「ちょっと恐い童話の世界にトリップさせられる写真」
ニューヨークの女流写真家。
キャリアの前半はファンション雑誌やコマーシャルフォトの撮影などもこなしていましたが、徐々に作家性が高まり、その視点はマイノリティー向けられていきました。
服装倒錯者、ヌーディスト、フリークス、精神病患者などが主な被写体だったわけですが、、ダイアン・アーバスがこれらの作品を撮影していたのは1960年代後半でした。
今のように「なんでもあり」な時代とは違い当時これらのテーマの作品はかなりセンセーショナルをもって迎えられた(あるいは拒絶された)のではないかとおもいます。
当時の評価はそれほど高くはなく。相当バッシングも受けたようです。事実、ダイアン・アーバス存命中には彼女の写真集は出版されませんでした。
1969年に離婚し、1971年にピストル自殺でこの世を去りますが、死の翌年にニューヨーク近代美術館で開催された回顧展と写真集『Diane Arbus』の出版により一気に評価を高めます。
写真集『Diane Arbus』には彼女の主な被写体であったマイノリティーの日常生活に加え普通の人々の写真がゴチャ混ぜに収められています。
普通の人々の写真なのですが、どの写真の被写体にも表情が乏しく、目が逝ってて恐いです。ファミリーやカップルを撮影しているのにほのぼのとした雰囲気はなく、畏怖の念がわきおこります。
このことはダイアン・アーバスがただ単にセンセーショナリズムでグロテスクイメージの作品を撮影していたのではなく、作品を見る側の奥底に潜む恐怖心や好奇心をさらけださせていたということでしょう。
ほとんどの被写体の視線はこちらに向けられています。服装倒錯者、全身刺青の男たちと目を合わせることになるわけです。目が逝ってて、視点が定まってない人の顔がコッチを向いてるのも相当恐いです。
ディズニーランドのお城や、丘の上に建つ張りぼての豪華なマンションの写真もどことなく不安な感じになります。
余談ですが、この写真集『Diane Arbus』の表紙にも起用されている有名な双子の写真は、キューブリック作品の『シャイニング』にも影響を与えています。
日常の風景のようでありながらどこか違う世界、童話やおとぎ話の世界に迷いこんでしまったような感じ、そんなちょっと不思議な感情を引き起こされるのがダイアン・アーバスの写真です。

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