懐かしい匂い・・・
といっても、私のそれは何故か雨の匂いだ。
好きな香りはいっぱいあるのに、雨を予感させるその匂いには、どう説明したらよいのか解らない想いがいつもこみあげてくる。
だからといって特別な思い出があるわけでもないのに・・・
と考えていたら一つだけ思い当たることが。
もしかしたら、真夏の暑さを和らげてくれる夕立前の匂いだったのかも。
遊びほうけていたら雨が突然振り出し、身をすくめて雨宿りする子どもたち・・・映画のワンシーンのような光景が頭をよぎった。
こういう感覚は、いつまでも残るのだろうか。
窓からのそよ風と共に、久しぶりに雨の匂いが・・・と思ったとたん、雨粒が窓ガラスに当たったから驚きだ。
今日の雨は、残った花をも散らしてしまうのだろうと思いながら桜吹雪に酔いしれた日を思い出す。
蕾が膨らみはじめやがて満開になり、最後ははらはらと散り桜の季節が終わる。
その後たっぷり休養をとり花を咲かす準備をして開花へと、毎年季節がめぐるのは当たり前のこと。
それが無性に羨ましく思えるのは、人の一生と照らし合わせてしまうからだろうか。
「桜への思い年々強くなる・・・」という書き出しで、友人が短歌を送ってくれた。
同じ風景を見てもその時々で感じ方が違うのは、心のありようが影響しているからなのかもしれない。
楽しむというより被写体としてどう扱うか・・・
そんな想いが頭から離れないうちに、桜の主役「ソメイヨシノ」の季節が終わろうとしている。
そのことにふと気付き、何だかとてももったいない気分になった。
撮りたいのではなく、無理やり撮ろうとしていたのではないか・・・
写真に対しての思い入れが強くなる程に、初心がこぼれ落ちていたのかもしれない。
雨の匂いのように、長い年月を経ても懐かしさが感じられるような、そのときのワクワクした気持が思い起こせるような、これからはそんな撮影を心がけよう。
夜になり雨足が強くなった。
暗闇で風雨に耐える木々を想った。