2018/6/30 | 投稿者: pdo



昨日、竜王戦挑戦者決定トーナメント戦で、藤井聡太七段に勝利した増田康宏六段。

昨年の今頃、藤井聡太四段のデビュー29連勝目の相手となり、無数のカメラを背にして、引き立て役に甘んじた悔しさをバネに、見事にリベンジを果たした。

将棋は、「矢倉は終わった」と発言した先手の増田が、敢えて矢倉模様の戦型を選び、藤井が様子を窺いながら組み立てていく展開。

中盤以降、際どいながら増田が指しやすい展開が続き、一瞬、藤井の勝ち筋が訪れたが、それを逃した。以降は勝負手、強手を連発した増田が凌ぎきった。

途中、藤井が指した手を戻して打ち代えるような場面があり、対局相手の増田が反則を指摘すれば、そこで反則負けで勝負あったかもしれない。

しかし、すでに増田が勝ちの局面であったこともあり、増田は敢えて指摘せず指し続ける方針を取った。

万が一藤井が逆転勝ちでもしていたら、何とも後味の悪いことになっただろう。そういう意味でも、増田が勝つべき将棋であったといえる。

この二人は、これから何十年もライバル同士として切磋琢磨していく関係になるだろう。

今後の両者の勝負が楽しみである。

* * *

『師弟』という本の中で、増田と森下の関係が描かれている。

師匠の森下卓も、若い頃は増田に劣らぬほどの天才棋士だった。

勝ちまくり、タイトル戦にも何度も登場したが、不思議とタイトル奪取には至らず、「棋界の七不思議」と呼ばれるほどだった。

当時を振り返って、「本気で(タイトルを)欲しいと思わなかったんでしょうね」と語る森下の言葉には、筆者と同様に、自分も驚いた。

森下の将棋に懸ける情熱の深さ、猛烈な努力を知らぬ将棋ファンとていなかったからだ。

「自分には、谷川や羽生ほどの『本気さ』がなかった」と、達観したかのように語る森下には、弟子の増田に対して、自分と同じ道を歩むことへの仄かな危惧さえ感じられる。

森下は、小学四年生の増田少年の棋譜を見て驚愕し、迷わず弟子に取った。

増田のずば抜けた才能を森下は深く理解していた。自宅での研究会に呼び、指導対局を重ねた。
師匠が弟子に直接指導することは、この世界では滅多にないことだ。

森下は、将棋一本に打ち込むことの重要性を増田に説いた。修業時代に気持ちが他のものに向くと、「心に空洞」ができる。それは後からでは埋めることができない。トップ棋士になるためには、空洞は許されない。

