「カーボンオフセット」、「カーボンニュートラル」、「カーボンフリー」などという言葉を目にし、耳にするようになりました。
それだけ聞くと、まるで炭素(カーボン)が悪者のようです。
本当は、これらの「カーボン」は、二酸化炭素のことを指しているのですが。
佐藤健太郎「炭素文明論 『元素の王者』が歴史を動かす」(新潮選書)を読みました。
この本では、炭素、というより炭素化合物、つまり有機物が歴史を動かしてきたと主張しています。
本の帯にある目次にあるように、さまざまな有機物を取り上げています。
それらと歴史の関わり合いを解説した本です。
真っ先に取り上げられているのが、デンプン。
つまり、穀物などに含まれる炭水化物であり、炭素と酸素と水素の化合物です。
この本では、農耕の開始によって、人類の生活が改善されなかったと述べられています。
「狩猟生活を営んでいたころの人類は、男性の平均身長が178センチほどあったとされるが、農耕開始後には160センチそこそこに落ち込んでいる。虫歯や感染症のリスクが高まったためなのか、35.4歳であった男性の平均寿命は33.1歳へ、女性では30.0歳から29.2歳へと縮んでしまった。
また、狩猟時代には、1日3時間も働けば必要な食料が確保できていたが、農耕開始後の労働時間はこれより長くなっている(現代の我々はこれがさらに8時間、10時間と延びているわけだから、文明とは一体何なのかと思いたくなる)。こうした事情を見る限り、農耕の開始は豊かな食料を得るための画期的な新技術などではなく、何らかの事情に迫られてやむなく選んだ道と見る方が自然であろう。」
以前、このブログでディードリ・バレット著、小野木明恵訳「加速する肥満 なぜ太ってはダメなのか」(NTT出版)を紹介しました。
そのなかで、つぎのように書きました。
歴史家のジャレド・ダイアモンドは、農業を「人類史上最大の失敗」と断じているそうです。
狩猟採取民は、伝染病やけがを除けば、糖尿病、心臓病、がんなどにかからず、健康的でした。
食生活は、非常に多彩で豊かでした。
それが、農業や牧畜の普及とともに、不健康になり、また貧しい食生活になっていったのです。
また、夏井睦「炭水化物が人類を滅ぼす〜糖質制限からみた生命の科学」(光文社新書)では、
「現代人が悩む多くのものは、大量の穀物と砂糖の摂取が原因だったのだ。人類が神だと思って招き入れたのは、じつは悪魔だったのである。」
と、炭水化物をののしっていました。
数々の戦争を引き起こし、奴隷制を作り、糖尿病をはじめとする多くの病気をもたらし・・・でも、人類は、炭水化物に頼って生きています。
いまさら、狩猟生活には戻れません。
私は、大学で応用化学を専攻したので、この本は、昔の知識の復習にもなりました。
たぶん文科系の方でも、十分理解できる良書だと思います。
