2017/1/5 | 投稿者: pdo

正月にCSのファミリー劇場で『あまちゃん』一挙放送をやっていて、さすがに全部は観れなかったが、所々流し見るだけでも思うところが色々とあったので忘れないうちに記しておく。

『あまちゃん』の放送期間は、2013年4月1日から9月28日にかけて。放送開始から、もうすぐ4年が経とうとしている。

主演の能年玲奈は、番組放送中の2013年7月13日に二十歳の誕生日を迎えた。ユイ役の橋本愛は、1996年1月12日生まれで、当時なんとまだ十七歳だった。若春子役の有村架純は、能年よりちょうど五か月年上の2月13日生まれ。

今見ても、いちいち新鮮で面白い。この数年見返す機会はあまりなかったのだが、セリフや場面のほとんどを覚えていることに自分でも驚いた。しかし構成が巧みなので次の展開が分かっていても笑ってしまう。宮藤官九郎の脚本はまさに「神ってる」としかいいようがない。

この脚本を輝かせていたのが言うまでもなく演者の素晴らしさで、渡辺、木野、吹越、古田らの個性的な劇団出身者のエネルギーが良い方向で爆発している。

物語の実質的な主人公小泉今日子とその母親宮本信子のやりとりも、どちらにも感情移入できる絶妙なものだった。女優鈴鹿ひろみ役の薬師丸ひろ子も・・・などなど、挙げていくときりがないのでやめる。

今回改めて思ったのは、『あまちゃん』がAKBのパロディーをやったことによって、本物の方に引導を渡してしまったのでは、ということだった。2013年あたりを境にして、AKBの魅力が急速になくなっていったように思うのは自分だけだろうか。僕はあれ以来秋元康が太巻にしか見えなくなってしまった。

『あまちゃん』は、パロディーの宝庫だった。フェイクをフェイクと知りつつ楽しみながら演じるというやり方で、それ自体が「NHK朝のテレビ小説」というもののパロディーだった。

パロディーを演じることができるのは、本当に醒めた目を持った人間だけだ。本気でないことを知りつつ本気を演じることができる、あらゆるものを相対化できる視点を持つ者だけだ。

天野アキという主人公は、ニセ東北人であり、アイドルのパロディーであり、朝ドラヒロインのパロディーのような存在だった。それまでの朝ドラのヒロインというのは、新人か若手の売出し女優が、定型的なドラマの枠の中で、まだ拙い芝居を懸命にやってみせるというイメージがあった。

しかし、天野アキは、百戦錬磨の役者たちの間で、彼らに一歩も引かず、むしろ全体をけん引するようなパワーを持って、乱暴ともいえる輝きを放っていた。しかもそこには人間的な汚れを感じさせない野生動物のような眩しいほどの純粋さが同居していた。

僕はあの頃、毎朝驚嘆しながら能年玲奈を見つめていたものだ。なんでこんなに可愛いんだろう、この輝きは奇跡ではないか、と信じられない思いでテレビ画面を凝視していたものだ。

それでこの正月に『あまちゃん』の再放送を見て、同じ感覚に襲われたのだった。

『あまちゃん』以降は再び朝ドラを見なくなってしまったが、これほどのエネルギーを感じさせる朝ドラ作品が『あまちゃん』以降にあったとは思えない。あれは台風の襲来のような半年間だったのだ。

能年玲奈以降、朝ドラのヒロインを演じる女優は、すでにある程度名の知られた実績ある若手女優ばかりになってしまった(杏、吉高由里子、土屋太鳳、波瑠、高畑充希)。彼女たちには安定したオーラは感じるが、新鮮な驚きというものはない。

そんなわけで、以前購入した『あまちゃんメモリーズ』(文芸春秋社)という本を久しぶりに引っ張り出してきた。



これはすごく力の入った一冊で、NHKのスタッフがつくった公式本とは違い、主にファン目線から、全156エピソード完全レビューも含めて、かなり掘り下げた内容となっている。

記念メッセージには、片渕須直監督のコメントも掲載されていることに、今回読み返して気づいた。

さらに、あまちゃん関連本としてはほとんど唯一、滝沢充子氏のインタビューが収録されている。

この本の表紙は有村架純であり、能年玲奈がイラスト以外に登場していないことは不自然な感じを受ける。昨年の紅白歌合戦で感じたのと同じような違和感だ。

有村架純は、『あまちゃん』で知名度が上がり、その後は、数多くのドラマや映画に出演している。来年度の前期連続テレビ小説『ひよっこ』ヒロインも決定している。いわば、表街道を驀進中といったところ。

一方の能年玲奈は、『あまちゃん』以降は本当に苦節というしかない年月だった。

この正月に『あまちゃん』を心落ち着けて見ることができたのは、言うまでもなく、2016年後半の「のん」の活躍があったからだ。

6月末に事務所との契約が終了し、7月に「のん」と改名すると公表したときには、思わず「大丈夫なのか?!」と衝撃を受けつつ心配したものだが、半年を過ぎた今となってはすっかり「のん」という名称が定着してしまった感がある。『この世界の片隅に』の成功という幸運(強運)があったとはいえ、この力技を実現したのはやはり只者ではない。

それにしても、2013年9月に『あまちゃん』が終了してから前事務所との契約が終了する2016年6月まで、より正確に言えば、2015年4月から2016年6月まで、よく心が折れずに耐えることができた。その精神力は真の尊敬に値する。

将来彼女の伝記が書かれるとするなら、この「空白の年月」はある意味で最も興味深い章となるだろう。人間の真価は逆境でこそ問われる。そして彼女の場合、純粋な精神を腐らせることなしに、あの瞳の輝きを保ったまま、苦難を体験した者のみが備えることのできる高貴さをも獲得して戻ってきた。

2017年は「のん」の完全復活の年となるだろう。不当にも彼女を無視してきた在京民放テレビをはじめとするメディアですら、その絶大な存在感を認めざるを得なくなるだろう。彼女なら、『あまちゃん』と『この世界の片隅に』に次ぐ、第三の奇跡を起こせるのではないかと期待している。


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