「君は、羽生さんを超えるんだよ」と、森下は、増田に言い聞かせた。

増田は、「はい」と頷いていた。

だが、増田は、決して従順なだけの弟子ではなかった。

奨励会では、なるべく記録係を務め、トップ棋士の対局を肌で感じた方がいいという師匠の助言を守らなかった。

森下の指導方針に対し、「師匠の考え方は古い」と反発し、納得できない点は採り入れないという強い態度を見せた。

矢倉の第一人者として知られ、「森下システム」と命名されるほどの師匠の戦法についても、

「矢倉は終わった」と断言し、「森下システムがプロの間で指されることはもうないだろう」とまで言い切る。

この師弟の間には、他の師弟関係の間にあるものとは異質な、ある種の緊張関係がある。

愛情や信頼が欠けているわけではない。選ばれし天才どうしのプライドがそれを上回っているというべきだろう。

増田の才能にぞっこん惚れ込んでいる森下だけに、増田ほどの天才が藤井聡太の後塵を拝していることへの歯がゆさも強いだろう。

本来なら、5年前に、増田が藤井の位置にいなければならなかったのだ、と。

増田は増田で、藤井の才能を認めながらも、自分が負けるわけにはいかないという強烈な自負がある。

昨夜の勝利を、師匠の森下はどういう気持ちで受け止めたのだろうか。

本日は、14時から森下卓九段の対局を、増田康宏六段がアベマTVで解説する。


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2018/6/24 | 投稿者: pdo

最近刊行される将棋関係の書物の充実が著しい。

そんな中でもこれは出色の一冊だ。



谷川浩司―都成竜馬

森下卓―増田康宏

深浦康市―佐々木大地

森信雄―糸谷哲郎

石田和雄―佐々木勇気

杉本昌隆―藤井聡太

これら6組の師弟、12名の棋士の人間模様が生き生きと描かれている。

最後には羽生善治の特別インタビューまでついていて、これも非常に興味深い。

少し長くなるが、感想を述べていきたい。

* * *

谷川浩司―都成竜馬

あの谷川浩司の唯一の弟子が、この都成竜馬四段である。

誰もが認める天分を持ちながら、都成が奨励会を抜けるのに、実に16年の時を要した。

三段リーグでも9年を過ごし、最後は26歳の年齢制限ギリギリで四段になった。

この間、師匠である谷川の苦悩も深かった。会長職という多忙な任務とトップ棋士としての闘いを続けながら、弟子を見守った。

谷川が奨励会に入った小学生の都成に送った、直筆の手紙の写真が収められている。

都成から送られる棋譜のコピーを添削し、プロになるための心得を丁寧に説く厳しい言葉が、谷川らしい几帳面な毛筆の筆致で綴られている。

四段になった弟子に、谷川は自筆の最高級盛上駒を贈った。

史上5人しかいない中学生棋士のうち、弟子を取っているのは谷川浩司だけである。

谷川浩司の唯一の弟子であるというプレッシャーが都成の肩に重く圧し掛かっていたのかもしれない。

都成は、前期の順位戦でC級1組への昇級を決めた。50名の中でわずか3名の狭き門だ。

3名の中には藤井聡太も含まれている。

その藤井聡太と、都成竜馬が、明日、竜王戦トーナメントで対決する。

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2018/6/23 | 投稿者: pdo


もはや「神ってる」としか言いようのない藤井聡太七段、15歳。

前回の記事に書いたAbema超早指し棋戦では、近藤誠也五段と橋本八段を相手に、唖然とするような強さを見せつけた。

昨日の深浦九段との王座戦決勝トーナメントでは、老獪かつ鋭い指し回して、昨年末のリベンジを見事に果たした。

あと二つ勝てば、タイトル(王座戦)初挑戦が実現する。

次の相手は、先日の記事に書いた、斎藤慎太郎七段。

目が離せなくて困る。

7月15日には、いよいよNHK杯将棋トーナメントに登場。

相手は、「介護士からプロ棋士へ」史上最年長41歳で棋士になった、今泉健司四段。


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2018/6/15 | 投稿者: pdo

インターネットでオンライン将棋の自分の対局を動画配信している人たちがいて、見ていると参考になる。

レベルは様々だが、中でも抜群に強いのが、アゲアゲさんというYOUTUBER

信じられないほど強く、見ていて唖然とするほど。

元奨励会三段ということで、納得の実力である。

しかしそのアゲアゲさんでも、奨励会三段リーグは年齢制限で突破ならず、というのだから、プロのレベルがどれだけ物凄いかが分かる。

そんなプロ棋士たちが、持ち時間の極端に短い早指し戦で競い合う番組が放送される。

こいつぁ必見だ。




将棋界に、新たな超早指し対決の幕が開く。AbemaTVは、将棋界初の「永世七冠」を達成した羽生善治竜王の着想から独自のルールで行う「AbemaTVトーナメント Inspired by 羽生善治」の開催を5月22日、発表した。持ち時間は各5分、1手指すごとに5秒が加算されるというもので、羽生竜王も趣味として行うチェスの「フィッシャールール」がベースになっている。1局20〜30分ほどで決着がつく超早指しの「最速・最強」棋士決定戦が、梅雨を吹き飛ばし、夏を暑くする。

 AbemaTVトーナメントは、A組からC組の予選に各4人の棋士が参加。1回の顔合わせで三番勝負を行い、先に2勝した棋士が勝利となる。リーグ戦ではこの三番勝負を2度制した棋士が各組2人ずつ勝ち上がり、計6人が決勝トーナメントに進出する。予選に参加する12人は、先日最年少で七段に昇段したばかりの藤井聡太七段をはじめ、順位戦A級で活躍する阿久津主税八段、叡王戦七番勝負で初タイトルに挑戦中の高見泰地六段ら、中堅から若手まで勢いのある棋士がそろっている。

 決勝トーナメントには、羽生竜王のほか久保利明王将がシード棋士として登場。「早指しは若手有利」と言われる中で、将棋界の第一人者とタイトルホルダーが迎え撃つ格好だ。羽生竜王自身も「初めての試みというところもありますし、どういった反響というか、反応が返ってくるのか楽しみです」と意気込んでいる。

