見知らぬ人たちも、みんな急いでいたようだった。
そこは、エレベーターの中。
扉が完全に閉まりかかったとき、一人のおじさんが乗り込もうとしているのが目に入った。
ボタンの近くにいた女性は、おじさんを乗せるためにエレベーターの扉を急いで開けた。
優しいね。
よしよし。
無事におじさんが乗り込んでドアがすっかり閉まりかかったとき、ドアのすぐ近くにはおばあさんの姿が。
また、ボタンの近くにいた女性は、おばあさんのために扉を開けた。
うん、優しいよね。
みんなの急ぐ気持ちは、少し柔らかな気持ちになったようだった。
さて、我に返って、女性は急いで閉を押して扉を閉めた。
あとから駆け寄る人々が遠くにいたが、いくら何でもこれ以上待つわけにはいかない。
が、閉まった瞬間、俊足でエレベーターに追いついた青年が、外から△(上)ボタンを押してエレベーターの扉を開けた。
予想外の出来事に、エレベーターの中はわずかなため息。
青年が乗り込んでドアが閉まった瞬間、またドアが開いた。
今度は、俊足で追いついた若い女性だった。
エレベーターの中は、あきらめのため息。
最後に乗った若い女性は、こんな経緯を知る由もない。

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