涼宮ハルヒの憂鬱に関するある解釈―――それはつまり「
キョンは黒幕である」ということ。
このことを述べるには、まず
アガサ・クリスティー著「
アクロイド殺し」に言及する必要があるでしょう。
ネタバレを含みますので、今後読む予定のあるかたは見ないほうがいいんじゃないっかなー
「アクロイド殺し」ではその文章の全てが、
名探偵ポアロの
助手である、
シェパード医師によって綴られます。
つまり「手記」というかたちで、捜査内容や館の容疑者の内面心理の推測など、全てがシェパード医師の第一人称「
私」で語られるのです。
ところが、ポアロが最後に言った言葉―――
「
犯人は貴方ですよ。シェパード先生」
そう、犯人は文章の語り手であるシェパード医師だったのです。
本作は推理小説界に大いなる衝撃をもたらしめ、現在に至るまで激論が交わされました。
「
読者に対するトリックは、探偵小説作家として許される策の範囲内であったとは言いがたく、ポアロの仕事ぶりは流石と思わせる部分もあるが、その効果も結末で台無しになっている。」
―――S・S・ヴァン・ダイン
「
本作は離れ業的傑作である。ヴァン・ダインによる批判は、巧妙に一杯くわされた時に人がいだく自然な苛立ちを物語るにすぎない、とは言えまいか。必要なデータは全て与えられている。結局読者はたえず注意を怠らず、完全なる探偵と同じようにあらゆる人物を疑ってみるべきなのである。」
―――ドロシイ・L・セイヤーズ
結局、シェパード医師の文章(つまり読者の我々が読む文章ですが)は一部改ざんが加えられており、我々一般読者の98%は犯人を当てることができないのです。
まあ、それでも推理するのに十分な情報が与えられていますから、一部の勘の鋭い読者は疑ったかもしれません。(ちなみに私は、シェパード医師の姉のキャロラインを疑っていました)
本題に戻ります。キョンは意識的にせよ無意識的にせよ、「
願望を体現する能力がある」ということ。
現に言ってましたよね。
「
俺だって宇宙人や未来人や超能力者や悪の組織やそれと闘う正義の味方の存在を願わなかったわけじゃない」
そう願ったから、朝比奈みくるや長門有希や古泉一樹がいる―――。
では「
涼宮ハルヒ」の存在はどう説明するのか。
簡単です。キョンは昔から「
変な女」が好きなんです。
キョンの「こんな女がいてくれたら」という願望の究極体が「涼宮ハルヒ」なのです。
さらに、古泉がキョンに「貴方は普通の人間です」って言いますよね。
古泉はキョンの正体に気付いていたかもしれない。しかし隠した。
それは、キョンが気付いてないとしたら、告白することで何の利益も生み出されないし、そう思い込ませることで事態の悪化を未然に防いだと説明できます。
あれだけ共に行動していて、涼宮ハルヒが事の異常さに感づかないのは無理があります。あんなに毎回うまく隠し遂せるはずがありません。
となれば、全てを知っているキョンこそ最大の容疑者である、という見解もその存在を否定することは何者にもできないはずです。
もちろん同時に矛盾点も浮上します。
なぜキョンは朝倉に命を狙われたのか、という点。
これはこういう理論で弁明できます。
【朝倉涼子は始めからキョンを殺そうとしていなかった】―――
キョンに、自分が死んだときハルヒが絶望する姿を想像させ、大きな情報爆発を観測しようとした。また、生命の危機に瀕したとき何らかの覚醒を期待したものと思われます。
この『涼宮ハルヒの憂鬱』に関しては様々な議論が交わされています。「全てはキョンの見ている夢」という説が最も多数派らしいですが、それでは興ざめですよね?夢オチなんて・・・。

