ハッピーバースデイ 会長 2011 「初恋の香り」

2011/8/27  1:19 | 投稿者: おるん

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◇◆◇初恋の香り

夏休み最後の特講が化学実験だった。
理科室での実験の後、当番で試薬や器具の片付けをする。
薬品棚の中に見慣れない瓶が混じっていた。

『初恋の香り』

その瓶だけ、葡萄の葉のイラストが印刷されているラベルで、パソコンで作成されているようだった。
「…なんだ、これ?」
そっと瓶を手に取り、蓋を開けて薬品の匂いを嗅ぐ。
爽やかな白葡萄の香りがする。
心なしかアルコールの匂いもする気がする…ワインか?
先生もこんなところに隠してまで酒を飲みたいだなんて…。
理科の先生は今年赴任した中年女性。聞いた年齢よりはかなり若く見える。地味だが、小さくて仕草がかわいらしい人だ。

「草間君、片付け終わった?…あ!」
その人が実験準備室に入ってきて、俺が持っている薬品に気付いて声を上げた。
「うふふ、気になる?その瓶。」
「ええ、まあ。…ワインですか?」
「違うわよ。『初恋の香り』って書いてあるでしょ?」
「そんな下らない冗談を。心配しなくても誰にも言いませんから。」
「それ、私が作ったのよ。それを飲むとね………どうなるか知りたい?」
俺の顔を下から覗き込み、悪戯な微笑を浮かべる。
なんか、先生に大人のエロスを感じる。ドキドキしてきた!
ゴクッと生唾を飲み、喉が鳴った。
「ふふっ。かわいいわね、あなた…。」
先生が俺の喉仏を指先で撫でた。
「それを飲むとね…なんと!近くにいる人が恋しているかどうかわかっちゃうの!」
先生が明るい笑顔で元気に答えた。さっきまでの妖艶さは嘘のように消えていた。
「そんなの飲まなくても何となくわかるんじゃ…。」
「ううん。その人が発する恋愛オーラみたいなのが匂いになってわかるようになるの。」
訝しげな顔をした俺に向かって話し続ける。
「片思いし始めはレモンみたいな爽やかな香りで、一生懸命な恋は桜や薔薇のようなフローラルの香り。酷い失恋は苦い香りがするわね。幸せカップルはフルーティな香りで、性欲の固まりみたいなのはむせ返るほどのムスクの強い香り。そんな若い香りを嗅ぐのが楽しみだったりするのよね。私の若さの秘訣かな?」
「ほう。」
「片思いしている相手が居るなら試してみなさいよ。好きな人が傍に居るほど香りが強くなるから。」
片思い…?真っ先にある女生徒の顔が浮かんだ。
「あ、居るんだ?生徒会長も隅に置けないわね。」
そう言って先生が小さな計量カップに薬品を注ぐ。
手渡されたカップの中身をぐいっと一気に飲み干した。

爽やかな葡萄の香りが喉元を過ぎる。葡萄の香りがみるみるうちにジャコウの香りに変わった。
「せ、んせ、い……。」
激しい目眩と軽い吐き気に襲われ、先生にしがみついた。
「そ、草間君!?」
はぁはぁと俺の熱っぽい吐息の音が響く。
先生のジャコウの香りが官能的過ぎて興奮する。
理性がぶっ飛んで、このまま先生を襲ってしまいそうだ。
「だ、ダメよ!ほら、薬の効き目は30分がピークで1時間で消失するから!早く行ってらっしゃい!」
先生は俺を引き剥がし、ドアに向かって背中を押した。

アイツを探さなくては。
まだ目眩がする身体を無理矢理動かして校内を探す。
アイツが居そうな場所…図書館か…?
途中、色んな生徒とすれ違う。
皆、色んな香りがする。

