講談社ブルーバックスは、1963年9月に初めて発刊されました。
第1巻は、菊池誠「人工頭脳時代」でした。
ずいぶん先進的、というか、半世紀も先走っていたのではないでしょうか。
その後、延々と、科学を身近にする読み物を出版し続けています。
今回、久しぶりに買ったのが、その第1935巻にあたる和田美代子著、高橋俊成監修「日本酒の科学 水・米・麹の伝統の技」(2015年9月20日初版)です。
とっくに「ウイスキーの科学」、「ビールの科学」、「ワインの科学」は出版されています。
それらと比べると、遅かったといえます。
私は、学生時代に、ブルーバックス第24巻、佐藤信「酒を楽しむ本 推計学がわりだした実践的飲酒法」(昭和39年10月30日初版)の第18刷(昭和53年1月15日)を買いました。
なんと、挿し絵は、色っぽいカッパの絵でおなじみの小島功によるものでした。
著者である和田氏は、日本酒の専門家というわけではなく、サイエンスライターのようです。
監修した高橋氏が、菊正宗酒造(株)で生酛(きもと)に関する研究に携わった日本酒の専門家です。
そのせいか、生酛造りについて、とくに詳しく紹介しています。
なお、酒税法では、「日本酒」という用語はなく、「清酒」で統一されています。
ワインは、ブドウジュースを発酵させて作りますが、ブドウの果実に糖分(ブドウ糖)が含まれていますので、ただ寝かせておけば、酵母の作用で、糖分がアルコールに変わります。
(ワインを蒸留すれば、ブランデーになります。)
ビールの原料の大麦には、デンプンはありますが、糖分が含まれていません。
そこで、大麦を発芽させることにより、もともと含まれる糖化酵素(アミラーゼ)を活性化させ、デンプンを糖化します。
そこにホップと水を加えた麦汁をつくり、これに酵母を入れてアルコール発酵させます。
したがって、糖化させるタンクと発酵させるタンクの2つが必要です。
(ビールを蒸留すれば、ウイスキーになります。)
日本酒は、酒米という米からつくります。
大麦と同じく、デンプンを含んでいますが、糖分はありません。
そこで、原料を糖化させなければなりませんが、原料に含まれる酵素ではなく、麴菌を用います。
さらに酵母を加えて、アルコール発酵させます。
日本酒醸造の特色は、糖化と発酵を1つのタンク内で同時に進行させる点です。
(日本酒を蒸留すると、焼酎になります。)
ここで、問題となるのは、雑菌の繁殖をいかに防ぐかということです。
そこで、活躍するのは、乳酸菌。
乳酸菌がpHを7(中性)から4以下(酸性)にシフトさせ、酸性に弱い雑菌を増殖させません。
この乳酸菌を自然に増殖させるのが生酛で、添加するのが速醸酛(そくじょうもと)といいます。
生酛の製造には、時間がかかるし、高度な技術が必要となるので、現在は、速醸酛が一般的です。
この乳酸菌が最後まで残っては困るのですが、アルコールに弱いため、発酵が進むと死滅します。
本当によくできたメカニズムです。
この本は、こういった製造過程についての科学的な記述に紙面を割いています。
ちょっとだけ難しいところもあります。
そのへんをガマンして読み進めれば、美味しい飲み方や選び方の章になります。
「○○正宗」という日本酒の名称がなぜ多いか、といった雑学も豊富です。
酒飲みにとって嬉しいのは、日本酒の効用をあげてくれているところ。
「酒は百薬の長」と言われますが、心臓病、がん、糖尿病、肝硬変(?)、骨粗鬆症、アルツハイマー型認知症などの予防や改善に効果があるのだそうです!
善玉コレステロールを増やす、ストレスを解消する、さらには、放射線防護作用もあるのだとか!
とはいうものの、「適度な飲酒は、」という前提がくせ者です。
私たち酒飲みが、たった1合の酒で満足できるわけがありません。
