなんだ。そういえば、前に言っていた、昔の薫君って…。」
「聞きたいか?前も言ったが、聞いたら俺のことを嫌になるかもしれないぞ?」
「多分、大丈夫。」
「そうだな…。長くなるぞ。」
「うん…。」
彼はそのまま部屋から出て行く。どうするのかと思って付いていくと、彼が言う。
「手、インクで汚れてないか?」
自分の手を見ると確かに汚れている。彼と並んで手洗い場で手を洗って部屋に戻る。
「そこに座って。」
さっきまで資料がうずたかく積まれていた長机の前に座る。
そのまま彼は戸棚に向かい、戸棚の隅からティーバッグとカップを取り出した。
慣れた手つきでカップにポットのお湯を注ぐ。
私の前と隣にお茶の入ったカップを置く。そして彼が私の隣に座った。
「このことを他人に話すのは初めてかもしれない…。」
「…。」
「俺は三人兄弟の一番上で…。以前、穂にも梓にも会ったよな。」
「うん。」
「それから、父は高校教師で、母は看護婦だ。典型的な共稼ぎ世帯だな。」
「ふぅん。」
「今の俺を見ても想像が付くと思うが、ウチの父はかなり厳格だ。母も職業柄忙しくてな。」
「うん。」
「子供の頃から弟と妹の世話を見ている。両親からは子供の頃から完璧を求められてきた、と思っている。」
「…。」
「父には些細なことでも失敗すれば手を上げられたりすることもあった。」
「そうなんだ…。」
「それに、弟や妹の模範とならなければならないといつもプレッシャーに押しつぶされそうだった。」
「…。」
「母は母でこんな俺でも自慢に思っていてくれるようだし、何より、弟や妹のためにも成績優秀で奨学生となり、家計に負担をかけずに良い高校、良い大学に行かなくてはと頑張っていたんだ。」
「すごく良い話じゃない?親孝行だよ。」
「あぁ。それだけならそうだな。」
「??」
「…。」
黙り込んだ彼が、はぁっとため息をついた。顔色が悪くなっていた。
目の前の紅茶にも手を付けずで、どんどん冷めていく。
「薫君、辛いならいいよ、無理しないで。」
「いや、いつか話すと約束したんだ。今話すと覚悟を決めたんだ。」
「…。」
「俺はいつしか、一番の成績を修めることに重きを置くようになった。皆が受験に関心を持つようになってきた頃、中学二年の頃だな。」
「うん。」
「定期テストでいつも俺と競っていたヤツを貶めようとしたんだ。」
「…。」
「教科書やノートを隠したり、カンニングしているのではないかという噂を流したり。」
「…。」
「結局、ヤツは万年二位だった。多分、俺が嫌がらせをしていることは分かっていたのだと思うが、何も言わなかったんだ。」
「…。」
「もしかしたら、実力でも俺に敵わないと思っていたからかも知れない。」
「…。」
「気がついた時にはクラスで孤立していて、余裕がなくなっていた俺は、ヤツが何も言わないことに余計腹が立った。」
「…それで…?」
「ある日、些細なことで言い合いになり、とうとう俺がヤツに手を上げた。『私に言い掛かりをつけるのか』と。」
「…。」
「ヤツがそのとき言った言葉。『やっと挑発に乗ってくれて嬉しいよ。これで君の進学は絶望的だね。』って。」
「えっ?」
「…要するに、俺だけではなく、ヤツも俺を貶めようとしてたんだ。同じ穴のムジナというか類は友を呼ぶというか。そこで我に返った。今まで俺は何をしていたんだ、と。」
「うん。」
「他人を蹴落とす必要なんかなかったのに、つまらないことをして、自分で自分の首を絞めたんだ。」
「それって…。」
「そうだ。俺がいつも言っている言葉、『他人を蹴落とそうとしているうちはまだまだ二流』の元になった事件だ。」
「その後、どうなったの…?」
「結局、ヤツも大した怪我をしなかったので、学校側が話を付けてくれて、親を呼ばれて大目玉だったが、オオゴトにされなくて済んだ。俺は家に帰ってから、父には鉄拳食らわされ、母には泣きつかれたがな。」
「そっかぁ…。薫君でもそんなことがあったんだね。」
「あぁ…。その事件で両親も俺に期待を掛けすぎたと思ったようで、両親とは未だにギクシャクした感じが残っているのだが。それ以来だな。気持ちを揺さぶられないように、常に冷静沈着で居よう、周りに流されず、自分のできることを精一杯やろう、と決めたのは。」
うつむいた彼の目から涙が溢れていて、机に雫が落ちていた。
「その彼は?」
彼が眼鏡を外してレンズをハンカチで拭く。
「さぁな、この前、君と一緒に下校したとき、途中で出会っただろう?あれが久々だった。制服からすると、明稜高校に進学したんだろうな。」
「あぁ、だからなんとなく…な感じだったんだ。」
「そうだ。俺って嫌なヤツだろう?」
彼は涙を流した跡を隠しもせず、赤くなった目で私を見つめて微笑んだ。
「うん、まぁ、ちょっとやりすぎかなと思うけど…、でも、人間らしくていいと思うよ。」
「そうか。恥ずべき部分を他人に話したのは君が初めてだ。俺の心をどんどん表に出させてしまうのだから。…君は不思議な人間だな。」
「そうかな?…薫君、昔は自分のこと『俺』じゃなくて『私』って言ってたの?」
「なっ…!いや、その、それはだな、少しでも大人に近づきたくて、だな…。」
「なんか、かわいいね。ふふ。」
そう言って、私のハンカチで彼の頬を拭いた。
「わ、笑うなっ。」
彼がむくれてそっぽを向いた。
「…桜、最後まで聞いてくれてありがとう。」
向こうを向いたまま小さな声でそう言った。
「ううん。薫君こそ、辛いことを話してくれてありがとう。大好き。」
隣に座る彼に抱きついた。彼の傷が癒えるといい。優しいあなたが大好きだから。

