2021/6/7 | 投稿者: pdo

小島信夫の『漱石を読む』という辞典のようにぶ厚い評論集(水声社)を読むために漱石の『明暗』を読み返し、さらに水村美苗『続明暗』というのも読む。

『続明暗』は、『明暗』の伏線をすべてきれいに回収するような形で、物語をうまくまとめてある。著者自身が「批判を覚悟して書いた」と述べるとおり、漱石の作品の〈つづき〉を書くというのは勇気のいる企てである。だがこの『続明暗』を読んで、これはこれで立派な作品だと認めない者はほとんどいないだろう。そのくらい上手く書かれている。仮に漱石が死んだ後で、これが残された原稿であると称して新聞連載を続けたとしても誰も気づかないのではないか、という位に漱石の文体もうまく模倣してある。

もちろん、穿った目で見れば、登場人物の扱い方などについて、ケチのつけ所というか若干の不満がないわけではない。個人的には、お延が温泉旅館に津田を追いかけていき、津田と清子が滝の傍で立ち話しているところに出くわすまではよかったが、そこからお延と清子の〈女の対決〉が是非見てみたい気がするし、津田と、清子の夫である関の〈対決〉も見たい気がする。それから吉川夫人が本当のところで何を考えていたのかを知りたい気がする。漱石作品の中でドストエフスキー的な雰囲気を最も湛えた人物である小林の言葉ももっと聞いてみかった気もする。それなら自分で書けばいいじゃないか、と言われたら、そんな文才があればなあ…と溜息をつくしかない。

『続明暗』を読んで、自分がその昔、漫画「じゃりン子チエ」のつづきを妄想してト書き小説みたいなのを書いたときのことを思い出した。この小説が作家水村美苗のデビュー作となったというのもまた興味深い。この人の別の小説も読みたくなった。

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