“やなせたかし”さんの死を悼む
漫画家の
「やなせたかし」さんが、13日に心不全のため
94歳で亡くなった。
代表作
「アンパンマン」が世代を超えて人気を集めたことはご存じのとおりである。
一昨年の東日本大震災では、被災地に向けて激励のメッセージとイラストを送り続けた。そこで流れるテレビアニメの主題歌
「アンパンマンのマーチ」とともに、
多くの人たちに勇気を与えたという。
やなせさんが被災地に送ったメッセージは被災地の人々を勇気づけた
アンパンマンの物語が初めて絵本で出版されたのは1973年。その後40年もの長きにわたって子供たちに希望と勇気を与え続けてきたのである。
私の子供たちがまだ幼かった頃、アンパンマンの絵本を読んで聞かせたことを覚えている。そして時が流れ、
現在1歳9か月になる孫も、まだ絵本は読めないが、アンパンマンの縫いぐるみが大好きである。
この物語では、敵役の
「ばいきんまん」がけっこう魅力的だ。バイキン星からやって来たこの悪者は、いつもアンパンマンにやっつけられているのに、
性懲りもなくイタズラを繰り返しては泣きべそをかく。なにせ
ドジな相手だから、ヒーローもあまり手荒いことはしない。
善と悪とに分かれてはいるが、
これほどなごやかな闘いも珍しいだろう。
「倍返し」などといきり立たず、敵にさえ手を差し伸べる主人公である。
(注;なりひらは、性分として、倍返しという方法があまり好きになれない)
ジャムおじさんの寛容、ロールパンナの二面性、ドキンちゃんの悪女ぶりと多様なキャラクターは、まるで人間世界の縮図でもある。
1988年にテレビ放映が始まった
アニメ「それいけ!アンパンマン」は、たちまち子供たちの心をとらえ、国内だけでなく海外でもヒットした。まさに
世界中で愛されている人気キャラクターである。
この
アニメを見た子供たちは、
たとえ相手が間違っていても、完膚なきまでにたたきのめす(その結果、憎しみが生まれる)のではなく、さりげなく逃げ道を用意しておいてあげる、そういう思いやりこそが相手の心を溶かすことを学ぶだろう。
こうした
強さの中に優しさのある「やなせワールド」を造り出した
やなせさんの胸の底には辛い戦争体験があった。
太平洋戦争で、兄弟そろって徴兵され、自らは上海近郊で敗戦を迎えたが、
弟は特攻隊に志願しフィリピン沖で散っている。
本当のの正義とは何か、戦後ずっと考え続けてきたやなせさんのメッセージに胸を打たれる。
「本当の正義の味方は、戦うより先に、飢える子供にパンを分け与えて助ける人だろう、と。そんなヒーローをつくろうと思った」
「正義の味方というなら、まず飢えている人を救わなくては」・・生前、やなせさんはこう語っていたという。
物語の中に、アンパンマンが自らの顔をちぎってみなに分け与えるシーンがあるが、まさに
無私の愛・自己犠牲の愛であり、
今の世の中に最も求められることではないだろうか。
やなせさんは、音楽の分野でも才能を発揮し、故いずみたくさんが作曲した
「手のひらを太陽に」の作詞を手がけた。その後、この歌は長く歌い継がれ、
今では小学校唱歌として教科書に載っている。
個人的には、
「やなせたかし詩集」の中にある
「金色の太陽が燃える朝に」が好きで、学生時代にギター譜を作ってひとり歌っていた。もちろん、出来は大したことがなかったが、これまでの
人生で作曲した数少ない歌の一つとなった。

2