 いきなり藤井七段が登場する予選A組の放送は6月17日(日)午後8時から。以降、毎週日曜日の午後8時に予選を計6回、決勝トーナメントは計7回、放送の予定。超早指しながら、勝負どころのために素早く指して時間を貯め込む戦術も見られそうな今回の対局企画。1手1分も見逃すところはなさそうだ。

◆羽生善治竜王(永世七冠)のコメント 「早指しの『棋戦』というのは公式戦でもあるんですけど、それをもっと速くというのは、なかったというのもあります。10代の頃だと、一手10秒とかで対局したり、あるいは5分切れ負けでやったりとか、あるといえばあるんですけど、切れ負けにしてしまうと、単なる時計の叩きあいになってしまうので、将棋の要素を最後まで残しながら早く指して、それがファンのみなさんに楽しんでもらえるようになってくれれば。初めての試みというところもありますし、どういった反響というか、反応が返ってくるのか楽しみです」

◆予選A組 橋本崇載八段、藤井聡太七段、三枚堂達也六段、近藤誠也五段

◆予選B組 山崎隆之八段、増田康宏五段、佐々木大地四段、大橋貴洸四段

◆予選C組 阿久津主税八段、永瀬拓矢七段、佐々木勇気六段、高見泰地六段

◆シード棋士 羽生善治竜王、久保利明王将
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2018/6/8 | 投稿者: pdo

日本将棋連盟は8日、東京都内で通常総会を開き、東京都と大阪市にある将棋会館が老朽化してきたため、「会館建設準備委員会」の発足を決め、委員長に第一人者の羽生善治二冠(47)が就任したと発表した。

 同委員会のメンバーには将棋連盟専務理事の森内俊之九段(47)、中村太地王座(30)、久保利明王将(42)らが入った。東西の会館は建設後、共に約40年が経過。建て直すか、賃貸にするかなど白紙の状態で今後、話し合いを重ねていくという。





将棋会館建て替え問題については、羽生さんには前に苦い経験がある

今この役割を引き受けたということには、いろいろと思うところがあったのだろう。

自分の父は、大山康晴名人による、現在の将棋会館設立の資金作りに協力して、高級(?)将棋盤を購入したらしい。

ならば、自分も、羽生さんと素晴らしい棋士たちのために、できる限りのことをしなければなるまい。

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東京将棋会館が建ってから20年以上が経ち、あちこちが傷み出した。そこで、大掛かりな修理をするか、いっそ建て直すか、という話が出た。

大問題であるから、例によって審議委員会がつくられた。中原誠が委員長で、羽生など上位棋士が委員として加わった。

このとき羽生は、将棋界の実質的な代表者になったのだから、運営面にも関わらねばならぬ、との使命感を強く持った。そして、この問題を真剣に考えたらしい。

建築について勉強し、一級建築士や会計士などにも助言を求めたと聞く。そして、建て直すべきとの結論を得て、試案をまとめた。それを見た先崎学によると、考えられぬほど完璧なものだったという。

委員会も羽生案を答申しようという空気だった。自信を得た羽生は、東京だけでなく関西でも、若手棋士たちとの集会を開き、試案を説明し、賛成を得た。

そうして、棋士総会で羽生案が採決されることになった。念を入れて、総会当日の午前中に、鳩森神社で羽生案支持の若手棋士たちを集めて、意思を確認した。

午後から棋士総会が開かれ、いよいよ「将棋会館建設」についての採決が始まった。

理事会が示したのは、(1)新将棋会館を建てる、(2)5年様子を見る、(3)10年様子を見る、の三つからどれかを選ぶ、という投票方法だった。建て直すか、やめるか、白か黒かとは言わないで、三者択一にしたあたりが将棋指しらしいやり方である。

投票結果は大差で、(3)10年様子を見る、だった。

その結果は仕方ないとして、驚いたのは、羽生案に対する支持が、予想をはるかに下回ったことで、感じとしては、支持すると確約した棋士の半数が裏切っていた。…

羽生には大ショックだっただろう。これ以後、運営面に関わろうとはせず、若手棋士たちともつき合わなくなった。棋士総会には顔を出すが、それも中途に来て、すぐ帰ってしまったこともあった。

ともあれ、将棋界はあのとき、いちばん大切な人のやる気をなくさせることをしてしまったのである。それがどれほどの損失か、反対票を投じた若手棋士たちはわかっていない。

私の若手の将棋を見る眼は、このときから変わった。

(『盤上の人生、盤外の勝負』河口俊彦 による)
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