文武両道のお手本;マートン選手
以下の記事は9月12日付 朝日新聞記事の転載で、我らが虎軍団の「マット・マートン選手」のインタビュー記事(ちょっと長いですが)です。
マートン選手には思い出があります。4年前の秋に父が亡くなる前、大のトラキチでクリスチャンだった病床の父を励ますため、球団を通じてマートンに手紙を書いたのです。
彼が熱心なクリスチャンであることを新聞記事で知っていたので、「病床の父を励ますような聖書の言葉を書いていただけないか?」と、球団経由を通じてダメ元で手紙を出したのです。
10日ほどたって「やはりダメかな?」と思いはじめた頃、マートン選手から自筆の色紙が送られてきました。そこには、日本語に訳すと、「神は我が力であり、我が成就である。神は、我が自由であり、人生の目的であり、平和であり、勇気である」という聖書の一節が記されていました。

その色紙が届いた2日前、父は容体が急変して天に召されたのですが、残された家族は大いに励まされました。天国の父にも、きっとこのことは届いたと思っています。
それ以来、私は、ますますマートン選手が好きになりました。
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阪神マートン「競技だけが人生じゃない」文武両道促す 〜朝日新聞9月12日付
「
スポーツだけでなく教育を通して人間として成長することが大切」。マット・マートンは、名門の米ジョージア工科大在学中に学んだ「文武両道」を通して、そのことを実感した。日本のアスリートに伝えたい彼の思いとは。
――ジョージア工科大に進学したのはなぜですか。
「両親が教師で、父親はアメリカンフットボールのコーチでした。私は両親を尊敬していますし、子供のころから勉強もスポーツも大切だと教えられました。人生でスポーツができる期間は限られます。教育を受けていれば、より良い経験ができ、多くの可能性の道を開いてくれます。それができる大学でした」
■名門大学で人格形成
――同大学はトータル・パーソン・プログラム(人格形成プログラム)で知られています。
「『人間としてどうあるべきか』ということを学びました。履歴書の作り方、時間管理など社会で生きていくためのスキルのほか、月1回のゲスト講演では、元NFLプレーヤーの卒業生やビジネスマンが社会人としての心構えや考え方を話してくれました。また、車いすの方々とのソフトボールや、ホームレスの人たちの炊き出しもしました」
「そうした経験をしたからこそ、スポーツができる状況に感謝しなければと思えたのです。野球をしていると、何本ヒットを打ったかなど自分のことばかり考えてしまいます。自分を見失わないで済みました」
――学業に厳しいノルマがあるそうですね。
「午前8時から2〜3コマ授業を受け、午後は野球の練習をし、また夕方から勉強です。授業についていけずノルマを達成できなければスポーツをさせてもらえません。代わりに十分な支援がありました。授業中に学習指導員がいたり、選手が勉強をする施設で助言をもらったりできました」
■バランス感覚が大切
――大学ではないですが、日本には日々熱心に練習に励む高校球児が大勢います。どう思いますか。
「素晴らしいことですね。スポーツはルールを守ることや団体行動を教えてくれます。目標に邁進(まいしん)することは良いことです。ただし、バランス感覚は大切です。米国でもあることですが、スポーツで成功した子供は18歳にして有名になり、周りがちやほやします。それは、その子の人生の価値観を下げることにつながりかねません」
――甲子園という目標に向かって努力するのは、悪いことではありません。
「日本は経済的に成功した国です。日本人は目上の人を敬い、勤勉で正直です。米国人も学ぶべきところがたくさんあります。ただ、強みが弱点になることもある。私もそのことをいつも肝に銘じています」
「一つのことに没頭する日本人は、野球の練習を8時間することもある。半面、人生において大切な教育がおろそかになってしまいませんか。
スポーツだけを続け20代後半から30代でやめたら、どうやって生きていくのでしょうか。僕も野球を終えた後の人生でやりたいことがたくさんある。
少し残っている単位を取るためにまた大学に戻って勉強をしたい。残りの人生を豊かにしたいのです」
「NBAでサンアントニオ・スパーズを5度優勝に導いたポポビッチ・コーチが選手にテレビ討論を見るように促したことがあります(当時2012年は大統領選の最中だった)。彼は選手にバスケットのことだけではなく、政治に興味を持つことでもっと精神的に成熟してほしかったのです。
スポーツだけでは一つの世界や殻に閉じこもってしまい、外の世界が見えなくなってしまうのです」
■自分の殻破るきっかけに
――日本の大学でも文武両道を促すプログラムの導入が進んできました。
「とても良いことですね。学生時代から教育の大切さを知れば、引退後の人生についてもきちんと見据えることができます」
――そうした取り組みの一方で、いじめや暴力も問題になっています。
「自分は日本で生まれていないのでとやかく言える立場ではありませんが、体罰もいじめも反対です。いじめは日本でも米国でも起こります。人間は周りと違うことをする人をいじめるのです。でも、人と違うことは、本当は隠れた能力を伸ばすことにもつながるのです。
暴力もいじめもなくすには教育が大切です。一つのボックスの小さな世界に閉じこもることは、とても危険です。教育が殻を破って違う道もあると気づかせてくれるのです。バッターボックスの外に出てみませんか」
〈Matt Murton〉 米国出身。1981年生まれ。ジョージア工科大で経営学専攻。2005年に大リーグ・カブスでデビュー。アスレチックス、ロッキーズに在籍し、10年に阪神入団。10、11、13年に最多安打のタイトルを獲得。身長185センチ、体重99キロ。
「マートン選手は素晴らしいけど、虎軍団は迫力ないニャー。秋になると、いつもガス欠で失速ニャー。」

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