「ふがいない僕は空を見た」 窪 美澄 / 新潮文庫
タイトルの響きがいいなと思います。「そして僕は途方に暮れる」とか「残酷な神が支配する」に似ていませんか。共通点は、「人の、どうしようもない無力感」です。
ある地方都市で暮らす5人の人生を、それぞれの視点で語る物語。高校一年生の斉藤くんの、ちょっとした事件を中心に約1年が描かれます。母子家庭、貧困、ネットの晒し、不妊治療に追い込まれる主婦など、日本のどこかにきっとこういう人いると思える世界観。性描写と、助産院で命が生まれることそれ自体を描いて「やっかいなもの」と称し、人の人生にからみつく「性」と「生」が切り離せないものであることを考えさせます。
不妊治療を姑のマチコさんに強要される話で、
「
マチコさんにもマチコさんのものがたりがあって、マチコさんが主人公、私は悪役なんですね」
という文があり、とてもこの小説の構造を表わしている気がしました。語り部たちの人生は、各々にとって非常に重い。もう、ちょっと涙目になりながら読んだ場面もありました。感動じゃなくて、辛くてつらくて。
でも、みんな、どうしようもなく欠落した何かがあって生き辛さを抱えているけれど、人としての優しさもどこかにちゃんとあって、それが分かる描写が救いというか読みやすさにもなっていました。人間って悪人善人じゃなく、こういうもんだよなという説得力です。
生臭い悪意や忙殺のなかでも、それでも人生は続く。けれど、それぞれに、しんどくても面倒くさくてもなんとか生きていて、それでいいよしょうがないよ、命あるうちはとにかく生きていよう。
良いことも悪いことも、季節が巡るみたいに流れていく、と思わせるお話でした。