ヴィンス・バイザー著、藤崎百合訳「砂と人間 いかにして砂が文明を変容させたか」(草思社)を読みました。
南紀白浜にバス旅行で行ったことがあります。
その名のとおり、美しく白い砂浜がありました。
と思ったら、バスガイドいわく、砂がなくなっていくのでオーストラリアから輸入して補充しているんだとか。
たいへん驚きました。
しかし、この本によると、マイアミビーチやパームビーチをはじめ、ビーチに依存しているフロリダ州の多くの町で、深刻な砂の浸食が進んでいるそうです。
そのため、砂浜を継ぎ足す「養浜」は、すでに一大産業になっています。
アメリカでは、全国的に何百キロもの砂浜を人工的に再建しているのです。
フロリダ州にかぎらずアメリカ全土、南アフリカから日本、そして西ヨーロッパと世界中で砂浜はなくなりつつあるのです。
それをもたらしているのは、人間の活動です。
大規模な沿岸の開発、河川に設けたダム、海岸から上流域における砂の採掘や海での浚渫などが原因です。
海岸の景観を維持するような砂ビジネスは、本書で語る砂の実態のほんの一部です。
さまざまな用途で砂は使われています。
現代社会を形作るコンクリートには砂が必須です。
道路のアスファルト舗装にも砂が欠かせません。
ガラスもまた、砂を原料としています。
さらに、純度の高い石英の砂はシリコンチップや光ファイバーケーブル、その他のハイテク素材の原料になります。
また、アメリカで盛んなシェールオイル・シェールガスの採掘には砂を大量に使うフラッキングという技術が使われます。
ドバイのような豊かな国は、砂で海を埋め立ててリゾート地を創りだし、領土を広げています。
そういえば、関西国際空港も、砂で海を埋め立てて作りましたね。
縁の下の力持ちである砂は、一般の人々の注目を浴びることは少ないのでしょう。
しかし、現在、とてつもない量の砂が違法採掘され、砂をめぐって人命が奪われています。
サンゴや魚が死に絶え、海産資源で生計を立ててきた人々が破産しています。
かつては、全人類のうちほんの一握りの人々が豊かな生活を送っていました。
しかし、現代、中国や開発途上国では膨大な数の人々が都市で生活するようになり、豊かな生活を追い求めるようになっています。
それにつれて、砂の消費量は激増しているわけです。
水の問題は注目を集めることがありますが、砂の問題もまた全人類が直面している深刻な課題です。
石川五右衛門は、「浜の真砂(まさご)は尽きるとも世に盗人(ぬすびと)の種は尽きまじ」という辞世の句を残したと言われています。
海辺にある砂を、数がきわめて多いことのたとえに使ったわけですが、それが簡単に尽きてしまう世の中になったわけです。
それにしても、この著者のバイタリティーには驚嘆させられます。
多くの現場に出向き、危険をともないながら、多くの関係者から話を聞き出し、本質を把握します。
博識にもとづいた科学・工学的な記述はわかりやすくて助かります。
素晴らしい本でした。