「ハッシュパピー バスタブ島の少女」  

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"川のほとりに立ち 船を見送る
船の姿が消え 我らは嘆くが 船は消えてはいない
見えないだけで存在する
どこか他の場所で誰かが叫ぶ 「船が来た」と
それが死ぬこと ほら船が来た!"

『目を閉じると周りには
あたしを作った全部が見えない姿で飛んでいる
見ようとすると逃げて行く
でも静かになるといるのがわかる
あたしは大きな世界の小さなカケラ
それでちょうどいい
あたしが死んだあと
未来の科学者が見つけてくれる
科学者たちは知る
昔、ハッシュパピーとパパがバスタブにいたことを』



バスタブ島は「世界一きれいな場所」
お祭り騒ぎが大好きな人々が住み、周囲とは隔絶された閉鎖的なコミュニティだ。
そんな島に6歳になる少女ハッシュパピーと父ウィンクは住んでいた。
ハッシュパピーの母親は家を飛び出して久しく、父のウィンクは酒に溺れる毎日。
2人は手作りの家で多くの動物達と気ままな暮らしを送っている。

「いつもみんなが心臓を鳴らして 知らない言葉で話をしている
たぶん"お腹がすいた"とか"ウンチがしたい"とか、でも暗号の時もある」
ハッシュパピーは白いゴム長靴を履いて外に出掛けては動物達の心臓の音を聞くことが日課だ。

学校では先生がこう教える。
「これはオーロックス。
この凶暴な猛獣が我が物顔で歩いてた頃人間は洞窟に住んでいたの。
オーロックスは洞窟から人間の赤ちゃんを奪って食べた。
原始人達は何も出来なかったわ。
力が弱くて小さかったから。
でも原始人達はメソメソ泣いてただけと思う?
よく考えなさい。近いうちに世界は大きく変わることになる。
南極の氷が溶けて水位が上がり、堤防より南は沈んでしまうの。
生きる術を学びなさい」

子供達はこうして学校で自然淘汰の仕組みや地球の温暖化、さらには生態系の変化によって、やがて"バスタブ"にも存続の危機が迫っていることや、生き残るために強くなれと教えられていた。

この作品では象徴的な存在としてオーロックスという獰猛な動物が幾度も登場する。
オーロックスは遥か遠い昔に氷に閉ざされ絶滅してしまったが
生きている者の鼓動に力が失われる時
アイスエイジ(氷河期)に氷の中に閉じ込められてしまったオーロックスが
それを嗅ぎ付け氷の壁を打ち破って現代に蘇って来る。
ハッシュパピーはそう信じていた。

父ウィンクと喧嘩した時にハッシュパピーはつい「死んでしまえばいい」と口走ってしまう。
それを聞いた父ウィンクはその場に倒れてしまう。

ハッシュパピーは
「ママあたし何かを壊した」と叫ぶのと同時に氷河が崩れ落ちる映像が流れる。
オーロックスが目を覚ましつつあるのだった。

オーロックスはまさに「死」と「再生」の象徴としてこの後、劇中に何度も登場して来る。

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そんなある日、バスタブは100年に一度の大嵐になって水に浸かってしまい壊滅状態となってしまう。
父と2人小さな船に乗って命からがら逃げ出すのだった。

バスタブはそそり立つような高い堤防に囲まれた島。
水浸しになってしまった島を元通りにするためには高い堤防を決壊させるしかない。
ウィンクと生き残った仲間達はバスタブのために決死の覚悟で堤防へ向かう。

無事に水が引いたバスタブだったが時既に遅し。
どろどろの焦土と化してしまったバスタブは植物も動物も死に絶えてしまったのだ。

命の灯火を失いつつあるバスタブに、あの獰猛なオーロックスが氷河を破り襲いかかろうとしていた。

バスタブは政府により強制退去区域に指定され、住民達は難民収容所の病院へ収容されてしまう。

父ウィンクがどうやら重い病気にかかっていることを知ったハッシュパピー。

「死んじゃうの?」「あたしを1人にする?」
「1人にはしない」
「パパが死んだら、あたしも死ぬ」
「そうはならないさ」

「お前を死なせないのが俺の仕事だ」

たった1人の側にいてくれる存在である父親を失ってしまうかもしれない恐怖に怯える娘を、不器用ながらも愛情一杯に包もうとする父ウィンクとハッシュパピーとのやり取りは胸に迫るものがある。

オーロックスの影に怯え背を向けていたハッシュパピー、父を失うかもしれない恐怖に身を伏せていたハッシュパピーが、現実に向き合い成長を遂げる。そして最後はオーロックスに正面から対峙するのだった。

誰しもが経験する挫折や孤独に対する不安、愛する人の「死」

それに立ち向かう術と勇気を教えてくれる素晴らしい作品だ。

オーロックスは誰の人生にも忍び寄って来る。
しかし、それは決して貴方の人生を食い尽くしてしまう獰猛な使者ではない。
貴方が、背を向けずに向かい合い、そして抱き締めようとすれば
オーロックスの胸からも鼓動は聞こえて来る。
「死」とは「再生」でもあり「始まり」でもある。

この作品はこの上ない人生賛歌だ。

僕も亡き父にハッシュパピーと同じ言葉を発したことがあった。
どことなく似ている環境、そして父と語り合った時のことを思い出して涙してしまった。
しかし後味の良い涙だった。

7



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