『ひとりひとりのやさしさ』ジャクリーン・ウッドソン/絵 E.B.ルイス/訳 さくまゆみこ
いじめを扱った話はいじめられた側から書かれることが多いように思いますが、こちらは、転校生を仲間はずれにした女の子(黒人)の視点で描かれています。暗すぎず、しかし安直でない結末に胸を突かれます。
仲間はずれにされるのが、白人の女の子マヤ。貧しい家の子らしく、着ているものがみすぼらしいので、隣の席になったクローイは目を合わせないし、笑顔を向けられても見向きもしません。
あからさまな攻撃をするわけではありませんが、マヤから声をかけられても誰も遊ぼうとせず、マヤがかわいい服を着てきても、みんなで古着だと見下します。あるときから、マヤは学校に来なくなりました。
その朝、クラスではやさしさについて話し合い、先生が桶に水をためて、小石をひとつ落とすと、水面からさざ波が広がります。先生は、優しさもこれと同じで、
「ひとりひとりの小さな優しさが、さざ波のように世界に広がっていくのです」
と教えます。そして、子どもたちに「だれかにやさしくしてあげたこと」を話しながら、水に小石を落とすよう言います。みんな一つずつ話して石を落としていきますが、クローイには落とすことができませんでした。
今度こそマヤに声をかけようと思っていたクローイでしたが、マヤは引っ越してしまい、もう、会うことはできませんでした。
クローイの心には、優しくできなかったマヤへの思いだけが残り、青々とした草に囲まれた池を、一人でじっと見つめる絵で終わります。
* * *
うーん、と唸ってしまいました。これは、安易に結末をつけず、子どもに考え気づかせる内容です。写実的で美しい水彩画が感情を静かに掻き立てて、静謐な世界観をつくっています。
とてもリアルで稀有なお話。4年生〜高学年に読んでみたいと思いました。
いじめを扱った絵本は、「わたしのいもうと」(松谷みよ子)や「ボロ」(いそみゆき)などがありますが、どれも朝から読むにはヘビィです。これは、ギリギリ説教めいた雰囲気を削いで心情に寄り添っているので、いいかなと。
ただ、やっぱり迷いますね。朝からは、楽しいお話を読んであげたい、という気持ちもやっぱりあるからです。