葉室麟の歴史小説がとてもいい
時代小説作家として人気上昇中の
葉室麟(はむろりん/下の写真)をご存知だろうか。
年明けから
NHKの木曜ドラマで「銀漢の賦」がスタートしたので、その1回目をご覧になった方もおられるだろう。
また、昨年秋には
「蜩ノ記」(ひぐらしのき/2012年に直木賞受賞)が映画化されたので、映画館に足を運ばれた方もおられると思う。
藤沢周平が「海坂藩」という庄内地方(今の山形県)の藩を舞台にすることが多いように、
葉室麟は北九州の小藩を舞台とした物語が多い。
封建的な武士社会の中で、時に権力者として、時に権力とは無縁の孤高の人として生きる主人公の生き様がリアルに描かれているが、その立場は異なっても、
武士としての矜持、高潔さを失わず、淡々と自らの生を全うしようとする態度は、なかなかカッコいいのである。
私は、どちらかというと、一人の作家にのめりこむ傾向があり、葉室麟の小説は既に8冊を読了した。
今回ご紹介する「陽炎の門」(かげろうのもん)は、その中でも、時代小説と推理小説をドッキングした秀作であり、主人公の生き様に感動し、共感を覚えた。
【小説のあらすじ】
物語の舞台は豊後の国、鶴ケ江湾を臨む小藩である。
親友を陥れ、死罪に追い込んでその介錯をした男、とささやかれながら、軽輩の身から藩の重役である執政にのし上がった
桐谷主水(きりやもんど)は、ついに藩の重臣だけが通ることを許される潮見櫓の門をくぐる。
それは晴れがましく希望に満ちた一歩のはずであったが、主水は間もなくそれが修羅の道への一歩であったことを思い知らされる。
10年前、藩は保守派と改革派に別れて激しい権力闘争が行われていた。
主水は成り行きから保守派の中に身を置いていたが、親友の芳村綱四郎は改革派に属していた。その綱四郎が藩主を非難する文書を書いた罪に問われる。
その文書が本当に綱四郎が書いたものであるのかどうかが問題となったが、
手跡が綱四郎のものである主水が証言したことにより、綱四郎は有罪が確定して切腹を命じられる。
綱四郎は友である主水に介錯を依頼するが、その際、家族には「決して主水を恨んではならない」と言い残す。主水は自分の証言に誤りはなかったという信念を曲げることはなかったが、心には重いしこりを残すことになった。
その後、
主水は17歳も年下の若い妻をめとるが、それは綱四郎の娘;由布であった。綱四郎から切腹する前の晩、「主水には一切恨みはない、悪いのは自分である」と聞かされていたので、由布には主水に対してこだわりはなかった。二人の中はようやく仲むつまじいものになり、主水も幸せを感じ始めていた。
10年前のその事件は、若い藩主の手によって、喧嘩両成敗の形で保守派と改革派の頭目と目されていた人物が失脚させられ、今は穏健派の家老の手で藩政が取り仕切られていた。
しかし
主水が執政になった今、藩内に疑心暗鬼の暗雲が立ちこめてきた。そんな矢先、主水の留守宅に、江戸の遠戚に預けられていた
由布の弟;喬之助が江戸からはるばる訪ねてきた。
喬之助は姉に
「主水を父の敵として仇討ちをするつもりだ」と告げる。喬之助は武芸の師と兄弟子を同道しており、九州を一回りした後の3ヶ月後に主水と雌雄を決する決意であると語る。
帰宅後に由布からそれを聞かされた主水は、なぜ今頃、喬之助が敵討ちなどを思い立ったのかいぶかしむ。さらに、そのことがきっかけとなって、主水が証言した綱四郎の文書の手跡が本当に綱四郎の書いたものかどうかが問題となる。
主水は、自分の証言が事実であることを証明しなければならない立場に追い込まれる。
そして、またたく間に3ヵ月が過ぎ、喬之助が豊後鶴ケ江に戻ってくる。藩は喬之助から出された仇討ち願いを、武門の意地による立ち合いとして許可する。
主水は、立ち合いの場所として、20年前に藩の二つの有力道場による決闘騒動が行われた場所(後世河原)を所望する。それは認められ
、藩主興世の立ち会いの下で、主水は喬之助との果たし合いに臨むこととなる。
その主水は由布に告げる
。「わたしは喬之助殿を決して死なせず、必ずそなたのもとへ参らせると言い置くぞ」。これが、いずれかが死ぬという立ち合いの場に臨むはずの主水の言だった。
この後の意外な展開がなければ、小説はここでthe endとなる。それでは、ありきたりの敵討ちである。
主水はどのように虎口を脱するのか?虎口を脱しきれるのか?
後は読んでのお楽しみであるが、
稀代のストーリーテラー;葉室麟の作品のクライマックスは実にワクワク、ドキドキして、最後に爽やかな気持ちにさせてくれる。
以下、これまでに読んだ作品より。





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