またまた、同じようなジャンルの本を読んだので、紹介します。
松谷明彦「東京劣化 地方以上に劇的な首都の人口問題」(PHP新書)です。
著者は、大蔵省を経て、政策研究大学院大学教授だった人で、人口減少研究における日本の第一人者だそうです。
昨年、日本創成会議の提言、そして座長・増田寛也元総務相編著の「地方消滅」(中公新書)が話題になりました。
そのなかで、2040年には若年女性の減少により、全国で896の市区町村が消滅の可能性があるとされました。
松谷氏は、日本創成会議のメンバーではありません。
この本では、日本創成会議の提言に、直接的には言及していません。
しかし、議論のもととしている人口統計データは、ともに国立社会保障・人口問題研究所(社人研)によるものです。
同じデータであっても、そこから未来をどう予測するかは、社会科学者としての腕の見せ所なんでしょうね。
こんな記述があります。
「それを見て、『地方の消滅』を懸念する向きがあるが、杞憂(きゆう)である。」
やっぱり日本創成会議の提言を意識しているようです。
この本には、斬新な指摘がたくさんあります。
たとえば、日本のベビーブームは3回あったというのです。
戦後の第1次ベビーブームと、その子世代の第2次ベビーブームは、誰でも知っています。
もうひとつ、その前にベビーブームがあったのです。
それは、戦前の「産めよ殖やせよ」の世代なのです。
兵士増強のための出産奨励策だったわけですが、「この政策で生まれた子どもの大部分は、戦争中には成人にまでならなかったのです。そして実は、この世代が、戦後の高度経済成長の立役者になったのです。」
まさに、私の両親の世代です!
この世代に引き続いて第1次ベビーブーム世代、つまり「団塊の世代」が大量に生まれたので、現在、高齢者が諸外国よりずっと多いわけです。
したがって、これから急激な人口減少が始まります。
これは、避けられない事実です。
少子化とは関係ありません。
「政府の人口政策は、戦後、180度変わります。大規模な産児制限です。戦争による男手の不足から田畑は荒れ放題の上、海外の植民地を失ったことで、日本人が大量に引き揚げてきた来たのがこの時代です。その上ベビーブームが続いては、日本は飢餓状態になるとの判断から、大規模な産児制限が実施されました。政策手段は人工妊娠中絶です。1950年4月1日、優生保護法改正法が施行され、改正前に260万人だった年間出生者数は、施行後、なんと160万人にまで激減します。」
そうか、私は、バースコントロール世代だったんだ!
下手すりゃ、中絶され、生まれてこなかったわけです。
だから、同級生が比較的少ないんだ!
松谷氏は、少子化対策をしてはいけないと主張します。
人口を増やそうとする政策も、減らそうとする政策も、どちらもいけないというのです。
つまり人口をいじってはいけないと警鐘を鳴らします。
こうした人口問題について、目から鱗が落ちるようなさまざまな知見、提言が素晴らしい。
さて、本題の「東京の劣化」です。
最近、老人施設を地方に作って、東京の老人を移そうという提案がありました。
松谷氏は、そうではなく、「公共賃貸住宅を大量につくれ」と主張します。
東京オリンピックを誘致したのは失敗だったと断じます。
その金をまわすべきだというのです。
多くの人に読んでもらいたい本なのですが、ちょっと疑問を感じた点がありました。
「耐用年数が200年で、なおかつ維持補修費は、他の集合住宅とさほど変わらない住宅を建てる技術は、すでにできています。」
本当でしょうか?
