2008/1/29 | 投稿者: pdo


改めて昨夜の『オジサンズ11』でのトークを見返してみると、あの緊迫した短い時間に鳥居みゆきのフリートークのエッセンスが詰め込まれていることが分かる。

嵐のような単独コントが終わり、他のアナウンサーたちが不気味なモノを見るように完全に引いてしまっている中で、ひとり鈴木史朗アナが正面からみゆきと対話を試みた。まず、その意気に感銘を受ける。

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しかも、彼は、いきなり

「君は般若心経についてどう理解しているのか?」

という、他のタレント芸人には絶対にできないテーマを設定したのだ。ここに鈴木史朗の偉大さがある。

僕の勝手な妄想によれば、鈴木史朗は、スタッフからあらかじめ手渡された鳥居のプロフィールを熟読し、敢えてあの切り口を選択したのではなかろうか。

鈴木史朗は、かつて同番組に出演した藤崎マーケットに対して、ほかのメンバーが盛り上がる中、ただ一人笑わず「(君たちには)知性のかけらもない!!」と一喝し、ムーディ勝山が「右から左へ受け流すの歌」を披露した際には「発声から練習し直しなさい」と説教したという過去を持つ男である(Wikipediaより)。

その鈴木史朗であるから、「趣味は瞑想と般若心経」などとうそぶく女芸人に対して、大上段から禅問答を仕掛けることで、その薄っぺらな化けの皮を剥いでやろうという意地悪な下心もあったのかもしれない。

この剛速球に対し、般若心経についてどう思うかというフリを受けたことなどかつてなかったに違いない鳥居みゆきもさすがに返答に窮するかに思われた。

しかし、むしろ、こういう状況こそが鳥居みゆきの本領発揮の場なのである。いきなり彼女の天分が炸裂する。

「私は、電話して、メモしているとき、般若心経を書いています」

この意外な答えを受けて、鈴木史朗は困惑しつつもなお食い下がる。

「あなたは般若心経をどういう意味でとらえているのか?」

俺はナンセンスな答えなど受け付けない、という強い意志を感じる。

みゆきは答える。

「私は、書きいいな、と思って」

この答えが瞬時に繰り出せる芸人は、現時点では鳥居みゆきを除けば板尾創路くらいしかいないだろうと思う。あっさりと答えているように見えるが、これは神技レベルのボケである。
(僕は昨夜から外出先でこれを思い出すたびに腹筋が割れそうになる)

さすがに理解の範疇を超えた返答に思わず絶句する鈴木を見て、みゆきはとりあえず般若心経から離れようと、

「違う? 違うかそりゃ!」

と自己収束を図る。

しかし、

「難しい漢字がいっぱいありますよ」

と、なおも引っ張る鈴木史朗。彼はみゆきから般若心経について何か意味のある言葉を引き出すまでは決して諦めようとしないように思える。これも他のタレントには出来ない芸当である。

何かを見かねたのか、ここで山中アナが「二人の息が会っている」と茶々を入れる。
これにすかさず反応したみゆきは、

「初めてお父さんに会えたような気がする」

とボケる。

カンニング竹山には「うまが合わない」で押し通したみゆきが、若い女の子に弱いオジサンたちの発する空気を読んで、新たな“媚び笑い”のパターンを繰り出したのだ。地上波で禁じられた木下さんネタの領域に踏み込むつもりか? 僕は思わず身を乗り出した。

だが、この話を膨らませることを拒絶した鈴木史朗は、周囲の雑音がまったく聞こえなかったかのように、般若心経についてさらに哲学的な思想を語り始め、みゆきに禅問答を仕掛ける。

「すべては空(くう)である! 空にあって空にない、分かりますか」

鈴木史朗はもしかしたら、鳥居みゆきのシュールな芸風の中に、般若心経の思想と相通じる何かを見出したのかもしれない。その仏教的卓見をこの未熟な芸人に伝えたかったのかもしれない・・・そこまで思わせるほどのこだわりようである。

確かに『妄想葬儀』というネタの中で般若心経を諳んじている鳥居みゆきではある(もしかして鈴木史朗はこのことを知っていた?)。小3でクリシュナムルティの本を読んでいたという鳥居みゆきだから(アエラの記事より)、哲学的な話にも十分ついていけそうではある。しかし、ゴールデンタイムのバラエティー番組の中で延々と仏教問答をするわけにはいかない。

ここでは、常識の代表者であるべきベテラン・アナウンサーが、場にそぐわない無謀な論戦を仕掛け、非常識の代表者であるべきカルト芸人が話の筋道を正常な方向に引き戻そうとしているという逆説的な現象が生じている。

そして、相手が、どう考えても発展性のない話題にこだわり続け、場が膠着しそうになったとき、並の芸人であれば、「すみません、あなたのおっしゃることはよくわかりません」とでも言って受け流すことで、笑いにつなげつつ転換を図るのだろう。というか、それしかない。

みゆきも、もちろんそうした。しかしそこに

わたし食べ物のことよく分からないんで

という一言を付け加えることができるかどうかが、他の凡庸な才能とみゆきとの違いだ。

鈴木史朗はこの答えにうーんと唸った後で、意外なリアクションを返す。

「『空=喰う』か・・・人間らしい!」

と言って、納得したかのように膝を叩いたのだ。

鈴木史朗は、出口の見えない般若心経トークにまるであらかじめ打ち合わせされていたかのような綺麗なオチをつけたみゆきの妖刀に、しっかりと切られてみせたのである。

僕は思わず感嘆の声を上げずにはいられなかった。

しかも、この絶妙のフリートークには、素晴らしいおまけがついていた。

「(彼女は)新しい人種ですね」

と思わず本音を漏らした鈴木史朗に対して、みゆきは

「お互いそうですね」

とねぎらってみせたのである。これは、笑いの女神に愛された異才鳥居みゆきに対して、大胆にも今までになかったパターンで挑んできた傑物アナウンサー鈴木史朗への賛辞と受け取るしかない。

名人は名人を知る、という言葉が現実のものとなった偉大な瞬間であった。

そして、この二人の天上人による火花散らす会話を、周囲の凡庸なオジサンたちはただ呆然と眺めているしかなかったのである。


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タグ: オジサンズ




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