---------------------------------------------
1.出会い
<36.桜の誕生日 38.修学旅行(前編)>
---------------------------------------------
1

2010/9/27  0:07 | 投稿者: おるん

---------------------------------------------
注)本文中にある名称は実在の物・人・団体とはなんら関係ありません。
 ウェブカレはリンクシンク社のSNSサービス名です。
 小説内には一部ウェブカレのイベントに近い箇所があります。
 小説内には一部ウェブカレのイベントの内容を引用した箇所があります。(ネタバレ注意)
 小説内の設定は必ずしもウェブカレ公式設定と同じではありません。
---------------------------------------------

◇◆◇36.桜の誕生日


春休み。四月になればいよいよ受験生。
春期補講が開講されていて、一足早く受験生気分だ。
「薫君、おはよう。今日の予習、やった?」
「おはよう。…当たり前だ。」
二人で通学路の途中で落ち合う。補講は現国と倫理と英語だ。
「昨日、眠くて気が付いたら途中で寝ちゃってて…、あはは…。」
「たまにはそんな日もあるか…。」
「ね、今日、終わったらどうするの?」
「どうするって、何もないが。」
「…そっか。」
残念そうにする君。
分かっている。今日は君の誕生日なんだから。
桜、咲いているかな?中庭の桜、暖かいからか余所の木よりも早く咲いていたはず。
人が少なければ、あそこで昼食でもいいな。
「じゃ、今日も頑張らないとねー。先に行ってるね。」
昇降口の前で自転車の俺と別れる。

暖かい春の日。
せっかくの春休みにわざわざ学校に来て授業を受ける生徒は少ない。
俺からすると、受験生の自覚があるのかと甚だ疑問に思うのだが。
国語の問題を朗読する先生の声が心地良い子守唄のように聞こえる。
といっても、居眠りなんてする訳にはいかない。

今日の問題はこころ。夏目漱石だ。
実のところ、余り好きではない。教科書で読むのは決まって、『下』の『先生と遺書』だ。
学生が色恋に現を抜かしている場合ではなかろうに。それで友人を出し抜いた上に、その友人にはショックで自殺されてしまうのだから。
…色恋に現…俺だってそうか…。

