「部活指導の外注化」に賛否 教員の負担軽減…生徒指導はどうなる
産経新聞 2014年10月27日 08時13分産経新聞
大阪市と大阪市教委が来年度から、一部の市立中学校で部活動の指導を民間事業者に外部委託する方針を決めた。指導に当たる教員の負担を軽減することが目的で、専門性の高い指導者を呼ぶことで生徒の技術向上も期待されている。一方で学校教育の一環としての部活動を外部委託することによって、生徒指導が希薄化する恐れも指摘される。部活指導の外注化の是非について、教育評論家の石井昌浩氏と、教育ジャーナリストの渡辺敦司氏に見解を聞いた。(溝上健良)
■「教師の負担軽減が急務」石井昌浩氏
−−大阪市の方針をどうみるか
「時宜にかなった適切な問題提起だと思う。東京都杉並区の一部中学校では土日限定で部活動の外注を始めているが、大阪市では平日も含めた全面的な導入を検討する方針のようで、顧問教師のあり方にまで踏み込んだ議論が展開されることを期待している」
−−部活動の外注化で、教師の負担軽減が期待されている
「これまで部活動は顧問教師の献身で支えられてきたのが実態だ。熱心な先生は家庭も顧みず、土日もなく、休めるのは本当に盆暮れくらい。それでいて部活動手当は高校生のアルバイト代より安い。そもそも学校教育における部活動の位置づけが非常にあいまいで、生徒の自主的な活動を教師も自主的に指導・監督するという図式になっている。とはいえ事故があれば教師の責任が問われることになり、こうした教師の善意と熱意に頼る制度には限界がある。部活動のあり方を根本的に見直すべき時期にきており、特に土日の教師の負担軽減は急務だろう」
−−部活動は学校教育の一環だ。外注化に問題はないか
「教師の指導と外部指導者とをどうつなぎ合わせるかが課題となる。丸投げではいけない。顧問教師がいわばゼネラルマネジャーで、外部指導者が専任コーチや監督となるような役割分担と連携が重要になってくる」
−−仮に大阪市が部活動を全面外注すると数十億円が必要とされる
「それは必要経費として当然、払うべきだ。外部に指導を委託するだけではなく、部活指導員を学校で採用することも考えるべきかと思う。例えば柔剣道の場合、警察官OBを非常勤講師という形で採用することは可能ではないか。柔剣道の顧問は需要が多く危険も伴うため、指導には経験者が必要だ。警察官OBがいることで学校の安全性が高まるという副次的な効果も期待できる。他にもプロ野球のOBなど、埋もれた人材は多い」
−−教師の負担軽減の一方で、生徒の負担についてはどう考える
「バランスのとれた学校生活を送らせることが中学校教育の最大の目的だといえる。部活動に熱中するあまり休みは盆暮れだけというのは行き過ぎで、生徒の負担についても見直すべきだろう。それでも、部活動は中学生活において非常に大事なものであることは間違いない。地域の教育力を取り戻すことも重要で、運動経験のある保護者らが指導に入るケースが出てきていいのではないか。外部に任せるべきところは任せてもいい。少子化の影響で小規模校が増えている中、近隣校との合同部活動という形態が増えることも考えられる。これもまた、学校と地域や家庭の連携を深めるチャンスになってくるだろう」
■「安易な委託は対症療法」渡辺敦司氏
−−部活動で教員の負担が重すぎることが問題となっている
「今年6月に経済協力開発機構(OECD)が発表した国際教員調査の結果によれば、日本の中学校教員の勤務時間はOECD加盟各国の中で最長だった。特に課外活動の指導時間は各国平均の3倍以上と長かった。ただOECDの担当者は会見で『それだけ時間をかけて教師が生徒に向き合っているのは日本の強みだ』『課外活動を外注していないのは日本のプラスの特長ではないか』と評価していた。むしろ日本の部活動の利点に改めて注目すべきであり、単に教師が多忙だから外部委託するというやり方は、対症療法でしかない」
−−部活動は教師が担当するのがふさわしいということか
「誰が部活動を担うべきかというのは別の議論だ。部活動を部分的に外注したとしても顧問教師のかかわりは逆に重要になってくるだろう。教育活動の一環として行う以上、子供にどう働きかけていくかという情報を学校全体で共有して、子供の成長をうながす機会とすべきだ。部活動をそのように前向きに位置づけた上での外注化なら賛成できる」
−−外部指導者はスポーツの経験があっても、教育者ではない
「そこは教師がどう外部指導者に働きかけるかで、教育専門家としての力量が問われるところだ。部活指導を外部に委託する際にも単に競技力の向上を図るのではなく、教育的な立場で生徒にかかわってもらえるような人を選任してほしい」
−−学校現場では若い教師が未経験の競技の顧問になる例も多い
「いま少子化で、1校あたりの学級数が減り教師の数も減っていて、ミスマッチも増えている。そこで外部の指導者を招いて、技術指導は任せた上で教師が教育の専門家として部活動にかかわることはありうる。必ずしも教師がその競技の経験者である必要はないだろう。行政が考えるべきことは、外部の指導者との情報交換も進めて“チーム・学校”としての教育力をいかに高めていくかということだ」
−−教師の負担軽減の一方で、生徒の負担も軽減すべきか
「教育の一環としての部活動であり、練習があるから家庭での学習がおろそかになると考えるのは本末転倒だ。スポーツ科学の分野では、練習は長ければいいのではなく効率が重要だといわれてきている。過度な練習に歯止めをかけるのも教師の仕事だろう」
−−部活動の外注化は費用がかかり金銭的に厳しい自治体もありそうだ
「結果を出すために自治体が予算を付けるべき部分は当然ある。外注化の費用対効果を実証する意味でも、今回の大阪市の取り組みは注目される」

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