「中学校の修学旅行で憶えていることは何?」と娘に聞いてみた。
答えは「枕投げと、金閣寺がきれいだったことかな〜」
娘と25年の時差がある私にも、同じく枕投げで騒ぎすぎて先生にしかられた記憶がある。
おそるおそる鹿せんべいを差し出したら手まで食べられそうになり、ビックリしたことも思い出すのに、奈良の大仏さんと初めて対面した時のことは憶えていないから困ったものだ。
私たちの記憶に比べ、勢山さんは薬師寺の薬師さんから強烈な印象を受けその場から動けなくなったとのこと。
「なんて大きな像なのだろう。あの膝の上に乗って仏さんに抱かれたらどんなに気持ちが良いだろう」と思ったそうだ。
それから7年ほどして昭和の大仏師、松久朋琳・宗琳師に弟子入りし現在は大仏師として活躍しているのだから、修学旅行での薬師寺体験が大きな意味をもった事は想像に難くない。
そんな不思議な経験をした勢山さんは、生まれ育った藤沢市湘南台の修学旅行生のために、10年ほど前から工房見学の受け入れを行っている。しかし、限られた時間での広範囲な仏師の活動を説明することは難しい。そのため、今年3月に事前学習を兼ね、藤沢市立湘南台中学校において講演が行われた。
社寺仏閣を詣で仏像に手を合わせても、その像たちは歴史の遺産として捉えられ、現代も新しい像が彫像されていることを知っている人は少ない。
まして、その制作現場を見る機会はほとんどないから、勢山社工房見学は貴重な時間となっているにちがいない。
工房では前日から新作像や修理途中の像、説明パネルなどが展示された。彫刻と截金実演コーナーなども設けられて準備万端だ。
修学旅行最終日の6月19日に勢山社を訪れたのは33名。今年はクラス単位での参加であった。
全員が参加した数年前は200名もの大人数だったので、工房内に大渋滞がおきてしまったが今年はゆったりできそうだ。
勢山さんから説明を受け見学が始まった。やはり目をひいたのは制作中の丈六阿弥陀如来坐像だ。その大きさに驚くとともに、5分の1の雛形と見比べて皆興味津々の様子だった。
また、特別に鑿入れ体験も行われた。自分で削った材をお守り袋に入れる様子は嬉しそうで、修学旅行生たちにとって思い出深い時間になったと思われる。
同じものを見、同じ体験・経験をしても、それらを五感がどうキャッチする(できる)かは人それぞれだ。
好きなことだから印象に残るのか、興味があったからなのか・・・
好きになるのが先か、興味があるから好きになるのか・・・
などと考えはじめるとキリがないけれど、経験や見聞は多いにこしたことはない。
この日感じたことが、勢山さんのように何かを目指す要因の一つになるかもしれない(なれば良いな)と、心の中で思いながら私は修学旅行生たちにカメラを向けていた。