国語の授業が終わって教室を移動する。廊下を歩きながら、桜が喋りだした。
「薫君って、『私』か『K』かだったら、絶対『私』タイプだよね。」
「なんだ?急に??」
「ん。さっきの授業中にずっと思ってたから。」
「ほう。なんで俺が『私』なんだ?」
「だって、奥さんにお嬢さんをくださいって言っちゃうでしょ?あれ、あの方法が一番確実だって分かってたからそうしたんだよね…。それが薫君っぽい。」
「ふふ。なるほどな。『K』だったらどうしたと思う?」
「多分、素直にお嬢さんに告白してると思うなぁ。恋に溺れたのを自覚してたでしょ?とことん馬鹿になるつもりだったのかなぁって。」
「俺は馬鹿になりそうにないか?」
「…なりそうにないなぁ…。」
なんだか当たってるような当たっていないような。
…既に俺は馬鹿になっていると思う。かといって、勉強を疎かにするつもりは微塵もないが。
二人で考え込みながら教室に入って席に着く。
「そういえば、なんで倫理取ったの?」
「じゃあ聞くが、君はどうして倫理を取ったんだ?」
「う、一番簡単そうだったから…。」
「…まぁ、似たような理由だな。センター入試で満点狙えるからな。それに、履修したのが一年の時だから、頭から抜けつつあるしな。」
「なるほど…。センターのことなんて考えてなかった。」
「おい。センター利用のつもりじゃなかったのか?」
「え?まぁ、使えたら使いたいと思ってるけど、受験科目もまだ調べてない…。」
「…呆れるな。後で進路指導室に行って調べてきたまえ。」

二時限目の倫理が終われば、英語は昼からだから二時間半程空く。
進路指導室で調べ物をした後、中庭で桜を見よう。

ソクラテスにプラトン、アリストテレス…、退屈だ。
ギリシャ哲学もいいが、ニーチェとかフロイトなんか面白いのに。
先生が黒板に懐かしい単語を書くのをじっと見ていた。
以前の授業や本で見たことを思い出して、板書ノートの行間に情報を足していく。
家に帰ったら、合っているか、復習しておかないと。


◇◆◇


「おい。午後の授業まで時間があるから、進路指導室に付き合ってやる。」
「うん。ありがとう。」
授業が終わって、薫君に声を掛けられ、二人で教室を出た。
一階の進路指導室に入る。端末はロックされていて使えないけど、資料は見ることができる。
「まだ、新しいのは来てないか…。まぁ、受験科目はさほど変わらないだろうから構わないだろう。」
薫君が書棚から資料を探し当てて取り出し、渡してくれた。
「ええっと…、良かった、センター利用で倫理取れる。でも、一般入試は日本史か世界史か…。」
「ふむ。新学期が始まったら通年の補講が開講されるから、それでどちらかを取ればいい。」
「ふーん。どっちかなら日本史かな…。ありがとう、薫君。」
「いいえ、どういたしまして。まったく、君には驚かされる。」
「ごめんなさい。」
「まぁいい。他の志望校のも調べておきたまえ。」
「うん…。全然決めてないから、今度にしておく。」
「そうか。…じゃあ、花見に行かないか?」
「え?でも、この辺りに花見ができるところって…。」
「あぁ、校内なんだ。」
「へぇ、そうなの?」
「では、行こうか。」
「うん…。」