シトラスの匂いや薔薇の匂い、甘いバニラの匂いやジャコウの匂い、ミントの匂いもする。
色んな匂いがし過ぎて鼻が馬鹿になりそうだ。
図書館に入ると、そこはいつも通りの本の匂いがした。
テスト明けと言うこともあって、生徒がほとんど居ないのだ。
少し落ち着いたな。そう胸を撫で下ろす。
いつも彼女が座っている、一番奥の特等席を目指す。
書架の間を進んでいくと、微かに花の香りが漂ってきた。
閲覧室まで抜けると彼女がうたた寝をしていた。

「なな…。」
小さな声でそっと声を掛けると、すやすやと眠っている彼女が微かな声で寝言を言った。
「かおるく…ん…。」
誰も居ないのを良いことに彼女の頬にキスをした。
「ん…んん……。」
彼女の香りは優しい花の匂いだ。
身じろぎした彼女が目を覚ます。
「…あ!そ、草間くん!!」
目を覚まして俺を視認した彼女の顔が見る見るうちに紅潮する。
同時に彼女の花の匂いが一層強く華やかになった。
「おはよう、眠り姫。」
「何時からそこに!?」
「たった今だ。」
「私、私…変なコト言わなかった??
「いや……誰かの名前を呼んでいたようだがな。」
「誰を呼んでた??」
「さぁ、わからなかったな…。」
「よ、よかった…。」

胸をなでおろした彼女の隣の席に座る。
彼女の髪が揺れるたびに香りが漂ってくる。
これが俺への『初恋の香り』だったらいいな…。
心地良い彼女の香りの中で、彼女の手元に目を遣る。
参考書とノートの間から、パステルピンクの紙が見えた。
彼女が俺の視線に気付き隠すまでの一瞬にとある文字が見えた。

『好きです』

彼女は何も無かったように参考書のページを捲り、問題を解き始める。
「草間君、何しに来たの?何にも持ってないけど??」
「え?あぁ…調べ物をしようと思っていたんだが、何だったかな…。」
「あはは、草間君でもそんなことがあるんだね。」
「ああ…。『初恋の香り』か…。」
初恋の香りという聞きなれない単語に彼女が反応する。
「え?なに、それ?」
「都市伝説だ。飲むとたちまちに誰が誰を好きかわかってしまう薬があるそうだ。」
「そうなんだ…、それを調べに?」
俺の戯言に付き合うように微かに笑みを浮かべていた。
「…君は…恋している相手が居るのか?」
「え!?や、やだ、そんな人居ないよ…。」
「だが…、君からは初恋の香りがする。」
「やだもう!からかってるの?」
ななの両肩を掴んで、俺に向き合わせる。
「いや、からかってなんかいないぞ。俺は、君のその香りが…、君が…。」

愛の告白。続きの言葉を紡ごうとしたその時は薬の効き目がピークになる頃だった。
辺り一帯がピンクに見えるほどの強烈な香り。
良い香りだが流石に刺激が強すぎて再び激しい目眩が襲ってきた。
「なな…。」
机に肘を付いて、体を支えるが間に合わない。そのまま机に突っ伏す。
ななが俺を呼ぶ声も遠くなり、目の前が真っ暗になった。

しばらくして目が覚めた。
薬の効き目が切れたようで、目眩も彼女の残り香も全く無かった。
隣を見遣ると彼女はもう居なかった。
もしかしたら、誰かを呼びに行ったのかもしれない。
彼女を驚かせてしまったな…。
そう思いながら立ち上がると、はらりとピンク色の封筒が足元に落ちた。

『草間薫様』

俺宛の封筒。封を切って中の便箋を取り出す。

『草間君、好きです。

この手紙を渡すつもりはなかったけど、
あまりに熱っぽい目で見るから、黙っていられなくなっちゃった。
私の初恋の香り、そんなに強い香りなのかな?
私もあなたの初恋の香り、知ってたよ。
あなたの初恋の香りは夏のひまわりの香りだった。

それから、明日だよね。
一足早いけど、お誕生日おめでとう。

2011/8/27 七瀬ななより。』

あぁ、君の方が俺よりも先に知っていたなんて。
君を捕まえに行かなくては。

-終-
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