2007/9/24

(36)ミルコのひかり(原題:Rosso Come Il Cielo、伊)  映画(2007-08年公開)

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 私はイタリアが大好きだ。芸術文化を入り口に、今ではその風土も、人も、言語も、食文化も。だからそれらが詰まったイタリア映画は見逃せない。

 本作のクライマックスで私は涙が止まらなくなった。劇場の端の席で本当に良かったと思った。一緒に見た夫は「お涙頂戴の映画はあまり好きではないなあ」と感想を述べていたけど。「お涙頂戴」とはちょっと違うのではないか?鑑賞者の涙を「狙った」作りではなかったように思う。自分の経験に照らして、心の琴線に触れる部分が涙を誘ったのだと思う。

 主人公の少年ミルコは実在の人物で、現在はイタリア映画界でサウンドデザイナーとして活躍するミルコ・メンカッチ(Mirco Mencacci)氏である。映画はその彼が10才だった頃の、彼の”現在”に繋がる”物語を描いている(もちろん演出上、多少の脚色は加えられている)

 70年代、ミルコ少年はトスカーナ地方で、けっして経済的には豊かではなかったが、両親の深い愛情の下、伸び伸びと少年時代を過ごしていた(特に父親が彼に映画を見る楽しみを教示したのは、彼のその後の人生の大きな支えになっている。親の愛情は時として意外な形で、我が子を守るものなのかもしれない)。しかしある時、不慮の事故で彼は視力を失ってしまう。当時のイタリアの法律では、視覚障害者は一般の学校での修学を許されず、ミルコも両親や友達からひとり離れ、ジェノバにある全寮制の盲学校への転校を余儀なくされた。

 親は我が子が健やかに成長し、将来的には親から自立して、自らの人生を全うして欲しいと願うものだろう。それなのに健常者として生まれながら、不慮の事故で障害者となってしまったミルコ。私自身、ひとりの親として、ミルコの両親の悲嘆はいかばかりかと胸が痛んだ。だからと言って「可哀相だ」と嘆いてばかりもいられない。親の責任として、我が子の自立への道筋を改めて考えなければならない。泣く泣くミルコを手元から離し、遠く離れた盲学校へと送り出した両親。思わず、親の視点でミルコの姿を追う自分がいた。同時にひとりの人間の成長の物語として、過去の自分自身と重ねたりもした。

 ミルコは突然に光を失い、暗闇の世界に置かれたが、そこでいつまでも足踏みをするような子ではなかった。天性の明るさと積極性で、それまでの人生経験を踏まえつつ、残された感覚を研ぎ澄ませて、新たな人生を踏み出したのだ。ここから、彼の”ひかりの物語”が始まるのである。

 当時の視覚障害者に対する社会の認識と障害者自身の自己認識は、視覚障害イコール知的能力の欠損と捉え、彼らの社会における活躍の場を限定的なものにしていた。それを受けての盲学校の"手に職をつける"職業訓練校的色彩の濃い教育方針の下、ミルコの”視覚障害者の新たな地平を切り開く冒険”はさまざまな波紋を呼ぶ。波紋は社会を巻き込んだ形で、周囲の人間(特に盲学校の生徒達)や盲学校の在り方を変えて行ったのだ。

 とは言え、本作では中途視覚障害者の少年が”障害を克服する”様子を描くと言うより、ひとりの少年が”夢中になれるもの・こと”に出会い、自らの興味の赴くままに、周囲をも巻き込んで突き進む姿が小気味良く描かれている点が印象深い(それを究めた結果、ミルコは後に名声を獲得するのであるが、映画はそこまでは描いていない。彼のその後の人生は、観客のイマジネーションに委ねられている)。その普遍的な”生きる悦びの物語”に、本作を見る人は”ひかり”を感じるのではないだろうか?障害の有無に関係なく、多くの人にとって、自らの”生の充実感”を得るのはそんなに簡単なことではないのだから。

 時には本作のような映画で、素直に晴れやかな涙を流すのも良いなと思った。

 因みに原題の"Rosso Come il Cielo"は「(夕焼け)空のような赤」(或いは「(夕焼け)空のように赤く」←イタリア映画祭ではこの邦題で上映されたらしい)を意味している。詩的で素敵な原題だけど、邦題の「ミルコのひかり」もなかなか良いと思う。

【裏話】
 ミルコや盲学校の生徒達は皆オーディションで選ばれた子供達で、健常者・視覚障害者が半々だったと言う。今回の撮影を通して、”何か”を掴んだ子供も少なくなかったのではないだろうか?人生を豊かにするチャンスは、私達が思っている以上に、さまざまなところに転がっているのかもしれない。

 イタリア語を多少なりともかじった私にとって、子供達の会話は聞き取りやすかった。小学校(幼稚園?)からイタリア人として人生をやり直したくなった(笑)。
          
                     トスカーナのひまわり畑 
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2007/9/30  10:20

 

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監督:クリスティアーノ・ボルトーネ
製作:クリスティアーノ・ボルトーネ、ダニエレ・マッツォッカ
脚本:クリスティアーノ・ボルトーネ、パオロ・サッサネッリ、モニカ・ザペッリ
音楽:エツ 



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