薫君についていくと、中庭に出た。
「わぁ、もうこんなに咲いてるんだ!」
中庭に一本だけ植わっている桜の大木。
薫君が朝、自転車を止めるときに毎日様子を見てたって言う。
「本当は駄目なんだが…。」
と言って、植え込みの切れ目から芝生に入って桜の木の下に座る。
私も彼の横に座る。
「でも、座ったら、外からほとんど見えないね。」
「あぁ。バラの手入れをしている時に気付いたんだ。結構良い場所じゃないかって。
植え込みの外にはベンチがあるけど、桜に背を向けてしまうし、人通りも気になるから。」
「案外みんな知ってるんじゃないの?」
「そうかもな。でもこの時期は春休みだから、来るヤツはまず居ないと思うがな。」
上を見上げる。キレイに咲いた桜の花びらが時々ひらひらと落ちてくる。
「キレイだね…。」
「あぁ…。」
「なんだか、眠くなってきちゃった…。」
「そうか。…じゃあ、膝を貸してやるぞ?」
「ひ、膝??」
「どうせ寝るなら、横になったほうが楽だろう?」
「そ、そうだけど…。」
「ほら、いいぞ。良い頃合で起こしてやるから。」
そう言って、彼は伸ばした脚の腿辺りを手で軽くはたいた。
「薫君、退屈なんじゃない?」
「借りてきた本を読むから構わない。」
心配なく、と横に置いた鞄から文庫本を一冊取り出した。
「じゃあ、お言葉に甘えようかな…。」
ふあ、と小さな欠伸をした私を見て、彼がぽんぽんと頭を叩く。
そっと横になって、彼の膝に頭を置いた。


◇◆◇


舞い落ちる桜の花びら。暖かい春の陽気。
小さな寝息を立てて眠る君。そしてチェーホフの桜の園。
強いて言うなら、やはり人の頭は重いと言うことか。
きっと、足が痺れて立てなくなるな。仕方ない。

しばし戯曲を読んでいたが、膝の上の彼女の頭が温かくて、不本意ながら眠くなってくる。
文庫本をパタンと閉じて芝生の上に置き、携帯のアラームをセットした。
少しの間、君の横顔を見ながらまどろむとするか。

携帯のアラームに気が付いた彼女が目を覚ます。
「ん、んん…?薫君、携帯鳴ってるよ…?」
「あ?あぁ、もうそんな時間か…。」
ポケットから携帯を取り出してアラームを止める。
「あぁ、よく寝た。」
「私も。気持ちよく眠れたー。」
「ふふ、それは良かった。」
起き上がった彼女の髪についた花びらを優しく払ってやる。
「あ、ありがと。薫君も花びらついてるよ。」
俺を見上げた桜が俺の頭を払った。
「うぅ…。」
「どうしたの?」
「いや、流石に脚の痺れが切れて。…触るなよ!?触ったら怒るからな。」
「うふふ。それって触れってコト??」
「違っ!ホントに止めてくれ!」
「えい!」
彼女が俺の脚を突付く。
「桜っ!ーーーーっ!!」
声にならない悲鳴を上げて芝生にパタッと突っ伏す。
「ご、ごめん!そんなに痛いと思わなくてっ!」
「何分間、俺の脚に乗っていたと思っているんだ…。」
「えっと…うわ、こんなに??」
時計を見た彼女が絶句している。あれから一時間近く経っているのだから。
「まぁいい。一分もしたら楽になるから、ちょっと待て。」
脚が楽になってきた頃にそっと体勢を起こして、鞄を開ける。
「唐突だが、今日、君の誕生日だったよな?」
置きっ放しの文庫本をしまい、彼女へのプレゼントを取り出す。
「覚えててくれたの?」
「当たり前だ。誕生日おめでとう。…大した物ではないが、これを君に。」
彼女は受け取った紙袋を開けた。
「ありがとう。」
「あぁ。チョコココナッツクッキーを焼いてみたんだ。あと、シャーペン。俺が使ってるものと同じものなんだが。」
彼女がギフトケースに入ったシャープペンシルを取り出して握ってみせる。
「凄い!これ、物凄く軽いよ!?」
「うむ、これなら疲れにくいと思って。」
「じゃあ、午後の授業で早速使わせてもらうね。」
「あぁ。」

その場で二人で弁当を広げて食べる。
来年も二人で花見がしたい。来年はもうこの学園を卒業している。どこかもっと広いところでのんびりと。

---------------------------------------------
1.出会い
<35.生徒会役員選挙 再び 37.新学期−会長の過去>
---------------------------------------------
0




AutoPage最新お知らせ